自分にはムリ
遊びに来てくださりありがとうございます
少しでも楽しんで頂けば幸いです
多くの人が行き交う歩道。今夜はアフターファイブと言う事もあり、いつもよりも闊歩する人が見受けられる。また、日が落ちた事により、歩道沿いの店々の照明が煌びやかであり、昼間とはまた違う雰囲気を醸しだす。
そんな街を横目に人の間を縫う様に歩く自分がいた。しかもかなりの早足で。その最中、人と肩がぶつかり振り向くと、男性外国旅行者であり、優に190cm以上はありそうな長身である。慌てて、英語で謝り、先を急ごうとした矢先、腕を握られた。どうやら軽く酔ってはいるようで、一緒に飲もうと言っている。ただ、自分にはそんな猶予がなく、再度詫びをいれるも、腕を放してもらえない。それどころか返って力が込め握られ、半ば強引に引っ張られる始末。抵抗はしたものの、相手の方が明らかにがたいも良いので、抵抗しても全く歯が立たない。
焦りと困惑が入り交じる中、無駄な足掻きとわかった上で、外国人の手から逃れ様と再度手を必死に引くもびくともせず。この状況はほぼ絶望的である。その時、自分の方に気を取られていた旅行者が人とぶつかった。
それはほぼ外国人と同等の長身の男性であり、その人物がこちらを見た。はっきりとした顔立ちの、ザ、好青年といった人物だ。そんな男性と目が合い、思わず苦笑いを浮かべる。すると彼は一瞬瞬きをし、瞬時に自分と旅行者を見ると、何かを察したたらしく、大げさなジェスチャーを交え、訪日外国人に声をかけ始めたのだ。
旅行者はそんな彼の行動に気を取られ、握っていた手が緩む。その隙に自分の腕を引き彼から解放される同時に、走り出す。その際、チラリと背後を振り返り、様子を見た。すると同時に好青年がこちらを振り返り目が合う。その直後彼は笑みを称えると、前に視線をむき直しつつ、外人と肩を組み、人混みへと消えていった。そんな様子から、彼が助けてくれたのだと理解し、一瞬足が止まる。が、瞬時に我に返り、すぐさま今度は走り出す。
数分走り続け、息を切らしながら、雑居ビルに駆け込む。そして三階のフロアに飛び込んだ。すると、白で統一された店内に、受付の女性のスタッフが笑みを称えつつ、自分を出迎える。
「お帰りなさいませ。今日はギリギリでしたね」
「は、はい。延長料金払う所でした」
「ふふふ。うちはそっちの方が有り難いんですけど」
息を切らしつつ、出された用紙に時間を記入すると、笑みを浮かべる。すると受付がマジマジと自分の顔を見た。
「にしても、芹沢さん。本当うちの常連でトップクラスの美人さんですよね。羨ましい限りですよ。まあ元も、赤毛の天然っぽいし、目も二重ですよね。うん。なんか子犬みたいな感じで可愛いっていうか。それにその声。裏声なんですよね」
「はい。でもあまり気にせずに出せちゃんですよ。元の声も少し高いせいか」
そう言うと、いつもの声を発する。するとそれを耳にした彼女が頷く。
「確かに、一般男性よりは高いですね。でも、裏声と今の声だとやっぱり雰囲気違いますよ」
「ええ。だから有り難いというか。まあ後は喉仏が見えない様に工夫するぐらいですし」
「うん。やっぱり完成度高いです」
「有り難うございます。そう言って頂けるとやってる甲斐がありますよ」
言葉を切ったと同時に、彼女から鍵が渡される。それを手に奥の部屋に向かい、戸を開ける。すると三列に、数台ずつロッカーが並ぶ。そんな室内に数人の人物が身支度を整えていた。
自分はいつも使用しているロッカーへと向かい、施錠を解くと着替えを開始する。そんな自分に声が掛かり、そちらを振り向くと、いつも顔を合わせる男性からだった。
「今日はどうしたんだい? やけにギリギリじゃないか。存分に謳歌してきた感じ?」
「違いますよ。ここに向かう際に海外旅行者と肩ぶつかって。そしたらその人に捕まっちゃったんです。ここの時間もあるでかなり焦りましたよ」
「ああ。成る程ね。最近旅行者増えたもんな。それに日本より多様化凄まじいから、実の所オレ達みたいな趣味嗜好わかった上で声掛けてきたりして」
「うんーー どうなんですかね…… でもかなりの長身だったですよ。まあ彼等の母国では長身女性もザラなんでしょうから」
「そっか。ヒール履くと180cm近くになっちゃうからな。まあそんな大女に声掛けるのは外国の人だけか」
「まあ。そんな所です」
「でも、数年前までは旅行者が減少してたからそんな事起きなかったけど、これからは気をつけた方が良いってことだよな。にしてもよくその旅行者から逃げ出せたもんだ」
「はい、運良く救いの手が入ったというか」
脳裏の先程のシーンが過り、思わず腕を見る。強く握られた箇所が少し赤みを帯びているが、それと同時に青年が瞬時に浮かべた笑みが蘇った。
(自分には出来ないよなあんな事)
彼の姿が瞼に残る中、暫し自身の腕を見つめる自分に、声が掛けられ我に返る。
「大丈夫?」
「は、はい。とりあえず早く出ないと次の方着ちゃいますね」
「ほんとだ。同じ趣味謳歌している人と話せる場所がここしかないから、しゃべってると時間忘れちゃうんだよな」
「ええ。流石に『女装』する人はなかなか出会えませんからね。自分も気兼ねなく話せるもんだか時間が経つのが早いです」
そう言い互いに笑い合うと、早々にスーツに着替え、部屋を出る。そして、受付に鍵を返却し、ビルから一歩出ると、人混みに身を投じ、帰宅の途に着いた。
読んで頂きありがとうございます
日頃感想諸々お伺い出来ない為、
星、いいね!、感想(どんな些細なのでも構いません)
頂けると非常に有難く、励みになります。
もし宜しければ聞かせて頂ければ幸いです。
またワンオペ作業の為、誤字脱字諸々有り読みにくい事があるかと思いますが
ご了承ください&お知らせ頂ければ有難いです。