虎口を逃れて竜穴に入る
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少しでも楽しんで頂けば幸いです。
「はぁああ」
あれ以降溜息をつく回数が増えた。同じ会社の人に自身の趣向を言ったのも、その姿を見せたのも初めてだった挙げ句、蓋を開けてみれば最悪の結果となっていた。うまくはいかないと思っていたのにも関わらず、ほんの少しの可能性に賭けてしまった自分を猛省する日々。まあでも、ありがたい事に、あれから会社で顔も会わせていないので、それだけが救いだ。だが、あの日から仕事に身がはいらない。これではいけないと理解している。が、かなりの痛手をおってしまった。
(かなりの代償だな本当……)
そして再度深い溜息をつく。その時だった。鷺森係長が自分の名を呼ぶ。いきなりの事で一瞬それに答えなかったが、再度呼ばれ慌てて係長の所へ向かう。するといつもの様に自信なさげな表情でこちらを伺う。
「すいません。仕事中に」
「いえ。それでどうしました係長」
「は、はい。この前のプレゼンについての経緯の資料でして、総務にこれを持っていってくれませんか?」
「はあ……」
明確なパシリであるが、少しの気晴らしにはなる。まあ、川蝉と顔を会わせる可能性がゼロではないが、営業部門とそう時間帯が合うとも思えない。
(まあいいか)
自分は申し訳なさそうな表情を浮かべる係長に笑みを浮かべて見せた。
「わかりました。ちょっと行ってきます」
そう言い、彼から書類を預かり、その足で総務に向かう。やはり研究室と違い、人も多く活気がある。ほぼ無言で研究に没頭している自身の部門とは明らかに違う空気だ。そんな事を思いつつ、総務に書類を渡し、研究部門に戻ろうとした時、遠くから聞き覚えのある声が自分を呼び止めた。
その声に一瞬体が硬直するも、恐る恐るその方へと視線を向ける。すると、威圧感オーラを振りまきながら、菊上本部長がこちらへとやってきたのだ。自然と顔が強ばる中、彼が自身の目の前へと立つ。
「丁度良かった芹沢。少しいいか?」
「…… はい」
(断れるわけないだろうーー)
胸の奥で絶叫をしつつ、彼の後をおずおずとついていく。そんな自身の事など気にする事なく、菊上は自身の机まで戻る。一瞬その部署に足を踏み入れる事を躊躇したが、断腸の思いで室内に入ると、ほぼ社員はいない。その状況に胸をなで下ろしつつ、自分は本部長の机の前へと立った。すると、菊上はこちらに視線を向ける。
「この前の再プレゼンお疲れ様」
「い、いえ。こちらこそ意向を聞いて頂き、ああいう機会を設けてもらってありがたかったです」
「で、そのプレゼンの件でだが、ある企業の新製品プレゼンが開催されるらしいのだが、君達の企画がその企業の求めるニーズに合致してな。そんな背景から、君達の企画をそれに参戦させる案が浮上している」
その言葉に目が見開き、思わず身を乗り出す。
「そ、それはっ。決定ではないんですよねっ」
「本決まりではないが、ほぼその流れにはなるだろう」
「い、いや待って下さいっ。あくまでも社内プレゼンという話の企画であって、それを外部のプレゼンになんて…… 飛躍しすぎっといいますか……」
「確かに当初はそう言う話ではあったが、君達のプレゼンはよくできていた。それを踏まえ社内でボツになったとしても他で活かせれば君達もやった甲斐があったという事ではないのか?」
「そ、それはそうですが…… じ、自分それこそ先日のプレゼンが初めてだったもので、それを他社でやるにはハードルがっ、た、高いと言いますか……」
「うん。川蝉はそのあたりは経験済みだが、君はそうだろうな。まあ、その状況もあるので、君には先に話し、数日考えて貰いたいんだ」
「では、辞退っ」
「直ぐの回答は不問だ。その期間に前向きな思考にシフトを変えるようにしてくれ」
「……」
言葉が出ない。これは明らかな決定事項であり、自分自身どうすることも出来ない範疇に入っている。
(どうしたら良いんだ)
手だてが浮かばない。ただただ混乱する自分は呆然と立ち尽くす事暫し。背後から足音がした。その直後だ。
「やっぱ室内涼しいーー」
その声に体が硬直する。
「川蝉。丁度良かった。お前も来てくれ。今、芹沢にも先に話していた所でな」
「…… は、い」
確実に先のテンションとは明らかに違う声色である。そんな彼の足音が、徐々に近づく。それと共に、自分でもわかる程に血の気が引いていき、全ての感覚が一気に失われていく。そんな自分の変化に菊上も気づいたらしく、自身の名前を呼ぶ。
「どうした? 顔色が悪いぞ」
「い、いえ大丈夫です。と、とりあえず数日考えさせてください。失礼します」
「お、おいっ、芹沢!!」
菊上が声を上げる。だがそれには答えず、そそくさとその場を後にした。本当なら本部長にあんな態度をとるべきではないと理解している。だが、それ以上にあの場所にいたくなかったのだ。早足で自身の部門に戻るが為、足を進める。しかし、暫く行った所で、彼の声を思い出す。戸惑いが混じったあの反応……
すると、胸の奥に針が刺さる様に疼き思わず足を止める。気か付けば自身の部門の入り口が見え、廊下には誰一人いない。先とは違い静かな廊下。そんな空間で、ゆっくりと背中を壁に着け天井をみやげしゃがみ込む。
「何でこうなるんだよっ」
小声で吐いて捨てるように呟きながら、思わずそこにうずくまった。
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