06
糸紡ぎの内職だけでは生活が苦しいことを悟った鈴は、少しずつ染物の準備を始めていた。長屋の共同井戸を借りて小さな布を染め、その美しさに気づいた近所の人々から少しずつ注文を受けるようになっていった。
「鈴さん、この手ぬぐい、うちの店で売らせてくれないかい?」
近くの雑貨屋の主人が持ちかけてきた。鈴の染める手ぬぐいは、他にはない深い藍色と繊細な模様が特徴だった。
「ありがとうございます。喜んで」
その日から、鈴の染めた手ぬぐいや小布は少しずつ評判となり、小石川界隈で知られるようになった。
生活は依然として厳しかったが、それでも以前よりはずっと安定していた。茜も五歳になり、賢く育っていた。
「お母様、この葉っぱ、藍の葉ですか?」
茜は鈴の仕事を真剣な目で見つめていた。鈴は微笑んで頷いた。
「そうよ。これを発酵させて、藍甕を作るの」
「藍甕?」
「そう、藍を染めるためには、まず藍の葉を発酵させて染料を作らなくてはならないの。それを入れる大きな甕のことを藍甕というのよ」
茜は興味津々で母の説明を聞いていた。
「茜ちゃんも、お母様のようになりたいです」
その言葉に、鈴の心は温かさで満たされた。かつて父から学んだ技術を、今度は娘に伝えることができるかもしれない。それは鈴にとって何よりの喜びだった。