ネットカフェ 三
「──何か、おまえと話してると脱線多くね?」
涼一は眉をよせた。
「とくに気にならないけど」
爽花が答える。
「俺はすげえ気になる」
話のテンポが合わないのは出逢った当初からか。
相性が悪いんだろうな。しょうがないなと思う。
「つづき。──んで二回目に見た夢。血まみれの川はおなじ、木の台もおなじ。レンガの橋はなくて、こんどは木の台から起きあがって、白い建物をめざして歩いてた。──まわり見たら、何十人か何百人かって人が、いっせいにおなじ建物めざしてる。足元は河原で、血でビチャビチャ」
「──血でビチャビチャ」
爽花が復唱する。
「──うーん」
そう唸る。
「──りょんりょん、仕事もしかしてブラックなの?」
「ストレスでこんなの見たことねえよ」
涼一は顔をしかめた。何をいきなりストレス性の悪夢の路線に持って行ってるんだ。
「もういい。要点だけ言う──その白い建物ってのが、そっちにある造幣局だった」
涼一はそう言った。
やっとこの話にたどりついたか。ここだけ話せばよかったとため息をついて壁に背をあずける。
「画像検索したけど、夢で散ってた桜も造幣局に植えてあるのとおなじ種類っぽいやつだった。紅いやつ。ソメイヨシノみたいに白くない」
「──うーん」
爽花がもういちど唸る。
言いたいところまでは話したから、あとはどうとでも脱線しろと思う。
「──たぶんさあ、行員さんて味方じゃないかなあ。りょんりょんに何か警告して、安全なとこに逃がしてくれた?」
涼一は、耳にスマホを当てた格好で軽く目を見開いた。
「ん? 何そのとつぜんの結論的な」
「え、だって、霊体験でそういうの聞いたことあるから」
爽花が答える。
「霊体験……あんのか、そんな話」
「生霊に取り憑かれた人の体験談でさ、夢のなかで生霊に襲われたと思ったら、とつぜん夢の中が一家団欒の場面になったんだって。──えらい霊能者さんが言うには、それ守護霊が先祖の霊的なナワバリにぶっ飛ばして安全圏に逃がしたってこととかだっけ」
「だっけ」と聞かれても知らんがなと思う。
ニュアンスは分かった。
何か知らんがオカルト界隈としてはありえる話なのか。
味方と聞いて、つい納得するほうに気持ちがかたむいてしまう。
少なくともあの行員に恐怖感やイヤな感覚はなかった。
あらためて思い出すと落ち着くと言うかホッとするというか。
「敵じゃないのか……? 少なくともホログラムの亡霊とは別勢力?」
「──味方のふりして騙してくる悪霊ってのもあるみたいだけど」
爽花がそうつけ加える。
どっちなんだよと涼一は内心で問いただした。
午前十一時。
爽花との通話を終えて約三十分後。
同僚の土屋からようやく電話が入る。
涼一はあぐらをかいたまま、フラットシートのうえに無造作に置いたスマホを手にとった。
「──おう。待ってた」
スマホを通話の状態にし、そう応じる。
「──んで、いまどこ」
土屋が問う。
「駅前のネカフェ」
「──何ていうかさ、きのうからサッパリ話見えないんだけど」
「じっくり説明するから、できるかぎり早く来てくれ」
涼一は答えた。
「──急ぐの?」
土屋が問う。
「一分一秒争うとかじゃないけど、まあまあ急いだほうがいい」
涼一はそう答えた。
「──つかさ、ほんとうに鏡谷 涼一サン?」
土屋が怪訝そうに問う。
「来りゃ分かる」
涼一はそう答えた。
来たら渋沢 栄一の顔と対面することになるんだが、そこはパニクったところをガッチリ押さえつけて強引に話を聞かせるしかないなと思った。
体格も同じていど、年齢も同じやつ相手だ。
ふいをついて問答無用でやるしかないなと、利き手を開いたり拳を握ったりした。




