二
診療の予約は、何度かお世話になった整形外科にした。高校生の頃には腰椎の椎間板ヘルニアで牽引のために通院し、十年近く前には捻挫をした際に診てもらったところだった。
ドクターに伝え忘れがないように、いつごろからどのような症状なのか経過や状態をまとめておいたメモを用意しておいた。受付でそれを渡して待っていると名前を呼ばれた。診察室に入ると、ドクターはメモを見ながら問診をはじめ、とたんレントゲンを撮ることに。案内されてレントゲンを撮ってから診察室の前に戻ってしばし待つ。再び呼ばれてドクターの前に座る。レントゲンが映っている。見事なまでの外反母趾というのは素人目にも分かった。
「ちょっとよくわからないけど、ひとまず薬を出しておくので様子を見てください。あとウォーキングはしばらく中止ね。まずは安静」
ドクターの診断不明と言われて、胸がズキリとした。これは本当に治る類のものなのだろうか。それにしても運動を制限されるのはダイエット中ともあってどうにかならないかと粘って見ても、
「二三日じっとしているのを安静とは言わないから。二週間は様子見ね」
念を押されてしまって、それに従うしかなくなった。
処方箋は炎症を抑える飲み薬と、軟膏が出された。その帰りにドラッグストアに寄った。ドクターのアドバイスとしてインナーソールを靴に入れたらというのがあったから、それを探しに来たのだ。フットケアのコーナーにアラフィフのおっさんがじっくり探している。なんだか居心地のすっきりしない感じでいろいろと商品を見ていると、つま先のあたりのクッションになるものがあった。求める商品をカゴに入れてそそくさと会計へ。家に帰ってからインナーソールを靴に入れた。右足と左足とでは穿いてみた時の感覚が違ってしまうが仕方ない。少しでも疼きが和らぐなら試すことはいろいろある。着脱式のクッションは、一枚目の靴下のつま先に張ってから二枚目の靴下を穿くようになった。なぜなら、そうしないと靴を履く時にクッションがめくれてしまったからだ。
その日からは処方された薬を飲んで、軟膏を塗って、自前の装備で靴を履いた。一日経ち、二日経ち、すぐに解消されるとは思ってもいなかったけれど、ウォーキング中止とはいえ歩行することは避けられない。十日経っても、二週間経っても疼くことに変わりはなかった。口を真一文字に閉めるくらいに我慢したとしてもマスクの中では他者に見えるものではない。ましてや、靴の中を誰も知ることはない。並んで歩いていたはずなのに、一人だけ遅れても漫然としていると思われてもおかしくはなかった。だから堪えるしかなかった。
それから一か月経ち、再び整形外科に行くことになった。その前にインターネットで検索をかけてみた。病名や症例が見つかった。それなんじゃないかと思った。だが、思っただけで、ドクターに訊けず仕舞いだった。なぜなら、ドクターからはこの症状がいったい何なのか、
「分からん」
と断定されてしまったからだ。さらには
「今度、ドクターを変えてみて」
匙を投げられてしまった。結局同じ処方箋になった。これまで飲んで効かなかったのに、今後も改善するわけないと思っても出されたものは仕方ない。次の診察まで受け入れるしかなかった。