表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
倶利伽羅怪談 ㇰリヵㇻ ヵィダン 〜社畜バディと奔放JKの怪異対応処理〜  作者: 路明(ロア)
【第似話】みィᑐιϯタ ミィッヶタ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

95/202

古井戸၈क॑ʓ道 ニ


「んじゃ、改めて誘導オッケーな」


 土屋(つちや)が車を降りて自身が乗ってきた車に向かう。

 ずっ太いやつ。

 涼一(りょういち)は拍子抜けして土屋の歩いていく姿を目で追った。

 自分もべつに繊細ではないと思うが、あそこまで図太くもない。

「……あいつ、やっべえ」

 後部からエンジンをかける音がする。ライトがこちらの車内を照らした。

 涼一も、キーを差しこみエンジンをかける。

 今回はUターンできる場所を見つけていたらしい。土屋の乗った車が、ゆっくりとバックした。

 三十メートルほど行ったさきで、ライトが右折するのが見える。

 前進で道沿いに戻った。

 涼一もあとについて行き車をバックさせる。

 土屋がUターンのために車を入れた場所が、古い井戸のそばだと分かった。

 井戸とか実物見たのははじめてかも。

 ハンドルを切りながら、暗闇に浮かぶ石造りの井戸と古い(おけ)のついた滑車を何となくまじまじと見つめる。


 井戸から、白い小さなヒトデのようなものが()い上がってくるのが見えた。

 着物のような(そで)がついている。

 小さな手だと気づいた。


「え……あ゙?」

 まずはじめに、事故っちゃいかんという意識がはたらく。

 もう九年も運転してるのだ。

 動揺したさいは、とりあえずハンドルと道すじを最低限認識するという習慣ができてる。


 だいたい、異空間で古井戸にぶつけた自損事故とか、はたして保険は下りるのか。

 保険屋にわけ分からんという顔をされるのが想像つく。


 Uターンを終え、もとの道に戻ってからいったん停まった。

 ハァッと息を吐く。

 スマホの着信音が鳴った。

 グローブボックスから取りだして画面を見る。

 土屋だ。


「──はい」


 げっそりとした声で応じる。

「──何した。井戸からミミズでも出てた?」

 涼一は顔をしかめた。

「おまえ、実はミミズ好きだろ」

「──ヘーキだけど考えたことない」

 土屋が淡々とそう返す。


「──ミミズ出たならいったん休む?」

「出たのは子供の手だ。……何つうか井戸から這い上がってきた」

 

 涼一は答えた。

 土屋がしばらく黙りこむ。何か考えてるのか。

 こんな場所できっちりウインカーをつけて停車しているところが、やっぱり図太い。

 涼一もさりげなくウインカーをつけた。


「──んじゃ行くか」

「おまえ何? どのへん基準?」

 

 涼一は顔をしかめた。

 土屋がスマホをシートの上に置いたような音がする。

 また前回とおなじく、通話はスピーカーでつなげたままという感じか。

 前方の車のウインカーが消え、ふたたび発進する。

 涼一はアクセルを踏んでついて行った。



「もういいかい」



 上空から、低くにごった男の声でそう聞こえる。

 涼一はフロントガラス越しに夜空を見た。


 鬼らしきものはどこにも見当たらない。


 前方の車の土屋は聞こえているのか。

 助手席のスマホを左手での取り、土屋と通話しようとする。

「おい、土──」

 運転しながらなので手元を見るわけにもいかない。つい間違ったところをタップしてしまう。

 通話が切れた。

「あっ、クソッ」

 街灯もない真っ暗な山道だ。

 運転しながら操作したら(がけ)に突っ込みそうで怖い。

「おい、いったん止まれ土……」

 

 着信音が鳴る。


 あちらからかけてきたかと涼一はホッとした。

「わり。手元見れんからへんなとこタップした」

「──りょんりょーん、え? なに? ちゃんと出れてるよ? 大丈夫だよぅ?」

 一気にげっそり顔になるのが自分で分かる。

 爽花(さやか)だ。


「何だ。こっちは取りこみ中だ」

「──取りこみ……えっ、ごめっ!」

 

 爽花が妙にすなおに声を上げる。

「──えええ、んじゃあとにするね。どどどどのくらい? いい一時間くらい?」

「知らんわ。土屋に聞いてみろ」

 あっちにしてみても、まえにいっしょに異空間で迷っているのだ。

 たぶん聞いてもおなじように分からんと思うが。

「──つちっ、土屋さんが主導権っていうか、せめ……」

 主導権というか誘導してんだけどなと涼一は脳内で返した。

 車運転しないやつはあんまり運転する同士の言い回しとか知らんから、まあ意味通じればいいかと思う。

 

「急ぎの用事じゃないなら切るぞ」

「──えええ、けっこう急ぎだと思うんだけど。でもそういうの、じゃ邪魔しちゃだめだよね?」


「分かってんじゃねえか、切るぞ」

 

 涼一は通話を切った。

 切ったとたんにまた着信音が鳴る。

 たぶんこんどこそ土屋からからだろう。


「──はい」


 涼一は通話に応じた。

「──鏡谷? いきなりつながらんから何かあったかと思った」

 土屋が言う。

「わり。へんなとこタップして切れたあと、爽花から来てた」

「──さやりん? 何て?」

「知らん。べつに急ぎの用じゃなかったんだと」

 「ふーん」と土屋が返した。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ