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倶利伽羅怪談 ㇰリヵㇻ ヵィダン 〜社畜バディと奔放JKの怪異対応処理〜  作者: 路明(ロア)
【第逸話】新紙幣怪談 ㇱン ㇱㇸィ ヵィダン

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23/202

駅➡️新榦線車内


 午前中に会社に到着はまずムリだ。


 きのう布団のうえで検索した時点で、もはやあきらめた。

 他県とはいえおなじ地方内なのに、まさか直通の新幹線がないとは。


 陽が昇る時間帯を待って、徒歩でもよりのバス停へ。

 爽花(さやか)が起きてきて朝食を食べていけとしつこくせまったが、「綾子(あやこ)さんと拓海(たくみ)くんによろしく」と言い振りきって出てきた。

 バスは通勤時間帯は本数が多めなようだが、それでも十分に一本。

 いちばん近い駅までバスで二十分ほどらしい。

 新幹線の始発はきのう検索したが、時刻表と同時に出てきた「乗り換え案内」という単語に目を丸くした。

 

 ここも地元も、そこそこ大きな市だ。

 あいだに直通の路線がないとかマジで目をうたがった。

 

 駅に到着する。

 バスのアナウンスが駅名を告げるが早いか、涼一(りょういち)はほかの乗客をムリに押しのけてバスから降りた。

 駅の構内に駆け足で入り、新幹線の乗り場をキョロキョロとさがす。

 あまり構造のややこしい構内じゃなくて助かった。

 これがT都のT駅や、О府のO駅やU駅みたいな迷路だったら絶望する。

 新幹線の乗り場の表示は、わりとすぐに見つかった。

 スーツのポケットに入れたスマホを取りだそうとしてやめる。

 会社に連絡しても、まだ出勤してる人はいなそうだ。

 乗り換えの新幹線に乗ってからか。

 まだ十分ほど時間がある。

 涼一は、駅構内のコンビニへと向かった。




「あ──鏡谷(かがみや)です。すみません、課長そこいますか?」


 乗り換え二度めの新幹線内。

 コンビニで買った焼き肉弁当は、さきほどまで乗っていた新幹線のなかで食べ終えた。

 たったいま、おなじコンビニで買った缶コーヒーを飲み終えたところだ。

 窓の外は、ながめを楽しむひまもない速さで景色が流れている。

 青々と草や葉が生いしげる県境の里山の風景が延々と続いていた。

 時間は七時半。

 いまごろアクビが出る。

 そろそろ社内のだれかは来てるかもしれん。涼一はスマホを取りだして自身の職場にかけてみた。

「──はィ、課長はマダ出勤シテおりまセん」

 変なアクセントのしゃべりかただなと眉をひそめる。

 声もしわがれた感じでかなりの高齢の人のように思える。

 こんな声や話グセの人、いただろうか。


「いなければ係長──」


「──はィ、ゎタしが係長デス」

 通話の相手がそう答える。

 涼一は、顔をしかめて向かいの無人の座席を見つめた。

 係長の声とは似ても似つかない。

 風邪でもひいたのか。

 昭和の根性論の時代とはちがうのだ、風邪をひいたら素直に休んでほしい。

 下手にがんばって社内スプレッダーになられても困る。


「……大丈夫ですか?」


 とりあえずそう言ってみる。

 遠回しに「風邪だろ、頼むから休め」と伝えたいが、どう言ったらいいだろうか。

 できれば自分が到着するまでに早退しておいてほしい。

「えと……風邪とか」

「風邪トはなんデスカ?」

 係長を名乗った人物がそう問う。

 涼一は顔をしかめた。

「えと……」

 通話口の向こうで紙をめくるような音がする。

 メモだろうか、書類。辞書じゃないよなと眉をよせた。

「スミマせン。アタシあんまり読み書きはできなクて」

 目が悪いという意味だろうか。

 メガネかコンタクトレンズは使わんのか。


「あーぁあ、風邪トハ感冒のことデスカ。コンなのにかかったら大変デス。お医者サンにかかる金子(きんす)なんて、とてもトテモ」


 感冒、金子(きんす)

 時代劇の人だろうか。

 そこまで考えてから、ゆうべ爽花(さやか)と台所でした会話を思い出した。

 怪現象を起こしているのは、二百年もまえの江戸時代の人かもしれという推測。

「……だれだ、おまえ」

 涼一は声音を落とした。

 もし万が一ほんものの係長だったら、このセリフは自分に成りすましたやつのイタズラで通そう。

「──はィ、ゎタしが係長デス」

 おかしなアクセントの相手が答える。

 涼一は眉根をよせた。

「……すみませんが、お名前よろしいですか」


血洗島村(ちあらいじまむら)の吉じ……」



 血洗島村って。



 涼一は目を見開いた。

 動揺して周辺をわたわた見回してから、通話をスピーカーにして「血洗島村」を検索する。

 血洗島のかつての地名か。


 もしかすると、あの土地にカギがあるのか。


 つい新幹線の進行方向と逆の方向を見る。

 地元にもどるのは解決を遠のかせるだろうか。

 間違った判断だったか。


 新幹線車内のアナウンスが流れる。

 澄んだ女性の声で、地元K県K市の駅名が告げられた。 





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