ⴹジ⦡ンクシᴲン➡️ꡡ線➡️Ⲧ自動車道
「……そういや夢のなかでいたな。レンガ造りの橋から飛び降りた着物の女」
涼一はネクタイをゆるめた。
ふぅ、と息をついてシートに背中をあずける。
「──あ、それは聞いた気がする。行員さんとは違うんだっけ?」
爽花が答える。
「顔はよく見えなかったけど、面長っぽいっていうか、行員より大人っぽい感じ」
「ラスボスとも遭遇してんだ」
土屋が前方を見据えたまま言う。
「ラスボスなのか? あれ」
「ちがうの? 亡霊たちそそのかしたんでしょ?」
「そそのかしたって印象じゃなかったんだけどな……」
涼一はつぶやいた。
見たのはほんの一瞬だ。よう分からんとは思うが。
前方に案内標識が見える。もうすぐ目的のインターチェンジか。
「運転しながらだから細かい部分とりちがえてるかもしれんけどさ、橋がいまのレンガ造りになったのは明治以降なんだよね?」
土屋が問う。
「明治二十二年? 三年って言ったか?」
涼一は検索しようとスマホを持ちかえた。
「──リプくれた人は明治二十二年って書いてるよ」
検索バーに書きこむまえに爽花が答える。
「橋から身を投げたのって江戸時代でしょ? てことはその橋になる前?」
「ん?」
涼一は記憶をたどった。
夢のなかでは、たしかにレンガ造りのガッシリとした橋から飛び降りていた。
「んじゃ何だ? やっぱただの気持ち悪い夢?」
涼一は眉をよせた。
「ふつうならそう考えてるとこだけど、ここまでいろいろ符合するとなると、ただの夢じゃない感はあるよな……。たとえば時代がズレてるのも何か意味あるとか」
「どんな」
「知らん」
土屋が短く答える。
前方にまた案内標識があらわれる。
目的地が近い。
「あとは? めぼしい情報なしか?」
涼一は爽花に問うた。
「──んーとね……」
爽花がつぶやく。
「どうでもいいけど、おまえいま話しながらどうやってSNS見てんの? スピーカーにしてんの?」
「──拓海ちゃんのタブレット借りた」
「なるほど」
「引きこもりの拓海ちゃん? タブレットは貸してくれるんだ」
土屋が運転しながら尋ねる。
「だな」
言いながら涼一はふたたびカバンをさぐった。
「免許証あったわ。……あと保険証」
病院は臨時の休診とのことだが、診療費はどうなるのか。問い合わせてみるしかないが。
「──あ、りょんりょん、夢についてだけど」
爽花が切り出す。
「──T橋について解説してくれたFF外の人のやつ、りょんりょんの夢とものすごく一致率高いですってポストしたら、凄えーって盛り上がってる」
「そか」
あんまり嬉しいわけでもないが。
「──りょんりょんさんに伝えてって、いっぱいリプ来てるけど。りょんりょんさん日本を救ってください、りょんりょんさんは勇者ですか、りょんりょんさんご武運を祈りますとか」
涼一は無言で顔をゆがめた。
「──ぜんぶ読むね」
「……いらねえ」
きつく眉をよせる。
「あとめぼしい情報ないなら切るぞ。また何かあったらかけてこい。つか、もう近くまで来てるから直接会って話すことになるかもしれんけど」
涼一は通話を切った。
からだを少しかたむけ、スマホをスーツのポケットに入れる。
「ただの営業職の社畜だっての。なに期待してんだ」
そう言い眉をよせた。
「んでも状況的に、鏡谷くんが重要な鍵っぽくなってんじゃん」
土屋が言う。
「変なのキャッチしまくってるだけだろ。何でそうなってんだ」
「いちばんの鍵がお不動さまだとしたら、不動尊の孫に夢でお告げしてアシストたのむのはアリっちゃアリだな」
土屋がつぶやく。
「不動尊の住職もその身内の人間も、それこそ日本中に山ほどいるだろ。わざわざ平凡な社畜選ぶな」
涼一は眉をよせた。
「ほかの住職とその身内は、亡霊のホログラムに遭遇してないとか」
前方を見据えたままで土屋が言う。
「問題の祠にいちばん近いところに住む不動尊関係者だったとか、問題の祠のいちばん近くでホログラム亡霊に遭遇した不動尊関係者だったとか」
「運わりいな」
涼一はつぶやいた。
高速道路の出口が近づく。土屋がスピードを落とした。




