雨
遊びに来てくださりありがとうございます。
少しでも楽しんで頂けば幸いです。
「何だか嬉しそうですね」
「わかりますか、くるみさん」
月一にくるみとして川蝉に会う日。今日で3回目であり、今夜の彼は頗る上機嫌だ。その理由を自分は知っている。
先日自分が本部長に自己談判にいった件が通り、昨日選考結果発表の席でプレゼンをやらせてもらえたのだ。自分も要望が通ると思ってもいなかったので驚きもあった。が、それよりも印象深かったのは川蝉の喜び様であり、これで彼が今回の件であんな表情をしなくても良いと思うとこちらも嬉しい。それに性根を据えた行動が実を結んだ事が自分にとって少しばからではあるが、自信にも繋がった様な気がする。
そういう背景もあり、彼の嬉しさがいつも以上に伝わり、思わずこちらもいつもより笑顔を浮かべてしまう。そんな中、川蝉の話は終わらない。
「いや今回プレゼン凄く手応えあったんです。でもそれが叶わなくて。俺本当ここ数年味わったことなぐらい落ち込んで。でも一緒に組んでくれた人が、上司に自己談判してくれて、プレゼンできるようにしてくれたんです。俺それがめっちゃ嬉しくて。選出されればそれはそれで嬉しいですけど、やっぱりやってきた事が日の目みないって一番辛いじゃないですか」
「そうですよね。せっかくあそこまでやったんですから」
「うん? 俺、経緯とか話ましたっけ?」
「いえいえっ、ただこれだけ川蝉さんが熱弁するので、凄く力を注いでいたんだろうなってっ」
「ええ。そうですね。今回のプレゼン作業は面白かったし、やりがいありました。まあでも、一番は一緒に組んだ人がすげー人だったて事かな」
「えっ、そう、そんなっ、んですか?」
「ええ。俺とはタイプ真逆っぽい人ですけど、研究部門の人だから物静かで、俺とはまた違う知識があって、話が面白いっていうか。それなのに、今回上司に自己談判って。その上司ってめっちゃ怖いって有名な人で。まあ俺は同室に居たり、絡みもあるんで今は平気なんですけど、最初のうちはやっぱ怖くて。そんな彼にほぼ初対面なのに掛け合うって凄くないですか?」
「そ、そうですね」
何だか自分だと知らないとはいえ、はやり気恥ずかしい気持ちと共に、そんな風に思ってくれていたのだと嬉しくなる。その反面、素性を隠し、彼の本音を聞いている身分として、このままでいいのかという感情に襲われる。何も知らない関係性だからこそ彼がここまで、心を許し話してくれているのに、自分自信はこの状況のままで良いのであろうか? そんな思いが過る中、尚も熱弁を振るう彼の姿を見つめる。
(…… このままで良いわけないよな)
彼にはちゃんと話すべきなのだ。今まで川蝉の側にいたのだ。今この場所にいる人が自分である事を告げても、彼はきっと自分を受けれてくれるだろう…… それ以上に彼に嘘をつきたくはないし、本当の自分を知ってもらいたいのだ。そんな意志を固めた所で、時間も押し迫り次の約束をし、店を出る。そして彼と別れる寸前。川蝉を呼び止めた。
「どうしました?」
「あの…… 実は、その……」
「くるみさん」
「芹沢なんです」
「は、い?」
「自分、趣味でこんな格好してますけど……」
「ちょ、ちょっと間って下さい。確かに芹沢とは昨日も前一緒でしたがっ」
慌てふためくのも無理はない。
「…… Instagramに映えるドリンクキットと言えば理解してくれますか?」
その言葉に一気に押し黙る川蝉を見つめ、言葉を紡ぎ出す。
「あの時、最初に助けて貰った時は、川蝉さんが同じ会社で、ましてや組んで仕事をすると思っていなくて。しかもこの格好の自分に何回も会ってくれるとは思ってなかったんです。でも自分、川蝉さんといつもの格好だとうまくしゃべれなくて。で、この格好だと自分じゃない感じがして、自然と会話が進むっていうか。でもそんな状況を川蝉さんは知るわけもなくて…… 騙しているみたいで凄く嫌だなって思ったんです。だから言わなきゃって……」
すると彼は今にでも泣きそうな表情をしたかと思うと、作り笑いを浮かべたのだ。その時、選んだ選択を間違えた事に気づき、目を見開く。すると彼は下を向いた。
「そ、っかははは。芹沢さんだったんだ。そっかーー」
そう言うと、彼は踵を返し歩いて行く。
「あっ、あのっ」
思わず自分が声を上げたると、数歩進んだ所で川蝉の足が止まる。そしてゆっくりと振り向く。
「じゃあ。また今度。芹沢さん」
そう言った彼の顔が見えない。どんな表情を浮かべていたのか…… 涙を浮かべた自分の瞳にはとらえる事が出来なかった。
「すいません。お会計を」
「かしこまりました」
いつものバーで数杯のカクテルを呑む事二時間。いつもの待ち合わせに彼は訪れる事はなかった。あれから会社で会うこともなく、いつものたわいもない生活に戻っている。本当は今夜もきっと彼は来ないとわかっていたのにも関わらず、足が自然と向かってしまった。
(まったく女々しいな)
そう思いつつ、店を出ると、雨が降っていた。
思わず回りを見渡す。またいつかの様に彼がここに雨宿りに駆け込んでくるのではないかと。だがそんな人影は現れる事はなく、シトシトと雨は降り続けた。そんな雨粒が落ちる空を見上げる。
「流石に…… 奇跡は起きないか」
思わず呟くと共に、唇を強く噛みしめた。
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