処遇の行方
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(どうしようーー)
昨日の修羅場から生還したものの、生きた心地は今もしていない。あの後、暫く無言で博巳と歩いたが、彼から、怒りのオーラが見えた。
自分の事であんなに憤慨してくれていると思うと、胸が熱くなったものつかの間。彼が相手先に言い放った言葉の内容があまりにも衝撃的過ぎて、言ってもいない自分が動揺してしまっていた。そんな自分に彼が気づき、帰り際に『大丈夫だから』と言って笑って互いに帰路についたのだが……
どう考えても安易に解決出来る問題ではない。お陰で昨夜は一睡も出来ないままの出社。そしてある程度の覚悟はしていたが、案の定、午後一番に本部長に呼ばれ今向かっている。かなりの確率で、昨夜の出来事についての事だとは思う。明らかに会社に何がしらの損害を与える可能性は往々にあるわけで、それについてどう責任がとれるかと考える。
(自分の事はどうでもいい。ただ……)
川蝉にも責任を負わせる様な事はさえたくはないし、させてはいけない。だが、自分一人の処分だけで損害のケリをつけられるかは不透明である。
(ああーー 博巳に迷惑をかけないようにするにはどうしたらいいんだ!!)
悶々と考えていると、いつの間にか営業部のフロア前まで来てしまっていた。暫く入り口付近で足が止まり、動けずに居たが、一回大きく息を吐き、フロア内に入る。すると、本部長のデスク前に、博巳が既に来て話していた。自分は早歩きでそこまで向かい彼の隣に立つ。
「遅れてすいません。本部長」
「いや遅れていない。川蝉が早かっただけだ。にしても芹沢。いつもここに来る時、顔色悪くないか? 今日も良くないぞ」
「は、はあ」
そう言い苦笑いを浮かべる自分に、先に話していた川蝉が不服そうな顔をこちらに向ける。
「芹沢さん。大方、昨日の件で眠れなかったってオチですよねきっと。帰り際にも俺言いましたよね大丈夫だって」
「…… で、でも」
すると、椅子に座り自分等のやりとりを聞いていた本部長が、咳払いをした。
「芹沢が来る前に、ある程度の経緯は川蝉から聞いた」
「あ、あの菊上本部長っ、昨夜の件は自分がしっかりしていればこんなっ、事にはならなかったわけで、川蝉さんはっ」
「悪くないと言いたいのか。今回の発言は両社にとって何がしらの摩擦になりうるというのに」
「…… そ、それはっ…… だとしてもっ、今回の責任は自分がっ」
「芹沢が被ってどうにかなるのか?」
「……」
予想はしていたが、やはり自分だけではどうする事も出来ず、強く唇を噛む。その姿に菊上は溜息を吐いた。
「とりあえず、取引継続云々という話はまだ、先方からもらっていない。そんな状況で責任話をしても仕方ないだろう」
「しかし……」
「まあそうだな。今回は感情的になり過ぎた川蝉が悪い」
「だ、だとしても川蝉さんは自分をっ」
どうにか彼の弁明をしたく、声をあげる。が、それはすぐさま本部長の言葉で止められた。
「第一、営業であるなら、ましてや君はうちでトップの実績があるんだ。場数はふんでいるだろう? ならもっとスマート且つ、大事にならないようその場を納めるべきだ」
「はい。以後肝に銘じます」
「よし、では話は以上だ」
「へ?」
あまりにもあっさりとした終演に、思わず声をあげてしまった。それに対し、本部長は怪訝な表情を浮かべる。
「どうした芹沢」
「いえ、そのっ、今回の件でもしかしたら、会社に損害をっ」
「そうだな。長年のつきあいでもあったが、取引が途絶えるかもしれない。だが、それを上回る取引先を川蝉がみつけてくれば良い話だ。それよりも、時たま居合わせた席で酒が入っていたとはいえ君に不快な思いをさせた挙句、思い通りにならないからと言って取引の話を持ち出し激高する行為の方が問題だ。この件で先方からクレームの声があがった時点でこちらから取引を正式に断る」
「菊上本部長……」
小声で名を呼ぶと共に、半べそをかいてるであろうとわかった上で上司に視線を送ると、彼はそんな自分を見て、鼻で笑う。
「芹沢。なんだその顔は? 上に立つものとして社員の尊厳を守るべき立場であり、そうでなくては社員の士気が削がれてしまう。ある程度の事は自身で解決しなくてはならないが、こちらに否がない場合、会社として社員を守る事は至極当然であり、私もそうあるべきと思っている。まあ、今回の場合、私がその場に居たらこんな失態は犯さず穏便に事を運べたとは思うがな」
すると、本部長がニヤリと笑う。
「まあ、二人にはプレゼンの結果もまだ出ていないが、期待はしている。今回の件はこちらで処理をするので、存分に仕事に励んでくれ」
その言葉に、思わず隣いた博巳の顔を見ると、彼もこちらを見て軽くウインクをすると、菊上に視線を移す。
「本部長、まかして下さい!! プレゼンも勿論ですが、大口の取引先見つけてきますよ!!」
「それは有り難い。だが口だけにはならないでくれよ」
「わかってます!!」
そうして自分達は互いの顔を合わせ笑った。
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