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01 一文無し、討伐配信を始める


無双一歩手前を意識しながら

書き進めていく予定です。


「えぇと、これって見えてんのかな。

…はいどぉも。ゆるっとユルユル配信ちゃんねる

へようこそ。普段は剣士を生業としていまぁす」


そびえたつ山々、不気味な空が歪な雲を作り出す。

暫しの時間が経過すると、コメント欄には徐々に文字が浮かび上がる。


挨拶コメントもあれば、嘲笑するようなコメントもちらほら見受けられた。


『馬鹿かよお前…』

『こいつ死んだな』

『記念にコメントしときます』

『こんにちわ!』


「おいおいなんだよお前ら?!そんなに俺のことが嫌いなのかよ!」


いや、普通のコメントか否か。

二択で分けろというのならば、否定的、批判的なコメントの方が圧倒的に多い。


…そりゃあそうか。俺自身がそれを一番理解しているつもりだ。

歪な雲が更に悪化し、ゴロゴロと音を鳴らす。

この状況から察するに間違いなくアレが落ちてくるだろう。


そう、落雷が。


閃光が辺りを包み込み、大きな爆音が耳に木霊する。

…数秒の時間を経て、やがて光が収まると、ゆっくりと瞼を開く。


「いやぁ何だったんだろうなぁ。

さっ!配信はまだまだ始まったばかり!

皆さん楽しんでいってください!」


皆の不安感を拭おう。

善意から出来る限りの笑顔を張り付ける。

両手をパチンと合わせ、一つ笑える話題でも出さそうかなと思い始めた頃。

手は絶え間なく流れ続けるコメントによって止められてしまう。


『後ろ見ろ!』

『今日もまた一人死者が出るのか…』


「後ろったってなぁ。死ぬとか、どうせ嘘でもついてんだろ?」


頭を掻こうとした瞬間、ピリッとした痛みが頭皮に走る。

それとは別の…何か粘り気のある液体が手にこびりつく感覚もした。


恐る恐る、粘り気のある液体を触ってみる。透明でねばねばとしていて…

よだれか何かの類だろうか。


「ほら大丈夫。死んでないだろ?」


『大丈夫…?』

『お前の後ろには…紅龍(こうりゅう)がいるんだぞ?!』


瞬間、瞬く間に視界が炎の海に包み込まれてしまう。

炎の勢いは激しく、人一人を飲み込むなど容易いだろう。


元々、熟練の強者たちが集い

装備を整え、多額の金をつぎ込みようやく

対等に戦えるか、それすらも怪しい相手だ。


強敵と知って、俺は一人でこの場に赴いているのだから

視聴者に呆れられてしまうのも当然か。


『一人じゃ絶対勝てない相手だな』

『無理だこれ』


あーあ…俺だって少し前はパーティーを組んでいたんだけどなぁ――――



「ユルト、お前をこのパーティーから追放する」


「は?急になんだよアレキサンダー…?

俺がいたから数々の魔物を倒せたんじゃないか!」


指折りして俺が今まで倒してきた魔物を列挙していく。

アレキサンダーも不愛想な顔で追従する。

レイリー、アレキサンダー、ルイそして俺。


それぞれの性格の違い故、何度も危険な局面に立たされてきたが

その度に力を合わせて切り抜けてきたのだ。


だから今更解散だなんて到底受け入れる事はできない。

俺の考えとは裏腹にアレキサンダーは淡々と言葉を続ける。


「お前は強い。それも、この四人の中でもトップクラス…

いや、世界トップクラスと言うべきか。

性格も…少々難があるものの、まぁ俺は我慢できる」


「しかしなぁ」


はぁと、短い溜息をついてアレキサンダーは俺を睨みつける。


「ユルト、お前は少々懐事情というものを知るべきだ…」

「え?」


「得た大金も趣味や娯楽につぎ込んで…。

それが悪いとは言わん。しかし節度を弁えろ!」


「バーの代金は払っといてやる。

それと、少額だが金をやろう。

元メンバーが野垂れ死にするのは気分が悪いからな」


手を差し伸べるも、手をパチンと払われる。

衝撃から体勢を崩してしまい地面に倒れこんだ。

それも気にせず、俺を背にしてアレキサンダーは扉を開き、立ち去っていく。


「…マジの少額じゃねぇか」


微かに膨らんだ銭袋。それを見つめ、今一度溜息を吐いた。

袋を振るとじゃらじゃらと音を奏でるが、中身は寂しいものだった。

唯一の金も微々たるもので、仲間からの絶縁宣言。

つまり、今日明日を生きていくので一杯いっぱい。


足早に外へと追いかけるも姿はなく、己を慰めるように大声を挙げる。

「アレキサンダー!!!」


四つん這いになり、地面を拳で叩きつけた。

姿が見えなくなっても、叫ぶのをやめられずにいた。

脳内では先日食べた、肉厚なステーキが鮮明に

浮かび上がっており唾液が口いっぱいに広がっていたから。


それすら今後食えないなんて…嫌だ!嫌すぎる!


周囲の視線が痛い程突き刺さって嫌になる。

周りには俺を中心にして避けられているに違いない。


「兄さま…?」


そんな時だ。俺の目の前に一人の女性が現れたのは。


下向きの視界は、聞き慣れた声によって上へと向けられる。

そこには、妹であるセルリアが心配そうにこちらを見下ろしていた。


「どうしてここに…?」


「いや…どこからか兄さまの声が聞こえた気がしたので…」


「それより!」と一言、物言いたげに口を開く。


「どうしたんですか…とっても顔色が悪いですよ?!」


両肩をがっしりと捕まれ近場のベンチへと促される。

俺が座ったのを確認してセルリアも隣に腰を下ろす。

膝まで伸びる白髪のロングヘアが照明灯に反射して、眩い輝きを放っている。


「実はなぁ」


…俺は今までの経緯を語った。


セルリアは終始真剣な眼差しで話を聞いてくれていた。

所々顔色を悪くして掌を唇に押し当てる仕草を見せる。


「兄さまが悪いですね…」


「マジかぁ…」


「マジも大マジ。百あなたが悪いですよ。

私、ルイさまと近々買い物に付き合って

もらう約束があるのに…気まず過ぎますって…」


「何を買う予定で?」


「等身大の紫毒トカゲ像です」


流石血の繋がった兄妹か。満面の笑みで

言うセルリアに少し畏怖の念を感じた。

同時に嫉妬心も芽生えたのは言うまでもないが。


「良いなぁそんな高価そうなもん買えて。

俺なんて明日の飯にすら困ってんのに」


「…今の素寒貧兄さまになら教えた方が良いか。

兄さまスマホは持っていますよね」


もじもじと、妙に身体をくねらせながら上目づかいで見つめられる。

熱心に見られるもんだから、選択肢は首を縦に振るのみ。


「持ってるけど…」


未来の石板。名を【スマホ】


主に他者との通信用途として用いられている道具である。


「私も最近始めた新参者ではあるのですが

スマホには、連絡手段とは別の機能があるみたいなのです」


「それが【討伐配信】です」


セルリアは画面を見せつけながら指で操作を行う。

何度かの操作の後、ある一つの画面が目の前に現れた。

百万を優に超える数が表示されており、 その横には【セルリア】とだけ。


「これは登録者というものです。

私の配信に興味を抱いてくれた人たちとでも呼んでおきましょうか」


妙にぎこちない動きを見せていたのは

プライバシーに関することで、こっぱずかしさを感じていたからか。

どちらにせよ、会話から、少なからず不利益な話ではないだろう。


「稼げるのか?」


「稼げますとも」


なんて自信に満ちた顔で即答するのだろう。

この画面だけでは何が何だかさっぱり。でも、とてつもない

金額の掛かりそうな像を買おうとしているのが何よりの証拠だ。


「億万長者にも…なれるのか…?!」


「兄さま程の実力の持ち主なら可能かと…!!」


それからとんとん拍子に話は進み、粗方の仕様を教えてもらった後

こうして今この場にいるのだ――――



「あぶねー死ぬかと思った」


『なんであいつ生きてんだ?!』

『次の攻撃が来るぞ!』

『何突っ立ってんだ!』


「あ、悪い悪い。考え事してたわ」


コメント欄は緊張感の無さから荒れに荒れる。

紅龍は、咆哮と共に辺り一帯を火に包み込んでいた。

俺はというと、短剣を片手に。

光景を映す為もう片方にはスマホを握っている。


『スマホ片手にこんな怪物…勝てるわけがないだろ!』


「さて、いっちょ稼ぎにいきますか」


こうして、俺の配信業が始まった。







もしよろしければ評価などをしたうえで、本作を読み進めて頂けると幸いです。

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