俺だけが知っている事 (川蝉視点)
遊びに来てくださりありがとうございます。
少しでも楽しんで頂けば幸いです。
「完治して良かったですね」
「ありがとうございます。これも一重に伊都のお陰かな」
その言葉に一瞬驚いた表情を浮かべると、すぐさま目を反らす。
「伊都?」
「い、いえ。名前、呼ばれる事慣れてないもので……」
「そっか。じゃあこれから慣れさせていけば良いんじゃない。伊都」
「だから、連呼しないでくださいっ、川っ」
「違う。博巳だろ?」
「えっ、はあ。そのっひ、博巳」
照れながら俺の名を言う彼に笑みを向ける。
と言うのも、この前俺が体調を崩し、彼が家に来てくれた際に二人でいる時は名前呼びにしようという話になったのだ。
因みに今は、プレゼンお疲れと俺の快気祝いを兼ね仕事帰りに直接飲み屋に繰り出している。この企画も俺が寝込んでいた時にまとまった話の一つだ。まあ、飲み会に関してはすんなりと決まったのだが、名前呼びに関しては、伊都的には難色を示していた。それに対し色々口実をつけ、彼に納得してもらった経緯だ。まあぶっちゃけ俺が単純に彼の名前を呼びたかっただけという事は伊都には言っていない。そんな事を言ったら名字呼びに逆戻りさせられそうだ。
(それしちゃうとこの表情見れなくなるし)
そう、目の前で未だに恥ずかしそうにしている彼を微笑ましく見つめる。俺は彼の色んな顔を見るのが凄く楽しくもあり、嬉しい。昼間の時の顔と、趣味に行ずる顔が全くもって違うせいかもしれないが、彼のその姿がとても新鮮で見ていて飽きない。それ以上にもっと違う顔を、周囲の知らない伊都の姿を近くで見ていたという気持ちが日々募っている俺がいる。
(しかもこの前なんて、雑炊まで作ってくれて。あれうまかったな)
体調を崩し寝込んだ俺の為に寝起き後、作ってくれた雑炊。あれもかなりのインパクトがあった。俺自身、料理がからっきしと言うこともあって、同性から料理を振る舞ってもらえるとは思ってもいなかったからだ。しかも、俺もそれなりに彼女がいる時期もあり、こんなシチュエーションがあったが、その中で一番美味しかったのだから驚く。
また熱で寝込んでいた時、意識が朦朧としていた俺自身が、彼の指を握って寝てしまった課程があったのだ。そんな中、伊都はそのままの状態で俺の隣で床に座り寝ていたという出来事もあった。
その時の顔も年齢の割に幼く感じ、印象深かったのだ。お陰で益々彼の知らない一面を掘り出したくて仕方がない。
そんな思いに駆られる中、不意に彼の指を握っていた手のひらを見つめた。あの時の手の感触が微かにだが、呼び覚まされクスクスと声を上げ思わず笑ってしまった。すると、伊都が不思議そうな表情を向ける。
「あ、あの……」
「いえ、指握りしめてちゃって。あれから大丈夫だった?」
「別に問題ないですよ」
「なら良かった。っていうか今日のお店どこですか? 幹事さん」
「幹事ってっ、まあ、今日は自分が店決めましたけどっ」
「伊都のチョイスの店初めてだから、楽しみだなーー」
「あまり期待しないで下さいね。ひ、博巳みたいにセンスないし、知らないので」
「そんな事ないって」
そう言い、たわいない話をする事暫し。伊都がとある店の前で足を止めた。店前には大漁旗が飾られ、鮮やかな印象の店構えだ。
「ここです。見たまんまの店名で『大漁旗』っていうんですけど。海鮮物全般がおいしんです」
「海鮮俺好き!!」
「良かったです」
すると、彼は店へと入店していく。俺もその後をついていくと威勢の言い店員の声と共に、周りを見回す。入り口から想像していた以上に広い店内には客が席を埋め尽くしている。どうやらここは人気店のようで多くの客が楽しげに話す様子は非常に活気があり、思わず胸が高鳴る。その時だ。
「あれ? 川蝉さん?」
不意に名を呼ばれ、そちらへ振り向くと、団体席で知っている顔が視界に入ったのだ。
「加納さん。いつもお世話になっております」
「いえ、こちらこそ。それにしても奇遇ですね」
「そうですね。結構川蝉さんとは長くお仕事一緒してますけどこの時間に、しかもプライベートで会う事ってなかったですよね」
「そうですね。にしても今日は大所帯じゃないですか」
「はい。今慰労会してまして。今まで何かと、こういった事出来なかったので、これだけ集まっての飲み会は久々です」
「そうでしたか」
「川蝉さんは?」
「同僚と飲みに、今っ」
そう言い、伊都を探す。すると、血相をかいてこちらへとやってきた彼が目に止まる。そんな中、俺が人と話している事に気づき、頭を下げた。
「す、すいません話中にっ」
「いや、構わないですよ。あ、こちら俺の営業先サガミカンパニーでご一緒させてもらってる加納さん」
「初めまして、加納輝です。名刺座席の方にあって」
「か、構いません。自分も今持ち合わせてなく申し訳ないのですが、川蝉の同僚の芹沢伊都と言います」
すると再度彼が頭を下げ、頭をあげた直後、困り顔を浮かべ俺の方を見た。
「どうしました?」
「いや、その自分、こんなに混むと思ってなくて、予約とかいれてなかったんです。そしたら席がってないって…… す、すいません。なので、待つかそれとも別の店に行くような状況というか……」
「イレギュラーの事なんてしょっちゅうありますよ。だからそんな困らないでください」
「面目ないなですっ」
「あのーー お取り込み中申し訳ないんですけど、もしよろしければ一緒にどうですか? 」
「でも久々の皆さんでの慰労会ですよね。そんな席に同席させてもらうには申し訳ないですよ」
「何いってるですか。長年の取引で自分以外にも顔なじみの面子、川蝉さんいらっしゃるでしょ? しかもあの人数です。1人、2人増えた所で変わりませんよ。それに女子社員は、川蝉さんと話たい人も多くいるんです」
「俺とですか?」
すると加納が首で軽く指し示した先に、女性陣がこちらに視線を送っている事に気づく。
「と言うことです」
「はははは。恐縮です」
「まあ、そんな感じなんですが、芹沢さんはどうですか? いきなり初対面の方と同席にはなりますが」
「じ、自分は、だ、大丈夫です」
明らかに大丈夫じゃないと表情に滲み出ている状況の彼を、加納の前から少し離れた場所へ伊都と移動する。
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