ガードレールの下 三
もよりのコンビニに徒歩で行き、弁当と飲みものと懐中電灯と電池を買ってくる。
久しぶりに手にしたビニール袋をカサカサと鳴らしながら、涼一と土屋は車には乗らずガードレールの向こうの水路をうかがった。
じかに見てもやはりまっくらだ。
「ここの奥に祠があるのか……?」
涼一はガードレールに手をつき、身をのりだして奥のほうをのぞいてみた。
ほとんどなにも見えない。
「場所的には、たしかにここで間違いないみたいだけど」
土屋が自身のスマホを手にして画像検索する。
「祠に行ったやつのブログもあるのな。"どうしても祠を見たい人は、金網をめくってくぐり抜けて行く必要があります ”――大丈夫か? 法的に」
土屋が眉をよせる。
「――降りてみるか……?」
涼一は下を覗きこんでみた。
「見に行ったやつもいるんだろ? けっこう」
「昼間だと思うよ?」
土屋が横でガードレールに手をつき答える。
「そもそも祠作ったむかしの人は設置しに行ってるんだし、そのあとも管理してたなら降りてもそんなに変な場所じゃないだろ」
涼一はガードレールに手をついて脚を上げてみた。跨いで行けるかどうか軽くシュミレーションしてみる。
大きなアクションはしにくい。つくづくスーツで来るんじゃなかった。
「これさ、むかしはもっと行き来しやすい水路だったんじゃないかな。ガードレールもとうぜんないし、段差もないみたいな」
土屋が言う。
「――そういや夢の風景が河原だったって言ってなかった?」
「ああ」
涼一はそう答えた。
気持ちの悪い夢の風景を思い浮かべる。
カラスが群れをなして鳴く空。どろりとした水があふれて真っ赤に染まった河原の石。
ただよう鉄くさい匂いと腐臭。
「もともとそれなのかもな。それならあんまりこわい思いも危ない思いもしないで祠の設置ができるわな。たぶん腕の件のお侍の時代も」
土屋がガードレールの奥をのぞきこむ。
「情景がだいぶちがうんだわ、鏡谷くん」
「そか」
涼一はビニール袋をガサガサと鳴らし懐中電灯をとりだした。
別売りで買った単三電池をカチャカチャと入れる。
「それを踏まえて行ってみるわ」
「鏡谷くん、勇者」
土屋が茶化す。
涼一は、もう一本の懐中電灯と残りの乾電池の入ったビニール袋を土屋のほうに投げて渡した。
土屋がおなじように懐中電灯をとりだす。
「お侍の時代と違って文明の利器があるんだザマミロ」
「だれに言ってんの鏡谷くん。ここの工事決めた明治のS県議会? それとも工事落札した業者?」
「どうせ談合しやがったんだろ、俺には分かってる」
「業者さんにまで化けて出られたらどうすんの……」
土屋が手元でカチャカチャと音を立てる。
乾電池を入れているんだろう。
ややしてから、カチッとあかりをつけた。
ガードレールを跨いで越え、ほそい足場でかがむ。
ネクタイを胸ポケットに突っこみながら下を照らすと、一メートルか一・五メートルほど下に地面が見えた。
工事のさいに均した土のようだが、いずれにしても降りられないことはなさそうだ。
「降りるぞ」
「おう」
遅れてガードレールを跨いでこちらに来た土屋が返事をする。
サポートしてくれるつもりなのか、おなじ地面を照らした。
足場にした位置に手をかけ、すこしずつ降りる。
うまい具合に地面に足が届くかと思ったが、懐中電灯ではあまり正確に目測がはかれない。
「あ━━スーツと革靴とか、アクション向いてねええ!」
やけくそになり声を上げながら最後は飛び降りる。
「いや黙って降りなよ。不審者だと思われたらどうすんの」
土屋がすこし離れたところに「よいしょ」とつぶやきながら飛び降りた。
なかは思ったよりずっと広い。
涼一はあたりを照らした。
そうとう向こうのほうまで真っ暗い空間が広がっている。
「こんなに広いのか……? 何ヘクタールあんだよ。東京ドーム何個分?」
「このあたり一帯くらいの広さに感じるな。――暗いせいか? それともT都の地下神殿みたいな洪水対策とかの空間?」
土屋もちがう方向をあちらこちら照らした。




