雨降って地固まる?
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小降りの雨が降る中、自分は女装姿で、博巳と最初に出会ったバーの所で待っていた。あれから引継などバタバタした日を送り、今は、田所の会社にトレーニーとして一ヶ月の月日が経つ。どうにか仕事も慣れ、周りの人とも少しずつだが、うまくコミュニケーションをとれるようになってきている。
そんな環境の変化で忙しかった事もあり、彼と会うのは会社を離れて初めてだ。久々に彼の顔が見れる事は嬉しいが、少し緊張の方が上回る。まあ、屋上での出来事の後に、彼から『最低でも1ヶ月1回は会いたい』という話をされたので、それを承諾した流れで今日に至っているわけだが……
ソワソワする気持ちの中、雨が降る街並みを見つめる事暫し。こちらに走ってくる人影が見えた。それは徐々に近づくと共に、自分の隣へと息を切らし走り込む。
「大丈夫? しかも傘は?」
彼は上がる息を整えつつ、顔を上げる。
「傘ってあると走りにくいだろ?」
「まあそうだけど」
そう言い、ハンカチで彼の髪から落ちる滴を拭くと共に、クスリと笑う。すると不思議そうな表情を浮かべた彼に笑みを向ける。
「最初ここで出会った時もこんなんだったなって」
「そっか、最初にあった時も雨降ってたか。その時も拭いてくれたっけ?」
「拭いてませんよ。タオルを渡しただけ」
「じゃあ。今拭いてくれてるって事はその時よりも、親密度が増したって事でいいのかな?」
「え、ええまあ」
「じゃあくるみさんも俺と同じ気持ちがあるっていう認識で良いだよね」
すると、まっすぐな視線をいきなり自分に向けられた。一瞬にして彼の瞳に自身は奪われ、髪を拭いていた手が止まる。それと同じくして、ハンカチが手から放れた。すると、すぐさま手首を捕まれた直後、雨で濡れる頬を掠め、博巳自身の唇に、自分の手の掌を優しくあてがってみせた。
その姿に息が止まり、言葉出ない。しかし鼓動だけは強く、そして早く脈打つ。そんな自分に彼は柔らかい笑みを浮かべる。
「『特別感』」
掌が一気に熱く、そして瞬く間に体中にその熱が行き渡る。どうして良いかわからない。ただただ、彼を見つめる。
(ど、どうしようっ)
言葉が見つからない自分に対し、彼は口づけた掌を優しく包んだ途端、おもむろに自身の指の間に博巳の指が絡まる。
(こ、これはっ)
いくら、異性とつきあった経験が乏しいとはいえ、この繋ぎ方は言わずと知れた恋人繋ぎ。異性とのつき合いは中学生以来ない。またこんな事をした記憶がない為、鯉が鰓を求めパクパクと口を動かすさまを実践している状況に陥っている。そんな自分の姿に一瞬驚きの表情を浮かべる博巳であったが、彼はそんな繋いだ手に力を込めてニヤリと笑う。
「飲みに行きましょう。いつもの所に」
弾んだ声で彼は告げると同時に、自分の手を引きビルへと向かい、いつもの店へと入店した。そんな博巳とは対象的に、自分は握られた手が気になり、終始俯きつつ、案内された席へと着いた。すると彼の手が離れる。どこかホッとする気持ちがあるものの、先までの彼からの手の温もりがいきなり無くなった消失感が一気に押し寄せた。思わず自身の手を見つめる中、彼が自分の名を呼ぶ。
「は、はいっ」
「今日は何飲む?」
「う、うん…… めぼしいカクテルは飲んでしまったし…… 博巳は何にする?」
「俺は……」
互いにメニューを見つめる。すると彼の懐からバイブの音が聞こえた。徐にスマホの液晶を目にした博巳が一瞬顔が強ばると、振動したままの携帯を、懐に納める。すると暫くしてその音が止んだものの、すぐさま先と同じ音が胸元から聞こえ始めた。
「出なくて良いの?」
「…… うーん。ちょっと席外しますね」
彼は一回深い溜息を吐くと、店の外に出て行く事、数分。店内へ入って来ると明らかに負のオーラを身に纏ったような雰囲気で、自分の前へと座った。今し方迄の彼も様子がおかしかったが、目の前の博巳はそれに輪をかけ深刻な雰囲気だ。
「何かあった?」
「根源……」
「根源?」
「諸悪の根源が来る……」
「え?」
すると神妙な面もちで自分に視線を送る。
「くるみさん。いきなりだけど明日って予定ある?」
「特にはないけど」
その直後、彼がいきなり身を乗りだし、自分の耳元まで顔を近づけた。いきなりの博巳の行動に息を飲む。すると、耳に仄かに彼の息が掛かる。
「因みに女装の格好で会いたいといったら無理?」
そう囁いた彼がゆっくりと元の位置へと戻り、自分を再度見つめる。その顔は先と変わる事ない面もちだ。
(一体どうしたんだ?)
疑問を抱きながら、自分もスマホを取り出す。
「少し調べていいですか? いつも使っているロッカーの空き情報を…… 因みに明日の時間って」
「10時から…… 終日? いや俺が強制的に数時間にするっ」
「博巳にしては珍しい回答だね…… 後今見てるんですが、数時間ならどうにかですけど、終日は難しいかもしれません」
「そっか」
「にしても、何があったんですか? さっき諸悪の根源とか言ってましたよね」
「ああ…… 実は急に、姉が俺の地元福井から日帰りで来る事になった」
「以前話ししてくれましたよね。そのお姉さんですか?」
「そう、俺を良いようにコキ使って振り回す和葉姉ちゃん」
「でも、それなら平日の格好でも良くないですか?」
「まあ、通常で来るならな。和葉姉ちゃんは俺が学生時代からいきなり来て呼び出してみたり、合い鍵勝手に作って俺が不在の時に部屋にいたり自由奔放な人なんだけどさ、今回はそうはいかないみたいで……」
すると彼の言葉が止まり、視線を下に移す。どうやら言いにくい事のようだ。そんな彼が視線を反らしつつ、口を尖らせた。
「どうやら…… 実家からおみやい写真を持ってくるらしい」
「は…… あ……」
予想とは斜め上いく展開に言葉が出てこない中、彼は言葉を続ける。
「実は俺姉ちゃんがもう一人いて、その姉ちゃんが実家の家業手伝ってるんだ。ただ、その家業っていうのが、鍛冶工房でさ。親父も古い考えだから俺に将来家業を継いで欲しいらしくて。地元で俺の結婚相手探してるんだよ。だから度々写真とか画像送って来てたんだけど、ちゃんとした写真で見たほうが良いとかで、福井県内在住で、俺を良いようにあしらえる和葉姉ちゃん使って届けに来る事になってしまって」
「そ、それは大変としか言いようがないね」
「だろ? そこで俺の彼女っていう形で和葉姉ちゃんに会ってくれないだろうか……」
「はひっ」
思わず声を張り上げ裏返るも、慌てて口を押さえ周りを見渡す。するとマスターと目が合い、きまずぐ苦笑いを浮かべてみせると、視線は瞬時に博巳へと替える。そんな彼は両肘をテーブルに置き、指を組み神妙な面もちだ。
「多分姉ちゃんの事だから断った所で、また近いうちに来るとか言いそうだし、それなら一層の事、既に相手がいる形なら、この話しは終わる……」
その直後両手を彼自身の顔の前で合わせた。
「無理を承知でお願いしますっ、俺を助けると思ってっ!!」
「ま、まあ。日頃から博巳には助けられているので、じ、自分で良ければっ。ただ、着替えどこでしようかと…… 自身のアパートから着ていくのはちょっとハードルがあると言うか……」
「なら、俺んちですれば良いよ。着替えているうちは外にいるから」
「で、でもそれって迷惑ではない?」
「迷惑であるわけないよ!! なんせ今回は俺の個人的な事でお願いしてるんだから、いくらでも使ってよ!!」
「な、なら…… お言葉に甘えてっ、使わせてもらいます」
「はい」
すると、さっきまでどこか緊張した雰囲気だった彼が一変、安堵の表情へと変わる。そんな彼とは裏腹に心中穏やかでいられない自分がいた。
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