居ても立っても居られない
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「川蝉さんが早退!!」
思わず声上げすぐさま、口を紡ぐと共に周りを見る。いきなりの声に皆が自分を見ている姿に、軽く会釈をしながら、自身に応対してくれた営業の人の顔を見た。すると、苦笑を浮かべつつ、話を続く。
「はい。さっき営業先から連絡あって。体調が優れないので、このまま直帰させて欲しいと。まあ朝礼の時も具合悪そうでしたからね」
「そ、そうですか…… あ、あのっ、だ、駄目なら無理とは言わないんですけど、川蝉さんの自宅住所教えて貰えませんか? プ、プレゼンの関係でサンプルを届けたくてっ」
「あ、はい。わかりました」
半ば勢いで、彼の住所を聞き出し、部門へと戻る。そして定時直後、すぐさま会社を退社すると、必要であろう物を購入し、彼の住居へと向かう。
何故自分がこんなに必死になっているのかというと、体調不良の要因に心当たりがあったからだ。
とういうのも、先日例の企業プレゼンがあった。勿論自分は初めての事で緊張の連続ではあったが、彼の場数慣れと、トークの軽快さで反応も上場。手応えを感じられるプレゼンとなったのだ。互いに労いながらも達成感で満ち足りつつ、帰路へとついたのだが、その時、雨が降り出したのだ。予報ではそんな事を言っていなかったのだが、異常気象も相俟り、予想が外れる事も出てくる昨今。自然現象であり仕方のない。ただ、自分は外回りの経験が乏しい為、常日頃から折り畳み傘を持参してはいなかったのだ。
またその後、彼は会社へ戻り、自分はやり慣れない事の後と言うことで、直帰の予定となっていた。そんな背景から、自身は大通りに出てタクシーを捕まえ帰路に思っていたが、『ここから大通りは距離があるから』と言い、川蝉が傘を渡してきたのだ。
返そうとする自分に、彼はすぐさま雨の最中走り出し、一回手を振り行ってしまったというのが昨日の出来事である。
(どう考えても、雨に濡れたのが原因だよな……)
今日部門に行ったのも本当は傘を返したかったのだが、あんな嘘を言ってしまった。まあしかし、そんな事は今はどうでもいい。兎に角彼の容態が心配でならない。
教わった住所をスマホに打ち込み、足を踏み入れたことのない街を液晶に映し出された地図を頼りに闊歩する。すると、着いた場所は比較的新しめの雰囲気の三階建てアパートだ。グレーの壁に、玄関前にはちょっとした植え込みがあり、そこにアパート名である『リビアル津田』とピンポイントで照明があたる。
間違えなくこの建物であり、203号室へと直行した。そして、ドアの前に立ち、インターホンに手を伸ばす。が、一瞬躊躇する。やはりどこか緊張してしまう。ましてや自分のせいで体調を崩してしまったとなると尚の事気が引ける。だが、立っているだけでは意味がなく、最低でも、昨日借りた傘と、買ってきた物を渡したい。
自分は少し震える指でインターホンを押す。すると、暫くして張りのないしゃがれた彼の声が聞こえた。自分は慌ててカメラにめがけ頭を下げる。
「芹沢ですっ。川蝉さん大丈夫ですか?」
すると、足音がこちらに近づいて来る音がした直後施錠が解かれ、ゆっくりとドアが開いた。そこにはスエットのセットアップを着てマスクをした川蝉が、身を屈め現れたのだ。明らかにいつもと違う雰囲気と共に、具合がすこぶる悪いのが見てすぐさまわかる。
「芹沢さん。どうしたんですか?」
「すいません。傘を返そうと営業に行ったら具合悪くて直帰したってきいたので」
「ああ。すいません。お手数かけちゃってっ ゴホゴホ」
「大丈夫ですか? こ、これちょっとしたものなんですけどっ、食べて下さい。じゃあ自分はこれでっ」
「ちょ、ちょっと待って下さいっ、買ってもらった商品のお金をっ」
「い、いえ結構ですからっ」
そう言う自分に背を向け、部屋に戻ろうとする川蝉が、彼自身の脱いだ靴に足を取られ前のめりで転ぶ。そんな川蝉が、起きあがろうとしている姿が視界に入り慌てて彼に走り寄る。体を起こそうとする彼の手が震えているのがわかり、すぐさま川蝉の片手を掴み自分の肩に回す。
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