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倶利伽羅怪談 ㇰリヵㇻ ヵィダン 〜社畜バディと奔放JKの怪異対応処理〜  作者: 路明(ロア)
【第似話】みィᑐιϯタ ミィッヶタ

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99/202

隠ს神၈ɭ ɿʓ村 四



「もういいかい」



「やかましいわ! よくねえよ」

 涼一(りょういち)は頭上を見上げてそう言い返した。

 鬼の巨大な足が、井戸のそばまで来てズンッと地面を踏む。

「きちべえちゃん、みぃつけた。ろくろうちゃん、みぃつけた、ちよちゃん、みぃつけた」

 そう言い、かがんで井戸をのぞきこむ。

「気っ色悪いやつだな」

 涼一は目をすがめた。

 

「おいあれ、見つけられたらこんどは子供が鬼なんじゃねえの? 交代ないのか」

 

 涼一は土屋(つちや)を横目で見て話しかけた。

「ううん……」

 土屋が(あご)に手をあてる。

「井戸の中にいて子供らにタッチできないから? ――あ、違う、そうじゃない」

 言いながら何かに気づいたのか、土屋が声を上げる。


「子供らがタッチできない? 自分らが鬼になって見つけても手が届かないから無効?」

 

 涼一は眉根をよせて鬼がのぞきこむ井戸を見た。

 さきほど井戸から這い上がろうとしていた手は、そういうことなのだろうか。

 

 もしくは、必死でそのことを伝えようとしたのか。


「だとすると、鬼のほうもループしてんのかもな。あっちはあっちで何か変な法則に捕らえられて成仏できないとか」

「あんなのは成仏しなくていい。地獄にたたき落とせ」


 涼一は、羂索(けんさく)を両手で持った。

 鬼が井戸の入口にぺたりと顔をくっつけて、ハァと不快な息を吐く。

「まつさぶろうちゃん、みぃつけた。きくちゃん、みぃつけた、やえちゃん、みぃつけた」

 さきほど聞かなかった名前だと涼一は思った。

 スマホを手にしたままの土屋を横目で見る。


「土屋、ちょっとこの名前メモっててくれる? まつさぶろう、きく、やえ」


「あ、おう」

 土屋がスマホを操作する。器用に親指を動かして書き込みした。

「みつちゃん、みぃつけた。しちべえちゃん、みぃつけた、よねちゃん、みぃつけた」

「みつ、しちべえ、よね」

「おう」

 土屋が書きこむ。


「とめぞうちゃん、みぃつけた。つるちゃん、みぃつけた、すえちゃん、みぃつけた」


「どんだけ殺ってんだ、ゴラァ!」

「とめぞう、つる、すえ……ね」

 土屋が冷静にスマホの画面をタップする。


「連続殺人犯の取り調べしてる刑事の気持ちが、なんか唐突に分かった気がするわ!」

「共感性高いねえ、鏡谷(かがみや)くんは」

 土屋が書き込みを続ける。

 



「よねちゃん、みぃつけた。きちべえちゃん、みぃつけた、すえちゃん、みぃつけた、やえちゃん、みぃつけた」


 しばらくして鬼が呼んでいる名前が被るようになってきた。

「ようやくぜんぶのコロシ吐きやがったな」

 涼一は眉間にしわをよせた。

「鏡谷くん、俺は個人的に刑事さんより保育士さんのほうが向いてると思うけど」

 土屋がスマホに書きこんだ名前を確認する。


「もしかしたら同じ名前が二、三人いる可能性もあるけどね……」


 スマホ画面を見つめながら土屋がつぶやく。

「その辺は、名前呼ばれりゃ自分のことだと思うんじゃねえの?」

 涼一は言った。

 土屋が、スマホをしばらく操作してからスーツのポケットにしまう。

「念のため私物のPCと同期させといた。何あるか分かんないし」

「おう」

 涼一はそう返事をした。

「おっけ。あとどうする」

 土屋が問う。



「俺が鬼になる」



 涼一は羂索(けんさく)を手に、鬼のほうに進み出た。

 予想がついていたのか、土屋は驚きもせずに横で頭をかく。


「きくちゃん、みぃつけた。しちべえちゃん、みぃつけた、みつちゃん、みぃつけた、たけじろうちゃん、みぃつけた、なつちゃん、みぃつけた」


 鬼は、あいかわらずハァ、ハァと不快な息づかいをしながら古井戸をのぞいて子供たちの名前を呼ぶ。

「おいこら、変態!」

 涼一は声を上げて呼びかけた。



「株式会社わたのはら営業課、ルート営業係り鏡谷 涼一(かがみや りょういち)だ! 見つけに来い!」


 

 土屋が、何がおかしいのか肩をゆすって笑う。

「おなじく営業課、ルート営業係り土屋 大輔(つちや だいすけ)

 自身も同じように名乗る。

「……おまえ下の名前、大輔(だいすけ)っつうんだっけ。忘れてたわ」

 涼一はつぶやいた。

「何か、まえもそう言ってたけど血洗島から会社に電話よこしたとき俺のフルネーム言って呼び出してなかった? 電話取った子から聞いたんだけど」

「んだっけ?」


「かがみやりょういちちゃん……つちやだいすけちゃん……」


 鬼がうめくような声で復唱する。

 暗いなかで、巨体がゆっくりと動いてこちらを見た。





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