ガードレールの下 一
車が市町村の境のようなややさみしい道に入る。十五分ほどで抜け、また建物の多い地域に入った。
「ここから北東の方向行くとその話の祠か? 爽花の家は北西なんだけど……」
涼一はスマホのマップをスクロールし、フロントガラス越しに前方を見た。
「倶利迦羅剣を拾うだけで済むなら、さきに祠に行って解決しちまったほうがよくねえか?」
そう涼一は提案した。
「うーん」と土屋がハンドルをにぎりつつ唸る。
「さっき電話したとき、さやりんかなり切羽詰まった感じでなかった?」
「いやそうなんだけど……」
スマホ画面を見つめて涼一は考えこんだ。
「いっぺん電話していまの状況聞いてやれば」
「ううん……」
涼一はスマホ画面を見つめた。
正直いうと面倒くさい。
あの年ごろの女の子だ。じっさいはたいした状況でもないのに、感情的になって「助けて」と泣き喚かれる可能性を想像する。
わざわざ電話をして、こちらも引きずられて判断を狂わされたくない。
「倶利迦羅剣とやらを拾ってやるだけだろ……。前例どおりならそれだけだよな」
涼一はそう確認した。
「拾ってやったらどうなるんだ? 亡霊たちが成仏するのか?」
「たぶん、お不動さまが万全の完全武装状態になる。それでガッツリ鎮めるのか、調伏とかするのかな。燃やしてたってのは、もしかして」
土屋が答える。
「あ、そこ右折」
スマホのマップを見つつ涼一は指示した。
土屋がウインカーを出す。
「調伏って? 除霊じゃねえの?」
「ホラーマンガとかの知識だけど、除霊はその場から追いだすだけ。浄霊は説得して成仏してもらう。調伏は強引にあの世に送りつける――だったかな」
「強引に」
涼一は復調した。
「それって、やっぱすげぇパワーとか霊感とか? 要るんだよな」
「要るんじゃね?」
土屋が答える。
「だから神仏か、神仏に全面バックアップしてもらえる偉い坊さんとかしかやれないんだろ、たぶん」
「いろいろなんだな」
涼一は助手席のシートに背をあずけた。
「ともかく解決さえすれば、爽花は自宅で勝手にもとに戻るんだろ? ほかの人も。わざわざ寄り道してるより、ちゃっちゃと剣ひろってやってお不動さまにもう一回爆裂炎上起こしてもらったほうが早くね?」
涼一は言った。
爽花のほうはたぶん綾子も駆けつけるだろう。
短時間くらい放っておいても、解決前提ならむしろこちらを急いだほうがいいのでは。
土屋が黙って前方を見る。
涼一は前方を指さした。
「このまま祠に行こ。まっすぐ」




