足元から鳥が立つ
遊びに来てくださりありがとうございます。
少しでも楽しんで頂けば幸いです。
(マジで気が重い……)
昨日任命を受けた、プレゼンに関しての説明が午後から行われるという事で、会議室で待機している状況である。周りは、談笑する社員も見受けられ、思っていたより和気藹々といった雰囲気だ。が、自身にとっては見たことも話した事もない人ばかりであり、今の自分では話しかける勇気もない。
(まあわかっていたことだけど)
思わず溜息をつく。その時、発案者であろう会社の上層部の人間が数人室内に入って来た。すると、今まで談笑していた面々が瞬時に話を止めると上層部の一人が一回咳払いをした。
「お疲れ様です。今回は急な企画に参加頂きありがとうございます。企画本部長菊上正治です」
その言葉に思わず顔が引きしまると共に、斜め後ろに座った社員の小声が耳に入る。
「菊上本部長って、怖いって有名の人、だよな?」
(はい。社内の噂に疎い自分の耳にもそれは聞いた事があります)
実際に顔を見たのは初めてだが、キリっとした顔立ちで、スリーピースのスーツをキッチリと着こなした上に板についている感が凄い。そんな外見からして、完璧上司といった雰囲気が滲む。
(やっぱり噂に上がるだけの事はあるな)
彼から醸し出されるオーラだけで怖気づきそうになる中、菊上の話しは続く。
「ある程度の内容は各々の上司やファイルで承知しているかと思うが、今回は初めての試みの為、企画者、プレゼン側双方手探りではある。が、せっかくの事だ。実りあるものにしたいので、よろしくお願いします。では今回、一緒に組んでもらう部門をくじ引きで決めます。前に来てこの箱から引いてください。番号が書いてあるので、その書いてある番号が椅子背もたれに貼ってある席に座り直して欲しい。ここまでで質問は?」
暫くの沈黙の後、彼はデスクの上に箱を置く。
「特にないようなので早速引いて下さい」
その言葉に、自分含め社員は次々とくじを引く。そして自身も引くと運悪く本部長の目の前の席に座る事となった。出来れば後ろの方が良かったのだが、そんな事は言えるわけもなく、黙って着席するも室内の社員が着席した所で自分の隣だけ空席だと言う事に気づく。背もたれにも数字は貼ってある。どういうことなのであろうか……
(よもや、自分だけ一人でやれと?)
一気に血の気が引くと共に、嫌な汗が出てきた。その時ドアが勢いよく開けられると、息を切らしながら男性が飛び込んできたのだ。
「セーフ!!」
「いやアウトだ」
即答する菊上の声に部屋に居た自分含めた社員は絶句するも、言われた本人はそんな事はお構いなしといった感じで顔を上げた。その瞬間鼓動大きく跳ね上がると共に、急速に心拍数が上がっていく。そんな中、遅れてきた人物は、深い溜息を吐く。
「許して下さいよ。これでも全力で営業先から戻ってきたんです、菊上本部長」
「では顧客が関係しているという事で1000歩譲るとして、今の入室は問題点しかない」
「そんなーー」
「とりあえず、皆を待たせているんだ。席は前列の空席だから速く座れ」
その言葉に促されるように空席へと歩んでいく。自分はそれを目で追い、そのままの形で見上げた。彼は未だに少し息が上がる中、少し赤らました顔に笑みを浮かべる。
「すいません。遅れちゃって。営業2部川蝉博巳です」
そう挨拶をすると彼は椅子に座ると、いつもの調子で話始める。勿論主導権は川蝉だ。
「へえー芹沢さん俺と同期の研究部門の人なんだ。結構営業って肩書きだから社外もそうだけど社内でも他の部門に顔出す事あるんですけど、研究部門には行った事ないですね」
「自分は…… ほぼ無いもので、その…… 迷惑をかけるかもしれないんですけど」
「迷惑なんて。そんな事ないですよ。それより、短い間ですけどよろしくお願いします」
「は、はい。よろしくお願いします」
朝あることは晩にあると言う言葉があるが、それを身をもって感じる今日この頃…… だとしても素の自分の姿で川蝉と会社で会っている状況に、どうにも気持ちが落ち着かない。まあ雰囲気的に自分が『くるみ』である事を彼は気づいていない様なのでそれは自分とっては有り難い事だ。ただ自身の蚤の様な心臓には非常に堪える。そのうち趣味がバレてしまうのではないかと……
そんな戦々恐々する自分とは裏腹に彼は、最初に出会った雰囲気そのままに空いた時間をみては、研究部門へと足を運んでくれるのだ。川蝉曰く、高校生以降手に触れる機会のなかった器具を使った開発が面白いと言う。そんな彼はプレゼン発表前一ヶ月になる今日も研究部門に来て、試験管を覗いていた。
「芹沢さん。これってこの前見せて貰った液体ですか?」
「はい。巷ではバタフライピーとかで知られていて。酸性の物質、例えばレモンとかを入れるとピンクに変色します」
「うんうんそれ。何回見ても面白いんだよね」
そう言い、レモン果汁を垂らす川蝉は、ピンクに変色していく液体に感嘆の声をあげる。
「やっぱりいいね。絶対映える!!」
満面の笑みを浮かべつつ、試験管を見つめる彼の姿が小さい子供が楽しんでいるように自分には写り、思わず笑みを溢す。
というのも、このハーブティーが今回のコンペで推すメインの代物であり、Instagramに映えるドリンクキット(仮)という事でコンペに発表することにした。これ以外にも光るドリンクなどもラインナップにいれている。
まあ、今まで自分も食育玩具関係で手がける事が主だった為、大人よりの商品を提案するのは初めての試み。また彼自身も商品開発を手がける事はなかった様でそれぞれに悪戦苦闘はした。が、やはり川蝉の凄い所は、臆する事なく何でもするし、聞く。そんな彼が足繁く通うのだから、いつも話しなどしない研究部門の社員と話す彼の姿を見る事が増えてきている。
(まあ良い事なんだろうな)
それにこれも想定内の事なのだが、社内でも彼は有名らしく、彼の部門に足を運ぶ際、社内の女性に声をかけられた。何事かと思いきやどうやらプレゼン参加者だったようで、進捗状況を伺うと共に川蝉の事を聞かれたのだ。 どうやら彼は社内でも仕事も出来る上に見た目を良いという事で他者より目を引くらしい。またあの菊上本部長にも臆せず提案などをし、本部長も彼を一目置いている背景があるらしく、そう言う立ち位置の川蝉と組めた自分を羨ましがっていた。
そんな話しを聞いた後に彼の部門に向かえば、川蝉の周りには何かと人が集まり活気が満ちていた。だが自分は雰囲気の輪に飛び込む事も出来ず、暫く立ち尽くす……
という事があったのだ。そんな姿をみてしまうと、自分の小胆さが露呈され、情けない気持ちに陥ってしまう。
(まあ最初からわかりきっている事…… )
思わず苦笑を浮かべると共に、再度自分の同僚と和やかに話す彼を見つめた。
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