偶然の産物
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芹沢伊都。大学卒業し、食品会社ポピタル株式会社に就職して3年の月日が流れている状態だ。今は研究部門にて知育食玩に使用する色素諸々を研究開発している。日頃、試験管等を見つめ、データを分析しつつ、黙々と行う開発。ある程度自分のペースで作業が出来る。そんな部門である故に、人との接点がない。同じ部署で数人在籍はしているものの、個々でやる作業が多いからだ。なので下手をするとほぼ挨拶しか交わさずという事が週に何回ある状態である。
まあ自分自身も人見知りの所があるので、その状況はありがたい。だとしても、やはりストレスは何かと溜まるわけで、その解消の仕方も人それぞれ。ただ、自身の解消法が少々特殊の部類に入る『女装』という事。
きっかけは高校の時の女装メイドカフェ。初めてメイド服に袖を通す時はかなりの抵抗感があったものの、いざやり始めるととても楽しかったのだ。当時から口べただったのだが、女装をしている時は思っていた以上に会話が弾むし、楽しい。そんな経験を経て今に至る。まあ女装をしなければ、人とのコミュニケーションが取りづらい状況はどうにも改善が難しく、もう自分自身諦めている状態だ。
まあしかし、一昔前までの事を思えば今は、コスプレを違和感なく受け入れる風潮であり、自分も思いの外気軽な感覚だ。それにキャラクターグッズより女性服の方が巷に溢れている上に、入手しやすいので自分の好みの物が手に入る利点である。
そんな密かな楽しみを週一の金曜の夜、会社から離れた街で謳歌しつつ、日頃のルーティーンの生活に少しばかりの花を添えている日々を暮らす。
しかし今日の出来事は久々に刺激的ではあった。再度歩きながら腕をさする。
(あの人に会う事もないか。でもお礼は言いたかったかな)
そんな思いが過ったあの時……
長く変わり映えのない日々をこなし、待ちに待った金曜の夜。ある奇跡に遭遇していた。
と言うのもいつもの様に金曜の夜に女装をして繰り出した街で、今時の豪雨に遭遇したのだ。慌てて、総合ビルの軒下に飛び込んだものの、いつまで続くかわからない雨に、店に延長の電話を先に掛け、ただただ天候の行方を見つめていた。
その時、土砂降りの雨の中を駆け込み自分に少し間隔をおいて駆け込んできた男性の姿が目に飛び込む。勿論全身ずぶ濡れである。彼は一回自身の様子を伺い溜息を着くと、滴が落ちる髪を書き上げた。その時、視界に写った顔は、先日自分を助けてくれた男性だったのだ。
(こんな偶然あるのか!!)
驚きと共に、鼓動が高鳴なる中、彼の様子を伺う。彼は彼で兎に角上半身が酷く濡れてしまっている為、何かで拭きたい様ではあったが、都合の良い物を持ち合わせていないようだった。とりあえず自分は少し大きめのハンドタオルは持っている訳で、先日のお礼もしたい。絶好のチャンスなのだ。
日頃の自分ではまず無理だと思うが、今は女装の身。何も躊躇する事はない。自分はゆっくりと彼に近づくと、バッグからタオルを出し、右往左往している彼の前にそれを差し出す。
「あのーー」
その声に彼がこちらを見た。暫し顔を見合わせると、男性が目を見開く。
「あなたは確か……」
「はい。先週はありがとうございました」
「い、いえ。俺はたいした事してないので」
「そんな事ないです。でもとりあえずこれ使って下さい。完全とまではいきませんが多少は拭えるかと思いますので」
「ありがとうございます。じゃあ遠慮なく使わせてもらいます」
そう言うと彼はタオルを手にし、髪をがしがしと拭く。そして続けざまに、ジャケットを脱ぎ、Yシャツの濡れた箇所に数回タオルをあてがい首に巻いた。
「助かりました」
「そんな。先日の事に比べてみれば大した事ないので」
「いえいえ。本当にどうしたもんかと思っていたんです」
すると自分に爽やかな笑みを見せたのだ。いきなりの事であり、尚かつ好青年の笑顔。自分自身、こんな表情を浮かべる事はまず不可能であり、何だか気恥ずかしく、思わず視界を雨空へと向けた。
「…… いつ止みますかね」
「さっきと変わらないままか……」
すると彼がスマホを手に、液晶を見る。
「まだ暫く降るみたいです」
「そう、ですか」
「あの…… 提案なんですが、このまま立ってても何なんでどっか店入りません?」
「じ、私とですか?」
「ええ。これも何かの縁でしょうし。まあ無理は言いませんが」
「私は構いませんけど……」
「じゃあ、決まりですね。丁度このビルにバーあるみたいなので、そこどうですか?」
「は、はい」
少しどもってしまったが、彼は気にすることなくいつもの笑みを浮かべてみせる。
「まだ名前名乗ってなかったですね。俺、川蝉博巳って言います。あなたは……」
「く、くるみです」
咄嗟に浮かんだ偽名を名乗った。いい人なのだろが、流石に本名は名乗れない。少々不自然な名前を告げ、彼が不快に思わせたのではないかと様子を伺う。が、そんなそぶりは全くなく、再度笑みを浮かべた。
「じゃあくるみさん行きましょう」
そう言うと、ビルの3階にあるバーに足を踏み入れた。カウンター10席程で、薄くらい店内はジャズが流れる。また間接照明に照らされた酒やリキュールの瓶が壁一面に飾られており、その前には品の良いマダムがゆっくりと頭を下げた。
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