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「刀みたいな鋭い光──ふむふむ。んで大きな人魂になった」
爽花が復唱する。
メモでもしているのか。
「──そのあとドアごと物理的に炎上?」
「物理じゃないな。ネットのとも違うけど」
「──ん? 亡霊ホログラム紙幣ごとボワッて燃えたんでしょ?」
「ああ、悪い。ネットの炎上とはべつの意味の炎上って言いたかった。──いやその火自体も物理的じゃなくて幻覚っていうか」
自分もわけの分からん説明になってんなと涼一は思った。
「──でもじっさい亡霊がとり憑いた紙幣が一掃されちゃった感じでしょ?」
「ああ……まあ。だな」
やはりあれは、あの行員が助けてくれたってことで間違いないのか。
何者なんだか。
前方では、さきほど追われていた乗用車が警察車両に囲まれている。
「なんかいいもん見さしてもらったわー」
土屋がつぶやいて、現場を横目に追い越す。
「──じゃ、お友だちのりょんりょんの証言としてこのままポストするね」
通話口の向こうで爽花が言う。
「解決に関係ある話だとは思えんけどな」
涼一は軽くため息をついた。
というか、本人も知らん間にお友だちのりょんりょん名義になってるのか。
「──なにが手がかりか分かんないよ。とくにりょんりょんは、一人で毛色の違う体験してるのにオカルト推理スキルぜんぜんないんだから」
いらんわ、そんなスキル。
涼一は眉をよせた。
「でねでね、わたし有りあまる時間を有効に使って、情報収集したんだけど」
「……おう」
有りあまる時間って。
学校を休まざるを得ないのは、たしかにこいつのせいじゃないが。
「──まず、きのう会った病院、きょう急遽休診だって」
「へえ」
何でそんな情報ぶっこんでくるのか。
地元じゃない病院がいきなり休診でも知らんがなという感じだが。
ふいに涼一の頭にひらめいた光景があった。
「受付の人ら? そういやきのう笑ってるホログラムがどうのって話してたような」
「──りょんりょん、その場にいたの? それだと思う。職員の大部分が、きのうの深夜に呼吸の異常で救急車で運ばれたって」
「おい、ちょっと待て」
涼一はかたわらで運転する土屋を見た。
前方をまっすぐ見据えて運転しているので意見を求めづらいが、自身の勤める会社の女性社員たちがおなじ状況になったので、ついつい見てしまった。
「なに」
土屋が問う。
「あ――あとでまとめて話すわ」
涼一は答えた。
会社は何とか営業していたが、この事態が進んだら日本中の企業や施設がストップしやしないか。
地味にヤバい。
いったい、亡霊は何体いるんだ。
あの行員がネカフェにあらわれたものを殲滅したんだとして、あれでも全部じゃないのか。
「──でね。りょんりょん、むかしの処刑場みたいな夢見たって言ってたでしょ」
爽花が切り出す。
「処刑場か知らんけど、それっぽいの」
二回ほど見た気味の悪い夢を涼一は思い浮かべた。
血飛沫が飛び散る河原。
どんよりとした空から聞こえる腐肉をついばみに来たカラス鳴き声。
ぬめった血がドプドプと暗紅色の川を下り、それを見つめながら木の台の上でグズグズにくずれていく自身の頭部。
いまさらだが、あれがさらし首というやつか。
「──それについてリプくれた人いた。FF外からだったけど」
「……そのFF外っていちいちつけるの、必要な情報か?」
涼一は顔をしかめた。
「──んー友だちとしゃべるとき、けっこう付けるけど」
「いまから要点だけしゃべる訓練しとけ。何年後かに就職したらアホOLあつかいされるぞ」
涼一は言った。
「何の話になってんの、鏡谷くん。就職相談?」
土屋がハンドルをにぎりながら口をはさむ。
「気になるからスピーカーにしない?」
「そか?」
高速だと気が散るかと思って気を使ったんだが。
「土屋いま運転中だけど、スピーカーで聴かせるぞ。いいか?」
爽花に問う。
「──いいよー。当然じゃん、相棒だもぉん。BL好きな友だちが見たら尊いーって悶えそうー」
爽花がはしゃぐ。
意味分からんから無視しよ。涼一はスピーカーのアイコンをタップした。
「んで、何。有力情報か?」
県境に入ったのか、コンクリートの遮音壁の合間から木々とエノコログサの生い茂った里山の風景が見える。
「──読むよ」
爽花がそう切り出した。




