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倶利伽羅怪談 ㇰリヵㇻ ヵィダン 〜社畜バディと奔放JKの怪異対応処理〜  作者: 路明(ロア)
【第似話】みィᑐιϯタ ミィッヶタ

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96/202

隠ს神၈ɭ ɿʓ村 一



「もういいかい」



 街灯もない真っ暗な山道を、土屋の運転する車について走る。

 またガラガラと(にご)った男の声がして、涼一は目をすがめた。

 助手席に置いたスマホに手を伸ばす。

「──おい。土屋」

 つくづくイヤホン用意しとくべきだったと思ったが、まさか二度もおなじパターンの怪異に遭うとか予想できるわけがない。


「──もういいかい?」


 通話口から、土屋の声でそう聞こえる。

「うわっ!」

 心臓が跳ね上がった。

 ギリギリ事故だけは根性で回避するという感じで、頭をフル回転させ周囲の状況をつかみブレーキをかける。

 ハンドルをつかんだまま、ガクッと身体が前方にゆれた。

 まえを走っていた土屋の運転する車が、しばらく進んでから静かに停まる。


「──何あった」


 通話口から、冷静な口調で土屋の声が聞こえる。

「おまっ……」

 涼一はハンドルに伏せた顔を上げた。


「おまっ、ふざけんな! こんなときに何でそのセリフだ!」

「──いま聞こえてる “もういいかい” のことか? って聞いたんだけど」


「……聞こえてんのか、あれ」

 涼一は確認した。

「──このままどうにかして異空間から出るのはできるかもしれないけど、たぶんおなじことの繰り返しになるんだろうな。なにか解決方法があるんだろうけど」

 土屋が冷静に言う。

「おまえやれ。何かやる気満々みたいだし」

 涼一は眉根をよせた。

「──お不動さんのご指名受けてんの鏡谷(かがみや)くんじゃん」

「知らんわ」

 涼一は周囲を見回した。

 おかしなことに気づいて、ライトをロービームからハイビームにしてみる。

「あれ……」

 土屋の運転する車の横。

 見覚えのあるものがある。


 さきほどの古井戸では。


「──鏡谷くん、まぶしっ。ハイビームで照らすとか、それこそ嫌がらせでしょ」

 前方車の土屋が不満そうな声で言う。

「わり」

 そう返してロービームに戻す。

「おまえの車の横。さっきの古井戸じゃね?」

「──ん?」

 土屋がそう返した。しばらく間がある。涼一はあわてた声が返って来るのを予想した。

 ざまあみやがれ、ちょっとは怖がれ。そんなことを念じてみる。


「──あ、まじだ」


 しかし期待に反して、返ってきたのはかなり落ちついた声だった。

 何なのこいつ。神経ワイヤーロープか。

 涼一は顔をしかめた。

 前回の新紙幣の怪異でいっしょに巻きこまれる前までは、単に小中学校がおなじだったやつという認識で、まあまあ親しかったもののあまり深い人格までは知らんかった。

 

 クソ図太いんでやんの。


 こいつならここでサバイバルになったら、自分からミミズを食料にしかねん。

「──さっきのとはべつの井戸ってことも考えられるけどな。むかしの集落とかあちこちに井戸あったもんでしょ。知らんけど」

「そのむかしの集落に、行く先々で遭遇してることがもう怪異なんだけどな」

 涼一は顔をしかめた。


 メールの着信音が鳴る。


 メールか。仕事関係かなと思い画面を見た。

 爽花(さやか)だ。

「何か、爽花がメールよこしてる。ちょっと見るわ」

「──おう」

 土屋が返事をする。

 通話をスピーカー状態のままにしてメールを開く。



 『二人で甘い時間を過ごしてるとこごめんね(絵文字)。りょんりょんが撮った動画の明度上げたりしてみたやつ送ります。【閲覧注意】』



 あいかわらずメールの文までわけ分からんやつ。

 涼一はウザさを感じながら、送られてきた動画を開いた。

「……なんだこりゃ」

 そうひとりごちる。


 映っていたのは、真っ暗な山中と思われた。


 うまく明度を上げているので、うすいライトを照らしたように景色が見えるが、おそらく肉眼では真っ暗な感じなのだろう。

 処理したのは引きこもりのナントカちゃんか。

 爽花に要求されて怯えながらPCを操作する姿を想像する。


 そもそもラーメン屋の店内を映したはずなのに、鬱蒼(うっそう)とした山中の景色というところからおかしい。


 画面が移動すると、見覚えのある井戸が映った。


「ぁ……」

 涼一は顔を上げて前方の土屋が乗った車の横を見た。

 あの井戸か。何かのカギなのか。

「──どした、鏡谷くん。さやりん何て送ってきたの」

「おれがラーメン屋で撮った動画の明度上げたやつ。おまえの横にある井戸が映ってる」

 土屋が黙りこむ。

 たぶん怖がっての沈黙じゃないんだろうなと思うが。


 やがて画面に筋肉隆々とした男が現れ、何かを両手でかかえて井戸のそばに歩みよった。


 かかえているものが、男の動きに合わせてブラン、ブランとゆれる。


「子供?」

 涼一は眉をひそめた。

 カスリの着物を着た子供に見える。

 小さな手が、うす暗い画面でも白く目立つ。

 指先まで力が入る様子はなく、ゆすられていた。

 医療にくわしくはないが、意識がない状態なんじゃないかと推測する。


 何かイヤな予感がして、涼一は眉間にしわをよせた。

 男はあたりを軽く見回すと、そそくさと井戸のわきに歩みよった。

 かかえていた子供を、両手に持ち替える。

 


 そのまま井戸に投げ捨てた。






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