7/32
07
享保五年、江戸の町は厳しい冬を迎えていた。積もった雪が道を覆い、人々の生活を厳しいものにしていた。
長屋では、鈴が小さな部屋で染物の注文に追われていた。今では長屋の住人だけでなく、近隣の町からも注文が来るようになっていた。
「鈴さん、あんたの染める藍は特別だね。どうしてこんなに美しい色が出るんだい?」
常連客の一人、小間物屋の主人が尋ねた。
鈴は笑いながら答えた。
「秘密です。でも強いて言えば、風のように自由に染めること。決して型にはめないこと。それが大切なのかもしれません」
鈴の染める布は、確かに特別だった。藍の色が風のように流れ、見る角度によって微妙に色合いが変化する。それは彼女の持つ特別な感性によるものだった。
長屋の人々は鈴を「風の染め女」と呼ぶようになっていた。茜は母のことを誇りに思い、いつも仕事を手伝っていた。
「茜、ありがとう。あなたがいてくれるおかげで、お母さんは頑張れるのよ」
鈴が言うと、茜は嬉しそうに笑った。
「お母様、茜はいつもお母様の味方です」
二人の生活は質素ながらも、幸せだった。