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倶利伽羅怪談 ㇰリヵㇻ ヵィダン 〜社畜バディと奔放JKの怪異対応処理〜  作者: 路明(ロア)
【第逸話】新紙幣怪談 ㇱン ㇱㇸィ ヵィダン

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倶利迦羅剣 五

「では、これから第一回倶利迦羅剣(くりからけん)会議をはじめまーす」


 土屋(つちや)が部屋中央のテーブルに座り、スマホを掲げる。

「いえーい! ぱふぱふぱふ」

 爽花(さやか)がパチパチパチと拍手する。


 部屋の一角には、見事な細工の倶利伽羅剣とみられるものが立てかけられていた。


 かたすみにある小物棚と小物棚とのあいだでは、身長二メートルはあるかというゴツい大男が身体を縮こませている。

 拓海(たくみ)ちゃんだとさきほど爽花に簡単に紹介された。不登校の十代後半くらいの子を想像してたが、たぶん涼一(りょういち)たちより歳上だ。

「おまえらいちおう他人様の部屋だろ。もうちょっと静かに」

「あ、ごめんねー、拓海ちゃん」

 涼一の言葉に爽花が小物棚のほうを向く。

「ひっ!」

 とたんに拓海は頭をかかえてさらに縮こまった。


「ささささっきまで優しそうなおじさんだったから、まままあいいかと思ってたのに、いいきなり生意気そうな女の子が来たここここ怖いいいい!」


「ん?」

 爽花が目を丸くする。

「わたし? べつに生意気じゃないよね?」

 自身を指さす。

「十歳も歳上の人間を出会い頭にパンダあつかいしてるとか生意気なんてもんじゃねえわ」

 涼一は眉根をよせた。


「つか拓海ちゃんにはいま、さやりんが元の顔に見えてんの?」


 土屋がさきほど出された缶コーラを飲む。拓海が部屋に置いてた備蓄だったそうだが。

「そういえばぁ」

 爽花が立ち上がり、拓海のまえにしゃがむ。

「わたしの顔に見えてますか、拓海ちゃん」

「うわああああああ!」

 拓海がますます身体を縮こませる。

「外に出てないから新紙幣(しへい)の変なホログラム見る機会もないってか。引きこもりもあんがい使えるな」

 涼一はテーブルの上のポテトチップスをつまんだ。

 これも拓海が部屋に置いてた備蓄とのことだ。


「このままホログラムに乗っとられた人が多数になったら、拓海ちゃんに探知機として助手していただくか」


 土屋がコーラを飲む。

「なんでいきなりもとにもどったんだろ。わたしにとり憑いてた亡霊消えた?」

 爽花がしゃがんでわざと拓海の顔をのぞきこむ。

「ぅわああ! やめて近づかないで。生意気そうな女の子怖い!」

「さっき部屋から追い出されてたほうをお不動さんが燃やしたからでしょ。たぶん」

 土屋が言う。

「えっ、そんなことあったの?」

「見えてなかった? さやりんモドキが鏡谷(かがみや)くんの首絞めようとしたんで」

「いいなーいいなー。何でりょんりょんばっか助けてもらえるの?」

 爽花が四つん這いでこちらにもどる。


「よくない。パシリだから優先的に援護してくれてるだけ」


 涼一は缶コーラを飲んだ。

「お不動さんも剣がもどるまで万全じゃないみたいだから、手助けしてくれる人に絞るしかないんでしょ」

 土屋がコーラを口にしながらスマホをタップする。

「神仏って万能じゃないんだ」

「知らんけど、べつの次元の存在だからこっちに介入するのに制限あるとか? 知らんけど」

 土屋が親指でスマホをタップする。「お」と声を発した。


「さっき、さやりんモドキがお不動さまを ”女か子供か分からん顔" って言ってたから調べてみたけど、お不動さまの像って "童子” なんだな」


 涼一は、土屋のスマホを見た。

 そういえばむかし侍のまえにあらわれたときは童子の姿だったという話だったか。

「性別は?」

「仏さまなので性別はない」

 土屋が答える。

「じゃあ、あの行員さんの姿も化身の一つ的な感じで間違いないのか」

「不動明王って大日如来の化身だってさ。本性がそもそもニコニコ女性っぽい顔ってことか」

 土屋が言う。

「おつきあいできちゃうじゃん、鏡谷くん」

「ええっ!」

 爽花が声を上げる。

「そっ、それって土屋さんはいいんですか?!」

「いいけど? なんで?」


「バカ話してないで本題入らね? そろそろ落ちついたろ」


 涼一は正座した姿勢のまま、ズボンで絨毯(じゅうたん)をススッとこするようにして拓海に近づいた。

「ひっ」

 拓海がまたすこしだけ縮こまる。

 さきほど部屋に入ったさいは、小物棚のうしろに隠れようとして小物棚がいっせいに倒れそうになる騒ぎになったが、すこしは落ちついたようだ。

 涼一は、内ポケットから名刺入れをとりだした。

「拓海さん」

 名刺を引き抜く。

「さきほどはとつぜんすみませんでした。わたくしこういう者でして」

 拓海の顔の横に名刺を差しだした。

 こうなったら、ふだんの仕事のスキルを活かして徹底的になだめすかしてやってやる。

 土屋もおなじように名刺を差しだした。意図を察したのか営業スマイルを浮かべている。


「本日はあの倶利伽羅剣をおゆずりいただきたくてお部屋にうかがったしだいなのですが、失礼ですがあの倶利伽羅剣はどちらで」


「ぅわ凄ぉい。営業の人みたい」

 営業だ。

 涼一は眉をよせた。

「メ……メルカリで、い、一万円で。あんまり近づかないでください」

 拓海が頭をかかえたままで答える。

 どこのバカだよ、ったくよぉ。涼一は顔をしかめた。





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