晴れやかな気分は何処
遊びに来てくださりありがとうございます。
少しでも楽しんで頂けば幸いです。
自分達は壁際の席に座ると、すぐさまナッツとおしぼりを手渡される。
「あのー 俺はそうだなせっかくなんでオーロラにします。で、くるみさんは?」
「そうですね、度数の低いのって」
「うんー ミモザ、ベリーニ、ガンパリ、ピニャコラーダとかかな。後はビールベースもわりと低めで、シャンディガフやパナシェあたり」
「ビールベース飲んだ事ないのでその中で飲みやすいのって?」
「どっちもすっきりしてますよ。因みにジンジャーと柑橘系どっちが好きですか?」
「うーん。柑橘系ですかね」
「了解です。じゃあすいません彼女にはパナシェお願いします」
彼の注文にバーテンダーは席を外すと同時に、ナッツを摘まむ彼の横顔を見る。
「川蝉さんお酒詳しいんですか?」
「詳しいっていうか仕事がら食品関係扱っているので気になるっていう感じですかね。それに飲むの嫌いじゃないっていうか。それにこんな感じなんで相席とか、初めての人と飲んでもきにならないっていうか」
「じゃあ、先日あの後って……」
「勿論飲み行きましたよ」
「それは凄いですね。英語も話せるんですか?」
「いえいえ。得意じゃないですよ。現に週一でこの近くの英会話教室通っていて。先日もその帰りにくるみさんと遭遇したみたいな感じですから。基本勢いですね」
「そうなんですか? 私も聞き取れてもいざとなるとそうは話せないし、それに初対面の人と相席ってかなりのハードルっていうかやったことがないです」
「じゃあ。今回それに近くないですか? ほぼ初対面だし」
「言われてみれば…… 初めての経験になるかも」
すると彼が破顔を浮かべて見せる。
(よく笑う人だな)
思わずこちらもつられて笑みを浮かべると、カクテルが届き、グラスを取る。
「じゃあ、くるみさんの初めて記念に!!」
「何だか気恥ずかしい言い回しですよ」
そう言う再度互いに頬笑むとグラスを傾けた。それからはアルコールも入り尚かつ、彼の軽快なトークを楽しみあっと言う間に時間が過ぎていく。気づけば自分のレンタルロッカーの店の閉店が押し迫っていた。思わず焦りの色を滲ませた自分の姿に彼も何かを察したらしい。
「だいぶ遅くなっちゃいましたね」
「私も、思わずしゃべりすぎちゃいました」
すると彼が改まった顔つきでこちらを見つめた。
「あのーー LINEとか交換してくれたりって……」
「……」
「じゃあ、一ヶ月後の金曜日。またこの店で会いませんか?」
「…… はい」
一瞬彼の表情が一瞬曇った。が、それ以降は当初と変わる事のない爽やかな笑みを称え、彼と別れた。
(いやはや先週は楽しかったな)
土日も川蝉とのやり取りが目に浮かび、満悦感に満たされ、あっという間の休みだった。そんな休日も終わり、今は仕事場の席で今週の仕事の予定を確認している所である。勿論職場に来た所で誰と話す事なく進む部門。ただ、今日は金曜日に一ヶ月分の会話と、満ち足りた時間を過ごしたせいか、いつものルーティン感が少しだけ払拭されてる様に感じる。
そんな中、朝礼で上司の周りに集合しミーティングが始まると、ものの数分で終了し、いつものごとく仕事にとりかかろうとした時だった。係長に呼ばれ半信半疑のまま、上司の所へ行き彼のデスクの前に立った直後、ファイルを渡されたのだ。
「芹沢さんちょっと今回部門代表としてやってもらいたい事があるんです」
そう言われ、針のような細い体型の鷺森係長が自分を見た。そして渡されてたファイルを開くと、その見出しに『社内企画プレゼン』という見出しが目に飛び込んできたのだ。
即座にファイルを閉じ、上司に返そうとすると、モーレツに切ない表情を浮かべる彼が目に止まり、返却するのを躊躇する。そんな中、係長がポツリポツリとしゃべり出す。
「あのですね。急にあがった話しでして。まあ見出し通りなんだけども。だからって堅苦しいのじゃないから。因みに今回のプレゼンは部門シャッフルする方針でして。って言ってもうちからは芹沢さんしかでないけど。ほ、ほらうちの会社って部門で別れてるから、その中でしかわからない事多いでしょ? でもそれって会社的にはどうなのかなという事になったらしくて。他の部門の仕事内容を知る事で自社の強みを知るみたいな事したいとかでしてね……」
「そうですか。それは理解しました。でも何故自分なんですか?」
「いやーー あのーー あみだでやってみたら芹沢さんに当たったもんだから」
「そんな事で選出しないでくださいっ、それこそ誰かやりたい人いるんじゃないんですか?」
そう言い背後を振り向くと、誰一人顔をあげている者はいなかった。再度上司の方を見ると、先程の表情そのままに華奢な体を気持ち振るわせている。
(おいーー 捨てられた子犬じゃあないんだから)
そんな状況の上司にこれ以上強くは言えない。深い溜息を吐く共の、首を項垂れた。
「自分。今回だけですよ」
「引き受けてくれるんだね。芹沢さん」
係長から念を押され頷くと、彼は、別紙を自分に渡した。
「では。よろしくお願いします。因みに明日ですがプレゼンで一緒に組む部門の人との顔合わせあるので、時間に行って下さい」
その言葉に力なく返事をした。先までの晴れやかな気持ちから一変、一気に奈落に落ちた感覚を覚える。それと共に重たい足取りで席へと向かった。
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