06 一文無し、未知のダンジョンに潜る(2)
「配信王…?」
『討伐配信を行っている冒険者の中で
一番人気を博しているのはセルリアなんだぞ!』
「へ…へぇ~…。凄いわね…」
セルリア自信も、ご満悦な顔で堂々と宣言をする。
それは視聴者の心を弾ませるのに十分な言葉であった。
だが、その自信とは裏腹に、批判的なコメントは続々と数を増やしていた。
『どうしてこんな男と一緒に…』
『俺らを裏切ったのか…?』
『今すぐ別れろ!』
悲壮感漂うコメントの数々に、冷や汗を垂らす。
なんで俺のせいになってるんだ、という意味を持って。
セルリアは悪気の無い笑顔を俺に向けていた。
何が言いたいのかを察した俺は咄嗟に口を開く。だが、時すでに遅し。
「この人…私のお兄ちゃんなんです…
今日はお花摘みの依頼を手伝ってもらっていたんですよ!」
『じゃあ許す』
『お兄ちゃん思い』
『かわいい』
「あんたの妹色々と凄いわね…」
「えへへ……それほどでもです」
視聴者数とコメント欄の民度が向上していく。
なんとも単純な生き物なんだなぁと思っていると
ルイは両手を叩いてこの茶番に終止符を打つ。
「茶番は終わりにして、早いとこ探索しましょうか」
『終わりにするの早くない?』
『もっと兄妹漫才みせろや!』
「うるせぇ!」
「まずは目の前にあるお店に立ち寄ってみましょうか。
ここの原住民ですし、得られる情報もありそうです」
一蹴して二人にの後に続くと
目の前には一つの店があった。
見たことも無い文字の羅列された看板が掛けられ、窓辺には苔が生い茂っている。
「じゃあ、私が先陣をきるので皆さんついて来てくださいね!」
『おー!』
『いけぇ』
『天才!』
『かっこいい!』
古びた扉が音を鳴らし、湿気を含む風が流れ出て開く。
「何だいあんた」
「あなたは誰でしょうか?」
「はッ。初対面なんだからまずはお前から名乗るべきだろうが」
手足の代わりに触手の生えた、奇抜な姿の女性が
こちらを怪訝そうな顔で睨んでいた。
高圧的な態度に少しの苛立ちを覚えながらも各々で自己紹介を済ませる。
「それでわざわざこんなところまで来たんだい?
ここには何もないだろうに」
「積もる話も多々あります。
そうですね。まずは私たちの生い立ちから」
「まずは物を買え。話はそれからだ」
「あ…はい」
「物といっても…」
ルイは店内を見渡し、首を横に振る。
「商品は一つしかないじゃない。それもゲテモノ品」と付け加えて。
『生きてるだろそれ…』
頭部だけが肥大化したタコのような生物。
檻の中で全身をうねらせ気味の悪い姿を最大限にアピールしている。
見ているだけでも吐き気を催すほどで、触手からは汁が滴っているのだ。
しかし、女は何とも思っていないように振る舞って見せた。
「これが無いと帰れねぇと言ったら?」
指をぱちん鳴らすと、その生物は丸みを帯びた形に変化して
人一人分の頭が入りそうな程の空間を作り出した。
「あの場所には有毒ガスが充満していてな。
死にてぇなら話は別だが」
「値段はどれくらいなんだ?」
「え?あれ買うの?!嫌よ気持ち悪い!」
寝転び嫌よ嫌よと駄々をこねるルイ。
髪に埃やらが付着しても気にも留めず、かなりのご執心。
一方のセルリアは、それを見た瞬間から目を輝かせていた。
そして、その商品を抱きかかえると、 満面の笑みでこちらに見せつける。
「買っちゃいました!」
『さっすが配信王!みんなの分まで購入できる優しい性格と経済力!』
『神!天使!』
「優しい…?これが優しさなら買わない悪魔は天使になるわ」
先程までの静寂は何処へ…と言いたげに机に頬杖をつく女。
突如として現れた訪問者が沈黙を断ち切るのだ。
うんざりしているのも頷ける。
「秘宝が二つダンジョン内にある。
それを取れ、じゃねぇと帰れねぇから。
金にもなるし、お前ら冒険者には手が出るほどって情報だろ」
「どうして急に洗いざらい言う気になったんだ?」
「あんたらはもうお客様だからな」
「あと、下には行くなよ。それを付けても死ぬから」
「下…ですか?」
「あぁそうだ。ここは言わば休憩所」
「…助かる」
一通りの言葉を吐き捨てると、 女は店の奥から奥へと姿を消していった。
「それじゃあ行きましょー!冒険は待ってくれません!」
なんてセルリアは未だ意気揚々。
『おー!!』
『セルたそのハイテンション良いね!!』
『グットポーズ可愛い!」
スキップをしながら扉を出たセルリアは俺たちに手招きをする。
「最悪このキモイ生物を頭につけるのはまだ良いわ。
でも、秘宝とやらはどうするのよ。固まって行動したら日が暮れるし」
その後の発言はルイの腹の音によって語られる。
「……あと、気がかりなこともあるから少し時間を余らせたいわ。
この街は不可解な点が多すぎて、魔導士として見過ごせないもの」
「まぁまぁ、そこらへんの話は後でにしようぜ」
ルイの「そうね」が出ると同時に
「そういえば!」と話を遮り、セルリアの溌剌とした声が。
いや、不安感を拭うようにも聞こえたかもしれない。
「三人なら誰かの内一人は単独行動になりません…?」
『男一女二』
『男は根性』
『頑張れ』
「えっいやいやいや」
手を左右に振りながら否定を示す。
グットポーズにしているのは
否定することを踏まえていないことからくる行動だろう。
「ルイさまも私と行動した方が良いと思いますよね…?」
「え、私ユルトと行動すると思ってた」
「私の役職をお忘れですか?雑魚役職を筆頭する聖職者ですよ?」
「知って尚強いって話よ」
『聖職者ディスやめろ』
『自覚してなかったんだ』
『セルたそは普通に強いよ』
「兄さまは…?」
顎に手を当てて考える仕草をする。
そして、数秒後。にっと口角を上げて笑う。
「頑張れ!」