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04 一文無し、元メンバーと依頼を受ける


片手に松明、もう片方には短剣を構えながら

三人で肩を揃えて目的地へと向かう。


「ちなみに報酬って割り勘なのかしら?」


「ですです。ルイさまと兄さまで分けてもらって構いませんよ」


「やった…!」


「えぇ…ルイ、どうせお前は金たんまりあるんだから譲ってくれよ…」


すると、返事を返したのは三人の誰でもなくルイの腹だった。

凛とした彼女からは想像できないほどの愛らしい音。


気まずそうな顔を浮かべるルイをよそに腹を抱える。

背中のくっついているのがルイで

腹を抱えるのがこの俺ユルト。


大笑いする俺に、冷たい目を向けては舌打ち。


「お金無いの!私だってお金無いの!」


「ルイさまはかの大魔導士じゃないですか。

それ程までの力を有しながら金欠というのは少々不可解であると思いますが…」


「研究には多額のお金がいるの。

私が悪いのは分かってる。でも昨日から何も食べてないのよ…」


ちらりと俺とセルリアの目を交互に覗く。

やれやれといった仕草を見せつけるとルイは顔を明るくする。


「…あっ。そういえばお風呂にも入れてないのよね」

次に、悪知恵を得たかのような笑みでセルリアにすり寄る。

おおよそ今回の依頼料では生活を賄えないと踏んでの行動だろう。


「んー…しょうがないですね。今回だけですよ?」


普段こそ生粋の天然で周囲を惑わせるが

元々友だち思いなのだ。ルイの提案に快く同意しているのが伝わった。


「でも…それって良いように使われてるんだぞ」


なんて口に出すわけにでもいかず。

それでも、妹が良いように使われているのはなんだか

兄として不甲斐ないので、ちょっとした仕返しをすることにした。


「えぇ…んな匂わねぇけどな」


「か…嗅ぐなぁ!」


「くんくん…お花の香りがします」


次いでセルリアも鼻を鳴らしてルイに近づく。


「嘘!嘘だからぁ…。お風呂に入っていないのは嘘だからぁ!」


「ご飯は昨日から食べていないんですね…」


またも腹の音が、この場に響く。


「悪かったよ。これ終わったら

俺んちで飯でも食ってくか?

セルリアが手の込んだやつ作ってくれるってよ」


「ふぁ?」


指先に蝶を乗せて戯れていたセルリアは突然舞い降りる負担に

目を丸くしては、一言情けない声を漏らす。


「え、良いのぉ…?」


藁にも縋る眼に心優しきセルリアは慈悲深い

言葉を掛けるしかないのだろう。頭を振って一言。


「………それなら、尚更今日は頑張ってもらいますからね!」


指さす先には果てが見えない平原が目の前に広がっていた。


「小鳥のさえずり、太陽の煌めき…!

やっぱり平原ってのは最高ですね!」


我先にと走り出し、草が生い茂る地面に寝転ぶ。

大の字で空を仰ぐセルリアは、とても幸せそうであった。


「あっちにも寝転んでる人がいるわね」


「ここは新米の冒険者が初めに訪れる場所だからな。

スライム、通常個体のウルフが主な魔物だから根気詰める必要もないんだろ」


幸せそうな顔で日向ぼっこをするセルリアを横目に花の採取を始める。

多種多様な色や形をした花々は、眺めているだけで時間を忘れてしまう。


「この花なんてどうだ?」

「へぇ、良いセンスしてんじゃない」


黄色を基調とした、小さな花々が 一つの大きな花束を形成しているような。

そんな一輪の花を採取してはルイに見せる。


「お前の髪色に似ていて綺麗だな」


耳を真っ赤に染めて、唇をわなわなと震わせている。

両手を俺の背中に回し、見事なまでのバックドロップを決められた。


「これはプルクラね」


服に付いた土を払いながら、冷静に花の名前言い当てる。


「ねぇなんでバックドロップ決めたの?」


「…なんか腹立ったから」


「それと!」と大きな声を挙げて話の腰を折られる。


結局理由を告げられることはなく、今後心の奥底に小さなもやが

残るだろうというのは言うまでもない。


「これ!あんたにあげるわ!」


「え、なんで」


「なんでも何もないわ!ただの気分!」


強引にプルクラを手渡すなり、ルイは別の採取ポイントへと走っていった。


「良く分からんが、俺も真面目にやるか」



そうして数十分。


何も考えず、ただ風に身を任せる。


微かに見えるルイの背中を背に

黙々と花の採取を行っていると

突如として背後からどたどたとせわしない足音が耳に入る。



「セルリアか?」


「正解です!…じゃなくて!」


「ん、どうした」

顔を真っ赤に染めて、しどろもどろに言い訳を垂らす。


「すみません…寝ちゃってて」


「良いよ良いよ別に。それよりほら、だいぶ集まったんじゃないか?

ルイも頑張ってるっぽいしそろそろ引き上げても良い頃合いだろ」


「それがですね…」と口ごもる。


「花の採取と言っても…通常の花ではないんです。

遥か昔、バレナ平原の何処かにあると謳われた七色に輝く花なんです」


「……それもある洞窟に眠っているのだとか」


不安そうな顔で、俺の顔色を伺いながら言った。

瞳は涙を溜めてうるうると輝いている。


「…集合!!!!!」


ルイの体がビクッと跳ねる。俺自身

それ程までの声量を出せる体力が残っていること驚いた。

訳は定かではない。しかし、お前またやらかしたのか。


その思いが声となり、こうして声を荒げることになった。

瞬間、微かに見えていたルイの姿は霧となり形をくらます。


「なによ」


肩に手が触れる。いつの間にかルイは俺の背に立っていたのだ。


「うお、いつの間に後ろに」

「私の方がびっくりしたんだから」


「花を取ってきたんだけどさぁ。ちょっと問題があってね?」


申し訳なさそうな顔をする二人を

目の前にして大体の事情を察したのか掌を前の差し出す。


「…ご飯、持ち帰り分も作ってね」


「はい…」



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