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稀代の悪女を見に行きます


 前世の記憶と照らし合わせながら地図で場所を改めて確認してみたところ、問題なくおおよそのカイナ達の住む屋敷の場所を特定できそうだった。


 「これとこれも用意して……あとは地図も一応持っていこうかな」


 地図で場所を確認を終えてから、外出するためにある程度の準備を済ませる。


 後はラズを呼んで話をして馬車を手配してもらうだけだけど……。




 「はい、ハルミアお嬢様。どうなさいましたか?」


 「ラズ、お願いがあるの!」


 「お嬢様のお願いでしたら何なりと」


 普段こんな風にお願いをしたことは無かったからか、ラズは心なしか嬉しそうに聞いてくれる。


 「実は……どうしても行ってみたいところがあるのだけど、ここから少し離れたところだから馬車でしか行けそうになくて……」


 「行きたいところですか」


 「そうなの。だから馬車を出してもらえないかしら」


 ちらり、とラズの様子を伺いながらお願いしてみる。

 

 《どうか詳しい理由は聞かないでほしい……!》


 「かしこまりました。すぐに手配いたします」


 「ええ?良いの?」


 ラズはにっこりと微笑んで二つ返事ですぐに承諾してくれた。

 あまりのあっさりさに驚いて逆に聞き返してしまったくらいだ。


 「もちろんでございます。ハルミアお嬢様のためならば」


 「ありがとう!!ラズ!!」


 「とんでもございません」


 ラズの優秀さには本当に頭が上がらない。


 「あ、それから、今回の外出先については他の人には言わないでもらいたいの!」


 これも重要なお願いだ。

 他の人に…特にお父様に外出先が知られてしまったら絶対に怪しまれてしまう。


 でもこのお願いはさすがにあっさりと聞いてもらえるかは……


 「かしこまりました。外出先は私と御者のみの内密事項とさせていただきます」


 「ええ!?それも大丈夫なの!?」


 「もちろんでございます。ハルミアお嬢様のためならば」


 「ありがとう!さすがラズね!」


 やっぱり私の侍女はとても優秀で心強すぎる。

 

 「出発はいつ頃がよろしいでしょうか」


 「できるだけ早く行きたいのだけど……」


 「左様ですか。それでしたら本日中に御者には話をつけますので、明日は午前中にハルミアお嬢様のマナー講義がありますから、午後からでしたらどうでしょうか」


 「それでお願いしたいわ」


 「かしこまりました。それではご用意いたしますので一旦失礼いたします」


 「ありがとう。お願いね」

 

 部屋を退室したラズはそのまますぐに馬車の手配と御者に話をつけに行ってくれた。


 


 ーー翌日の午後。


 今日は体調も問題なく。もちろん倒れることもなかった。


 朝からマナー講義で先生は厳しくて疲れたけど、お昼ご飯も済ませたし、気合いは十分だ。


 馬車の手配もラズがすぐにしてくれたし、外出の用意もできている。


 ラズが外出先についても執事長やメイド長に『王都の街まで買い物へ行く』っていう名目で報告してくれてるみたいだし。執事長からお父様にもそう伝わるはず。


 《根回しはラズがしっかりとしてくれてるし、夕方までには戻れば大丈夫!》


 「ハルミアお嬢様。馬車のご用意ができましたので行きましょう」


 「ありがとう」


 荷物をラズに預けて、ラズと一緒に馬車の元へと向かった。


 「急遽馬車をお願いしてごめんなさい。今日はよろしく頼むわ」


 「とんでもございません。かしこまりました」


 馬車の御者に声を掛けてから、ラズに扉を開けてもらい、馬車に乗り込んだ。



 ーー馬車に揺られて1時間程が経ち、目的地周辺までやって来た。


 「あっ」


 屋敷を探してキョロキョロと窓の外を見ていると、庭園の綺麗な一軒の白い屋敷が目に入った。


 《この周辺で他にめぼしい屋敷もないしきっとここなはず…!》




 「ここで降ろしてほしい!」


 「えっ?かしこまりました」


 急に伝えものの、ラズはすぐに反応してくれて御者に伝えて馬車を近くで止めてもらった。


 「ハルミアお嬢様、どうぞ」


 「ありがとう」


 扉を開けてもらい、ラズの手を取って降り立った。


 そのままラズと一緒に屋敷の前まで近付いていく。


 ラズは少し不思議そうな表情をしているけど、何も聞かずにいてくれている。とてもありがたい。


 屋敷の門越しに見える綺麗な庭園にはバラや様々な花が咲いている。


 手入れが行き届いているのできっと庭師も居るのだろう。


 小説では『カイナと義母の二人暮らし』って書いてあったけど、さすがに使用人は居たのだと気付く。


 《……というか、ここまで勢いでつい来てしまったけど、ここからどうしよう……》


 この先のことをあまり考えていなかった私は、どうにかして潜入できないものかと屋敷の周辺をウロウロし始めたところ。



 

 「ど、どなたですか…?」


 「あっ……!」


 ーー目の前に妖精が現れた。


 少し怯えた表情をしながらも私達のことを不思議そうに見つめてくる妖精みたいに可愛らしい美少女が、そこには居た。


 《まさかこの子が義妹のカイナ……!?》


 イガーナお父様と同じ白に近い金髪だけど、カイナは天然パーマなのかふわふわした綺麗な長い髪をしている。


 瞳は透き通るような綺麗な蒼い瞳で、大きくて宝石みたいに見える。


 形の良い唇も鼻も。


 背丈はまだまだ低くて、予想通り私よりも歳は下のように見える。


 そして儚げで可憐な雰囲気がまさしく『妖精』と例えられるような容姿だった。


 サンドレアお姉様も相当な美少女だし、今世の私もなかなかだと思うけど、私達とはまた違う雰囲気も相まって、『これは魅了されても仕方ないかもしれない…』と思わせるようなオーラが、この子にはあった。


 



 「あ、あの……?」


 「はっ…!ごめんなさい!私達は決して怪しい者ではないの!」


 「え?えっと…?」


  あまりのカイナの美少女ぶりについつい見惚れてしまった。 


 《カイナから声を掛けられて慌てて弁明しようとしたけど、これは逆に怪しいよね……》


 「私はハルミアっていうの。こちらの女の人は私の侍女のラズ」


 「はじめまして。ラズでございます」


 「えっ…あっ……はじめまして……」


 とりあえず自己紹介をしてみると少しカイナの怯えも和らいだ様子。

 その様子に安堵しつつ、話を続けてみた。


 「あの、あなたはこちらのお屋敷に住んでいるのよね?」


 「…はい、そうです……」


 「"たまたま""偶然に"ここを馬車で通りがかったのだけど、あまりにここのお屋敷の庭園が素晴らしかったからつい眺めてしまっていたの…驚かせたわよね?」


 「あ、そうなのですね…」


 にっこりと微笑みながらカイナの警戒心を解くべくできる限り優しい声色で説明した。


 カイナは私の話を聞いて、完全には警戒心を解けてはないみたいだけど納得はしてくれた様子。


 「もし良ければあなたのお名前を聞いても良いかしら?」



 「……カイナ……です」


 微笑みを絶やさずに声を掛けると、おずおずと応えてくれた。


 《やっぱり…!ほぼ確信していたけど、この子がカイナなんだ!》


 「カイナさん、素敵な名前ね!私のことはハルミアと呼んでちょうだい」


 「ハル…ミア…さま」


 慣れない様子でたどたどしく私の名前を呼ぶ姿はとても可愛らしい。


 《前世では家族の記憶が思い出せないけど、実は可愛い妹に憧れてたんだよね…!》


 「ところでカイナさんはここで何をしていたの?」


 「…やくそうをあつめていました…」


 「薬草を?すごいわね」


 《まだ4歳のはずなのに。薬草の知識があるなんて天才児なのでは?》


 対して私は薬草のことはさっぱりで、雑草と薬草の違いすら見た目では分からないと思う。


 「そう言えば、お屋敷には他には誰か居らっしゃる?」


 「……いまはおでかけしているので……ここにいるのは"しようにん"とわたしだけです」


 「そうなの」


 どうやらカイナの母親は不在のようだ。ほっと安堵し、胸を撫で下ろした。


 安堵していることを悟られないよう、残念そうな表情を浮かべる。


 「それは残念ね。カイナさんの親御さんが居らっしゃるのなら、この素敵なお庭を見せてもらえないかと思ったのだけど……」


 「おにわを…」


 残念そうな表情はそのままに、ちらりとカイナの表情を窺ってみると、私の言葉にカイナは何やら考え込んでいる様子。

 《これはもしかすると……!》


 「……よかったらみますか…?…おにわ」 


 「え?良いの?」


 「……はい」


 「ありがとう!じゃあお邪魔させていただくわ」


 カイナの提案に即刻乗らせてもらうことにした。


 《やったー!これで無事に予定通り屋敷の中に潜入できる!》


 カイナに門の鍵を開けてもらい、私とラズはカイナに案内してもらいながら庭園の中へ入らせてもらった。


 

 「わぁ、本当にどれも綺麗に咲いているし手入れも良くしてあるわね」


 「…"にわしのひと"がまいにちきてくれくれています。…"じじょ"とわたしもみずやりはしています…」


 「カイナさんも水やりをしているのね。とても偉いわ」


 「……そんなことは…ないです…」


 カイナを褒めると気恥ずかしそうに赤面して俯いていた。

 その表情は到底未来の悪女には見えない。


 《ーーそれにしても、カイナは想像していたよりもずっと普通の可愛らしい女の子というか。いくら4歳でも小説ではあんな感じだったからもっとワガママだったり裏表のある性格かと思っていたけど……どう見てもこの子は素直な可愛らしい子にしか思えないなぁ》


 「カイナさんはおいくつなのかしら?私は6歳なのだけど」


 この世界の貴族の子ども達はサンドレアお姉様も含めて様々なマナーや言葉遣い、勉強をしているからか精神年齢が高く感じられるけど。

 カイナは他の子ども達以上に4歳にしては随分と大人しいというか落ち着いていると感じる。


 《まぁ私は前世の記憶も思い出したことで精神年齢がぐっと上がっちゃっているけど…》


 

 「……4さいです」


 「そうなの。じゃあ私の2歳年下なのね。でも私よりもしっかりしているし、落ち着いて見えるわ」


 「そんな…」


 《あ、また照れてる》


 褒め慣れていないのか、私がカイナを褒める度にとても恥ずかしそうに赤面してしまう。

 でもその表情は決して嫌そうだとか困っているような感じではなくて。


 《むしろどちらかと言えば少し嬉しそうにも見えなくもない……はず。私の願望による幻覚とかでなければ》



 

 ーーカイナに案内をしてもらいながら一通り庭園を見て回った。


 案内をしてもらっている最中、積極的にカイナに話し掛けたり、事あるごとに褒めたりして、その度にカイナは照れていた。とても可愛らしい。


 「とても素敵だったわ。案内してくださってありがとう」


 「…よろこんでもらえてよかったです」


 「もちろんよ。カイナさんはお花にも詳しいから説明も聞けて楽しかったし」


 「……わたしもたのしかった……です」


 恥ずかしそうに顔を赤くしながらも可愛らしく微笑むカイナ。


 《可愛すぎる…!!ーーこれはもう大分心を開いてくれたのでは!?》


 正直もっとカイナと話をしていたかったけど、もう夕方になる。

 そろそろ帰らないとラズにも御者にも迷惑を掛けてしまう。


  「カイナさん本当にありがとうね。そろそろ帰らないといけないから失礼するわ」


 「あ……」


 「?どうかしたの?」


 「……あの……!」


 名残惜しく思いながらも屋敷を後にしようとしたら、俯いていたカイナが顔を上げ、声を掛けてきた。


 「またあえますか…?」


 カイナは少し声を震わせて大きな瞳を揺らしながら、そう聞いてきた。


 《ええ!?何その表情は!可愛すぎるでしょう……!!》


 カイナのあまりの可愛らしさに動揺してしまっていることを悟られないよう、笑顔をキープしたまま応える。


 「もちろんよ。また遊びに来ても良いかしら?」


 「はい…!…ハルミアさま」


 私がそう返答すると、カイナは嬉しそうに微笑む。

 その笑顔はあまりに『妖精』そのものだった。







 ーーカイナに屋敷の門の前まで見送られながら私とラズはその場を後にした。

 御者にかなり待たせてしまったことを謝罪し、馬車に乗り込んだ。



 《カイナ……凄まじい可愛らしさだったなぁ。小説のカイナと一緒に暮らすのは不安だったけど、あの子となら一緒に暮らすのも楽しみ》


 カイナの笑顔を思い出しながら馬車の窓の外を眺める。



 《あっ…》


 私達が乗っている馬車が屋敷から遠ざかっていく中、別の馬車がカイナ達の屋敷の前に停まったのが一瞬だけ見えた。


 《あれはもしかしたら…カイナの母親なのかな》


 今回は思い付きと勢いだけで屋敷まで行ってしまったけど、カイナの母親が居なくて本当に良かった。


 カイナの母親は、小説ではカイナと違って何か悪さを働くような描写は無かったけど、とにかくサンドレアお姉様のことは冷遇していたようだった。


 それはきっとサンドレアお姉様がイガーナお父様の実娘だからだと思う。


 つまり今世でもお父様の愛人ならサンドレアお姉様も私の存在も邪魔だと感じるはず。

 その場合、私とカイナの母親が鉢合わせしていたらきっとカイナには近付けさせてはくれなかった。


 《次にカイナに会いに行く時もカイナの母親と会わないように、もう少し考えてから行動しないと……》


 心の中でそんな反省をしていると不意にラズに声を掛けられた。




 「ハルミアお嬢様」


 「どうかしたの、ラズ」


 「……いえ。カイナ様、可愛らしい御方でしたね」


 「ええ、そうね」


 

 ラズは何か言いたげな表情をしていた。

 でもそれを聞くのは止めてくれたようでいつものように微笑んでそう言ってくれた。


 《きっと色々と聞きたいことはあるに決まってるよね…。あの屋敷の前を明らかに不審な動きでウロウロしちゃってたし……カイナのこととかも》



 詳しくは聞かずにいてくれるラズに心から感謝した。


 

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