コーヒーショップ 一
動画の一覧をスクロールする。さきほど撮った動画をさがした。
アイコンを見た時点でかなり心配になったが、開いてみると懸念は当たった。
ドアの下にギュウギュウに詰まるようにいた大量の紙幣などはまったく映ってなく、ただ出入口の周辺にすさまじいホコリが舞っているだけだ。
「うっわ、掃除してないんかなここ」
土屋が動画をのぞきこんで顔をしかめる。
涼一がたどたどしい訛りで答えを誘導する声は入っているが、それに答えていたホログラム亡霊たちの物騒な会話は入っていない。
「鏡谷くん、言語学の人からクレーム入るよ、これ」
「うるせえよ……」
涼一は顔をゆがめた。現象への恐怖より恥ずかしいほうが先に立つ。
ちょくちょくノイズまで入っている。
アプリの不具合かなと涼一は眉をよせた。
動画のなかでは、出入口ドアの真ん中あたりが五、六秒ほどグニャグニャとゆれた。
個室内にあわい光が走る。
何かが反射したのか。
やがてスマホのカメラが大きくゆれ、延々と天井を映す。
「なんだこれ」
土屋が目を丸くする。
「知んね」
涼一も顔をしかめた。
「とりあえず送る言っちまったからな。まあ送るか」
涼一はメールを開いた。
「動画撮ったけど、何か失敗した。一応送る」
そうひとこと添えて送信する。
「あー。飯食うか」
涼一は壁に背中をあずけた。
このあと自身のアパートの部屋も確認したいし、会社の様子も見にいきたい。
いろいろ動くまえに一息入れたほうがいい。
「食事は飲食スペース限定だけど、コンビとかで買ってくるなら個室で食べてもいいんだっけ。どっちにする?」
土屋が問う。
「ここで食べながら打ち合わせしたいとこだけどな……」
涼一は眉をよせた。
「さっきの死ぬほどホコリ映ってた動画見るとな」
「それな」
土屋が答えた。
ネットカフェを精算して外に出る。
街を歩く人の様子をチラチラとながめながら、もよりのコーヒーショップに入った。
コーヒー二つととオムライス、エビピラフをたのんでいつもの習慣で無言でかっこむ。
ひととおりたいらげてから、息をついた。
「だいたい、何でネカフェだったの」
皿を片づける店員の動きをながめながら土屋が問う。
「ホログラムの亡霊にとり憑かれただれかに聞かれたらまずいと思ったんだよ。襲撃してくるかもしれないとか」
涼一は答えた。
「ネカフェいても襲撃されたんでしょ」
「だからもうどこでも同じだなって」
コーヒーを飲みはじめたところでスマホの着信音が鳴った。
爽花からだ。
「おっ、おっ、JKの彼女か」
土屋が頬杖をついてコーヒーをすする。
「──はい、俺」
涼一は通話に応じた。
「──りょんりょんりょんりょん! なにあれスゲーじゃん!」
「ああ悪かった。俺もあそこまでショボい画になるとは」
数秒してから会話が噛み合っていないことに気づく。
「あ?」
「──すごい心霊映像! さすりょん!」
分かる日本語でしゃべれ。
「ホコリとノイズ凄えだろ」
「オーブじゃん! 大量のオーブ! それとノイズ入ってるとこの音大きくすると、変なうめき声聞こえるよ!」
涼一は土屋と顔を見合わせた。
「……いや話見えねえんだけど」
「ああ悪い」
涼一は通話をスピーカー機能にした。
「──同僚の土屋にも聞いてもらうけどいいか? さっきざっくりとは状況話した。北里さんのうしろ向きホログラムに遭遇済み」
涼一は爽花にそう説明した。
「つ、土屋さんていうんだあ」
爽花の口調が急に変わる。何かほわほわしてるというか。意味不明にときどき、はああ……とはさむ。
「みょ、苗字で呼んでるの? りょんりょん」
「は?」
「わたしの前では下の名前で呼んでもいいよ?」
こいつの話がますます分からん。
「中学のとき聞いたきりだから下の名前忘れた」
「んだっけ?」
土屋が答える。
「え、でもでも、さっきBL好きな友だちとラインして聞いたんだけどさあ」
「何やってんのおまえ。んなことしてるあいだにエックスの検索でもしたら?」
涼一は顔をしかめた。




