ガードレールの下 二
爽花の家の方向とはまったくちがう方向の道を選び、急遽レンガの橋のちかくにあるという不動明王の祠を目指す。
S駅の近く。
もうすっかり暗い。
県道と商店街のむこうに見えるS駅は、すでに煌々とあかりがつけられ、ホームに乗り入れた列車の車体が徐行運転ですべるように進む様子が見える。
祠は、県道の横にほぼ沿った生活道路の途中にあるらしい。
スマホのマップを見ながら祠の付近と思われるあたりを見回す。
周囲には古い水路と応急の措置のようにてきとうな配置で設置されたガードレール。
ところどころには金網まで張られているが、かんたんに退けられそうないい加減な印象のものだ。
想像したような祠はどこにもない。
土屋が、落としていた車のスピードをさらに落とす。
かなりのノロノロ運転で付近を徘徊するが。
「どこだ……?」
涼一はマップと見くらべながらあたりを見回した。
比較的おおきくて分かりやすい祠を想像していたが、ガードレールと金網に囲まれた古い水路のほかに目立つものはない。
「レンガの橋を目指していけば分かるとかだれか書いてなかったっけ?」
土屋が言う。
「ああ……FF外の自称おっさん」
涼一はエックスを開いた。
スクロールしてさがす。
「スクショとっときゃよかった」
「とってなかったの……鏡谷くん」
土屋がため息をつく。
「レンガの橋ってどれだよ」
涼一は周囲を見回した。
橋らしきものすらない。
水路の周囲は街灯も少なく、ガードレールのむこうの奥まった場所にいたっては、まっくらで何があるのかまったく見えない。
「鏡谷くん画像検索。もしかしたら橋とか祠とかの画像あるかも」
「おっ、なるほど」
土屋が車を寄せて停める。
苦情を言われるか警官でも来たらすぐに動けるようにか、ハンドルに腕を置いて周りを見回す。
涼一は、いくつか関連するワードを入れて検索した。
「橋……べつの県のレンガ橋じゃねえか。――不動明王の祠……いや罪人と千鳥を鎮めてるやつだって」
検索結果に文句を言いながら、いくつかのワードを検索バーに書きこむ。
「鏡谷くん、いいから落ちつけ」
土屋が車の外をうかがいながら言う。
「N食品の株価がすごいいきおいで下落したときよりは落ちついてる」
「あーあれはすごかった」
土屋が窓の外を見ながら答える。
「なに? 株やってたとか」
「ちがうけど、話題として派手だったろ」
画像検索して表示された画面をスクロールする。
「何にしろ、いまからここのどのへんかに突撃となると懐中電灯がいりそう。いったん百円ショップかコンビニよらね?」
土屋が提案する。
涼一は顔を上げて窓の外を見た。
「あかりと軽く食うもん調達するか……」




