Ⲧ高速道路➡️Yジ⦡ンクシᴲン
県道を五分ほど車で走り、国道にさしかかる。
国道を北方向に十五分ほど行き、高速に乗った。
料金所で出したサイフを助手席の涼一がポケットにしまうと同時に、土屋がアクセルを踏む。
スピードメーターの針が一気に動いた。
「おまえ、きょうはあと回るとこないの?」
ネクタイをなんとなく直しながら涼一は問うた。
「ない。さっき直帰するって連絡してきた」
「そか」
こいつの車で来られるなら、もう少しいろいろ持ち出せばよかったか。
新幹線に乗るつもりだったので、スーツで来てしまった。ふつうの外出着でもよかったなと思う。
「さやりんのお言葉にあまえて、きょうは泊めさせてもらってあしたはS県から出勤するから、りょんりょんレンタルのふとん貸してくれるとこ電話してくんない?」
土屋がハンドルを握りながら言う。
「ああ……」
涼一はもういちどポケットからスマホをとりだした。
ふとんのレンタルができる企業を検索する。
「S県のレンタル屋のほうがいいよな。現地受けとりで」
「んだな」
土屋が答える。
涼一はS県のふとんレンタルを検索した。
ポチ、ポチと親指を動かし、しばらくしてあることを思いつく。
「……てか、俺のふとん持ってきたらよかったんじゃね?」
「んだな」
前方を見据えながら土屋が答える。
「何で言わねえの」
「思いつかなかったのお互いさまでしょ」
涼一は速いスピードで流れていく景色をながめた。
「あーあ。レンタル代損した」
「あれ? んでも」
ハンドルを握りながら土屋が言う。
「――なんつったっけ、同居してた人妻? 自宅に帰ったなら余ってんじゃないの、ふとん」
「あ、そっか。綾子さんが使ってたやつ」
そう言って涼一は眉をよせた。
「……赤の他人がそのまま使ったら嫌がられね?」
「あーなるほど。運が悪けりゃ変質者あつかいされるか」
「レンタルが無難だろ」
涼一はスマホをタップした。
爽花のスマホにかける。
「──あ、俺。いまそっちに土屋と向かってるけど、ほんと泊まって大丈夫? あとそっちの県のオススメふとんレンタルどこだ」
「──ふとんレンタルって?」
爽花が不可解そうに尋ねる。
「土屋がつかう分。部屋は俺といっしょでいいから。客用のふとん一組しかないんだろ?」
「──ん? あるよ。もう何組か押し入れに」
爽花が答える。
涼一は顔をしかめて前方の景色を見た。
「ないって言わなかったか?」
「──言ってないよ」
「何の話になってんの?」
ハンドルを握った土屋が口をはさむ。
「分からんけど、ふとんあるらしい」
涼一はスマホの画面を見つめた。
「助かったじゃん」
「んだな」
何かよう分からんが。
爽花との会話は、あまり深く考えないでフワッと受けとるのがコツなのかもしれん。
「──あ、それよりりょんりょん、送信してくれた霊現象の動画、エックスで小バズりしてるよー」
「なにその小バズリって」
「──ちょっとバズってる」
「唐突にテキトーな日本語作んな」
前方を、ものすごいスピードで走っていく乗用車が見えた。
うしろからパトカーがこちらの車を追い越し、乗用車を追う。
「お、お。相手は時速二百キロちかく出しております。これはなかなかのスキルだ。だがパトカーには敵わない。国家権力をバックに時速三百キロ余裕というポテンシャルの持ち主です。白黒パンダボディで誇らしく全車両をゴボウ抜きしていく。さながら妖怪アクロバティックサラサラパンダ! ――さあ、カーブでどうなるか……お、追いついた、追いついた――行った━━━━タイーホ!」
土屋が運転しながら早口で実況をはじめる。
涼一もスマホを耳から離して、つい動向を追った。
「──りょんりょーん、聞いてる?」
爽花が呼びかける。
「お、おう」
あらためて通話に応じる。
「──やっぱあれオーブじゃんて。あんなすごい数見たことないって」
「そか。知らんけど」
涼一は苦笑した。
「──でね、FF外からリプくれた人がさ、個室内にあらわれたフワッとした光は、その場ではどう見えてたんですかって。あのままフワッとした光だったの?」
「いやあれは……」
涼一は、そのときの光景を思い浮かべた。
解決に関係あるとも思えないが。
「んと……個室に入ってきた瞬間は、もっと鋭い光に見えたんだよな。刀みたいな。んでそのあと大きな人魂になった」




