許せない事はある(川蝉視点)
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少しでも楽しんで頂けば幸いです。
「伊都。無理することはないから」
「う、うん。でも、自分の読みが甘くて席とれなかったし、それに、長年贔屓にしてくれてる営業先なら無碍な事しちゃまずいだろ?」
「…… でも」
「自分の事はとりあえず良いから、合流させてもらおう。それに博巳に、ここの海鮮食べてもらいたいんだ。本当においしいから」
「…… わかった。でも、無理だと思ったら離脱するからその時は俺にさり気なく伝えて」
「わかった。ありがとう」
そういい俺等は加納の方へと向かった。
「えーー 川蝉さんって、英会話教室とか通ってるんですか」
「どこの教室なんです? 私もやってみたいと思ってたんです」
加納に促され、合流させてもらった宴では、彼の事前の情報通り、席に座るや否や女性陣に囲まれこの調子で質問攻めにあっている。間髪を入れずにかけられる質問に、どうにか答えるものの、一人に対し数人ではやはりキャパ越えに近い。
お陰で自身の事でいっぱいいっぱいになってしまっていた。そんな中、自身の取り巻きの一人の女性が、チラリと視線を反らし、小声で隣の同僚と話す声が耳を掠める。
「ねえ、篠原課長また……」
「あーあ。またやっちゃってる」
「飲むと本当に見境なくなっちゃうから」
「本当それ!! もう性別どうでもよくなっちゃうだよね」
「しかも、自分に刃向かえないような人にやってるんだもん」
「そうなんだよね。だからほぼ男性陣って当事者になった事ないからわからないんだよ、そのへんの所」
「同感ーー」
その会話でふと我に返り周りを見る。先程まで、隣いた伊都を探す。こんな状況という事もあるが、まるっきり誰も知らない宴会に参加している彼。しかも、性格上こういった場をきっと苦手な筈。だからといって俺自身の周りに漂う空気が読めないわけでもないので、彼はこの輪から離脱し、暫く経っているのだ。
なので女性群の対応の合間に伊都を視ていたのだが、怒濤の質問に答えている間、彼に対する注視を怠ってしまっていた。しかし、今の彼女達の会話を聞いて、胸騒ぎがする。そんな探し人は秒で見つけたものの、その状況に一瞬息が止まる。
彼の隣には宴に参加させえてもらう時に挨拶をした、篠原課長。そしてその隣に伊都がいたのだ。しかも、二人を見入るに正座をしている彼の足や手を執拗以上に触っている様子が飛び込んできたのだ。俺は女性陣に一声かけ、すぐさま立ち上がり、二人の方へ向かい伊都の背後に立つ。
「芹沢さん。すいません話し込んでしまって。何の話を課長さんとっ」
すると、彼が俺に顔を向けた。目が潤み、どうにか笑みを浮かべる彼の表情に、伊都の心情が如実に出ている。それと同時に、猛烈な罪悪感と、目の前の課長の所行に一気に怒りがこみ上げた。だが、ここで声をあげてしまえば大事になる。煮えくり返る感情を奥歯で噛みしめつつ、課長を見た。
「篠原課長。楽しそうに話していますね。彼とどんな話を?」
「川蝉君かーー 何でも君と同期らしいじゃないかっ。しかも研究開発だったかな。ひじょーーに興味深いっ」
そうしゃべる彼は日頃とだいぶ雰囲気も違い、かなり酔っている事が伺える。だからと言って何をしても言いわけではない。
「ええ。芹沢とは部門を違いますが、仕事の出来る人間ですよ」
「そうかそうかっ、よし!! じゃあ芹沢君もっと話そうじゃないか!!」
「篠原課長すいませんが、明日の仕事もありますので、自分達はここで」
「何を言っているんだ。夜はこれからだぞっ。そうだ。どうだい芹沢君は残って話していったらどうだい?」
「い、いえ。自分も明日の事があるので、川蝉と一緒にっ」
「そんな事言わずにだなーー」
「篠原課長。彼もそう言っていますし」
すると、今まで楽しそうに話していた課長が瞬時に鬼の形相へと変わった途端、立ち上がった。
「川蝉君!! 君も営業しているなら、取引先の言い分を聞くべき立場だろっ、しかも長年君のいる会社を贔屓しているというのにその態度は何だ!!」
いきなり声を荒げる課長に男性社員数人間に入り、課長を宥め始めると同時に、芹沢は目を見開きその場で微動だにせず座っている。そんな彼の腕をひっぱり立たせ、帰り支度を整えた。すると、加納が慌ててこちらに近づき、両手を自身の顔の前に会わせる。
「川蝉さんっ、本当にすいませんっ、お代はいいのでっ」
「ええ。そうさせて頂きます」
「本当にすいませんっ」
彼が悪いわけではない。ただ、芹沢に対する行いと表情が脳裏から離れず、怒りが未だに収まらないのだ。そんな感情を加納にぶつけそうになってしまっている。それだけは避けたいし、ここに居てもロクな事はないと言うことが目に見えているのだ。
俺は彼に会釈をし、伊都の腕を握り店の外に連れ出す。その直後、社員を振り切り激高しながら篠原課長がこちらに歩みよるも、男性社員達が総動員でそれを止める。そんな状況化で歩みが阻止されたものの、最後の足掻きとばかりに大声で叫ぶ。
「おい、そんな行いをして、今後の取引を打ち切ってもいいのか!!」
その言葉に、俺の後ろにいた伊都がここに来て初めて足を止める。俺はそんな彼に目を落とすと困惑したような表情を浮かべていた。きっと彼は、自身のせいで、会社に損害を与えてしまうと思っているのかもしれない。だが、今の俺にはそんな事はどうでも良かった。俺は彼の腕を強く握り、笑みを浮かべて見せる。そして視線を課長へと移した。
「彼が犠牲になってまで御社との取引をつるつもりはありません。こちらからお断りさせて頂きます」
そう言い、一回会釈をし、伊都を連れ歩き出す。そんな俺等の背後では課長が未だに怒鳴り声をあげてはいたが、その姿を俺は振り返り見る事はなかった。
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