いつもと違う
遊びに来てくださりありがとうございます。
少しでも楽しんで頂けば幸いです。
「せ、芹沢さんっ」
「無理です」
「無理?」
「こんな状態の川蝉さんおいて帰るなんてっ、無理です!!」
そう言い自分は廊下に面した台所を通り部屋へと入っていく。室内は8畳程で、中央に服をそのまま掛けられた座椅子にテーブル。壁に沿ってベッドが配置されていたが、どこか殺伐とした部屋だ。まあ自分もそうだが、らしいといえばらしい散らかり具合だが、体調が悪いだけあって、それが輪をかけたゴチャリ加減だ。
自分はベッドに彼を連れて行き、飲みかけの水と薬のゴミが枕元にある寝台に寝かせる。
「体温計ありますか?」
「…… その机の端っこ…… 本の下?」
彼の指示に従い様々なものが散乱する卓上に、空になった薬箱の隣に体温計を見つけ川蝉に渡す。
「とりあえず計ってくれますか?」
「あ、ああ」
「後、すいませんが、冷蔵庫開けさせてもらいます」
そう言い彼の反応を見ることなく、台所へと向かうと、使った形跡のない。続いて、冷蔵庫を開けてみるも、やはり水や調味料ぐらいしかなく、空に近い状態だ。そんな中、体温計の音が聞こえ、部屋へと戻り、ベッドの横に膝を付く。
「川蝉さん見せて下さい」
「……」
すると彼は渋々自分に体温計を渡し液晶を見る。
(38,8度…… 高いよなやっぱり)
先程抱えた際に体温の高さを感じてはいた。
(とりあえず、市販の薬飲んで、駄目なら医者…… かな)
自分は立ち上がり、自身が買ってきた飲むゼリーを彼に渡し、飲んで貰う。その間、枕元のゴミとペットボトルを回収し、続いて買い物袋から冷却シートを取り出すと共に、彼の名を呼ぶ。
「使っていいタオルありますか? あと、上着だけでも着替えた方がいいんですが」
「…… なら、そのカーテンレールにかかってるTシャツ…… タオルは風呂場にある」
その回答にすぐさまそれらを持って行く。そして彼の前に差し出す。
「早速ですが、体動かす事がキツいかもしれませんけど、着替えてくれますか? 後体拭き終わった時点で冷却シートを脇の下と出来れば両耳の首筋に貼ってください」
「…… わかった」
彼がいつもとはまるで違う弱々しい声を上げ、ゆっくり起き上がり服をガバリと脱ぐと、逞しい肉体が視界に入り咄嗟に視界を反らす。そんな中、川蝉が自分の名前を呼び、振り向くと困ったような表情を浮かべている。
「ど、どうしましたか?」
「…… 脇の…… どのへんに貼ればいいのかわからなくて」
「ああ、脇の下のですねっ」
「貼ってくれますか芹沢さん。ちょっと今の俺じゃあイマイチうまく貼れそうにないから」
「…… は、はい」
ゆっくりと彼の方に視線を向ける。するとシートが渡された。自分は彼に一歩近づき箇所箇所にそれを貼っていく。間近で見る川蝉の体は見た目通りの引き締まった体型であり、同性からみても羨むような体つきだ。しかも今は、熱があるせいで、仄かにピンク色の肌色がどこか艶めかしく、こちらまで恥ずかしくなってきてしまった。
そんな思いに駆られつつ、貼り終わると、服を再度着させる。それと共に、ゼリーを飲みきった残骸を手にし、スポーツ飲料と共に薬を渡す。
「これ飲んだら寝て下さい」
「ああ」
その言葉に彼は即座に従い、再度ベッドに寝る。その姿を見届けていると、川蝉がこちらに潤んだ瞳を向けていたのだ。自分は慌ててベッドに手を置き布団へと見を乗り出す。
「ど、どうしましたか? どこか痛いとかっ」
「い、いえ。何だか申し訳ないなって」
「そんな事ないです。元はといえば、自分のせいで雨に濡れてこんな事に……」
「たまたまですよ」
「でも……」
「それにしても、芹沢さん手際良いですね」
「そうですか? うーん…… 自分こうみえて、下に弟がいて面倒みてたせいですかね」
「弟さんいるんですか。俺は姉ちゃんがいます。今でもパシリに使われますよ」
「クスクス。よく耳にしますよねそういった話」
「笑わないで下さいよ」
少し腑に落ちない表情を浮かべた川蝉が、今度は力なく笑みを浮かべる。
「でも、ありがたかったです。俺全然こういうこと知らないから」
「…… そう言うこともありますよ」
すると布団の下に埋もれていた彼の手が、自分の小指と薬指を弱々しく握ってきたのだ。いきなりの彼の行動に、驚き顔を彼に向けるも、川蝉は瞼を閉じていた。
「指…… 冷たいですね」
「…… 川蝉さん、熱があるからですよ」
「そっか…… でも……」
そう言い掛け彼の瞳は閉じたまま、夢の中へ行ってしまった。そんな川蝉に捕まれた指は初動から徐々に力が籠もり、今は容易に抜ける状態ではない。だからといって、強引に外せば起きてしまうかもしれず抜く事も出来ない状況だ。
(暫くはこのままかな)
まあ、この感じだと、食事もまともに摂る事なく、熱のせいでろくに睡眠も出来なかったのであろう。しかもこんな状態では気持ちが弱くもなる。
(日頃お世話になってるし、このぐらいはしないと)
そう思う中、寝顔の彼をまじまじと見る。無防備な彼を目にしたのは初めてで、ましてや自分に甘えるように指を掴みながらの寝姿のせいか、可愛く感じてしまう。
(起きた所で雑炊を作るか)
その時、自分の作った雑炊を差しだした際の川蝉の表情が脳裏を掠めた。今までの経緯から容易に想像がつく彼の姿に思わず顔が綻ぶと共に、小さく寝息をたて寝ている川蝉を見つめた。
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