国道၆号線
高速道路を下りて国道に出る。
しばらく行くと、両端にショッピングモールや大型の専門店の建物がならぶ界隈にきた。
高速道路の無機質な遮音壁と人影もないエノコログサだらけの里山を見つづけたあとにこの風景は、かなりホッとする。
日常にもどった感があるというか。
「ここからどっち?」
土屋が問う。
「ああ……」
涼一は、手をのばして爽花の住む家の住所をカーナビに設定した。
まえに来たときには怪奇現象でぶっ飛ばされてるし、帰ったときには新幹線を乗り継ぎした。
車で来たのは初なので、けっきょく道筋はまったく分からん。カーナビもスマホもなかったら完全に詰むなと思う。
日の長い時期だが、さすがにもううす暗い。
じきに陽が暮れるだろう。
土地勘のない地域で暗い時間帯の運転はなるべく避けたかったが。
「ここのさきから、べつの国道入るみたいだけど……」
カーナビの画面がちらつく。ややしてからひどいノイズが入った。
「月――日――曜日。きょうも安全運転で――コロすョ」
涼一は、音量を調節しようと手をのばした格好で固まった。
土屋を見ると、ハンドルを握ったまま目を見開いている。
フロントガラス越しに街並みを見つめた。
「えと」
周囲には車が何台も通っている。
歩いている人は少なくあまり行き会わないが、ざっと見た感じおかしな敵意をこちらにむけている様子の人はいない。
中央分離帯にある植込みの木々や、両脇の建物から見える人、自身が乗っている車のボンネットや後部座席、リアウインドウまで見回すが、ネットカフェで見たような紙幣の群れもいない。
「……たまたまか?」
涼一はおそるおそる運転席の土屋に尋ねた。
「何つうか……本拠地ちかくなったから? 亡霊って電波みたいなものというか、電子機器に影響およぼすというか。ラジオの電波拾っちまったみたいな?」
「詳しいんでねえの、土屋くん」
顔が引きつる。
「いや……ホラーのマンガとかゲームとかの受け売り」
自分とおなじレベルか。
涼一は眉をよせた。
「……どうする? 変な誘導されてもやだしナビ無視する?」
涼一は手をのばした。
「俺、スマホ見て誘導するけど?」
「んー」と土屋がうめく。
「生ナビのほうがいいか……? 肉ナビ」
「キモいネーミングすんな」
涼一は身体をかたむけてポケットからスマホをとりだした。
「ネットまで乗ってこないだろうな」
スマホの画面を操作してマップを出す。
「……具体的にカーナビの電波に乗るとしたら、どこまで影響してんだ……?」
土屋が顔をしかめる。
そろそろ暗い。
土屋がハンドルわきのレバーを回しライトをつけた。
「ナビって、人工衛星とかも使ってなかったっけ? しらんけど」
涼一はスマホ画面をスクロールした。
正確な答えを検索したほうがいいだろうかと思ったが、後まわしにする。
だが言ってから、じわじわと鳥肌が立った。
「……やべ。何か怖くなってきた」
「俺も。宇宙空間フワフワただよう生首とか思い浮かべちまった」
土屋が顔をゆがめる。
「宇宙空間だと、血しぶきはダマになってプワプワ浮いてるのか……?」
「うゎロマン……」
土屋が嫌そうに顔をしかめる。
「ええと。まずこの国道まっすぐ。んで、ここから三個目の信号を――いや二つ目か。わり」
カーナビからひどいノイズが聞こえる。
「ジャまするヤツらがいるんダと」
「コロすべ」
「こロすべ」
「うわっ」
涼一は思わず声を上げた。




