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倶利伽羅怪談 ㇰリヵㇻ ヵィダン 〜社畜バディと奔放JKの怪異対応処理〜  作者: 路明(ロア)
【第逸話】新紙幣怪談 ㇱン ㇱㇸィ ヵィダン

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21/202

雑居状態၈家 台所 四

 風呂から上がり頭にバスタオルをかぶった涼一(りょういち)が台所に行くと、爽花(さやか)があいかわらずポチポチとスマホを操作していた。


「ドライヤーつかう?」


 爽花がイスの背もたれに背中をグッとあずけてこちらを見上げる。

「出勤まえなら使うけど。べつにあってもなくても」

「つかうときは、わたしの部屋にあるやつ持って行っていいよ」

 爽花がスマホに目を移す。

「……ならいらない」

 涼一は眉をよせた。

 成人男性に抵抗がないのは分かったが、この子世間の男性に対する警戒心は大丈夫かなと思う。


「なに。有力情報って」

「ちがうよ。有力かどうかは分かんない情報」


 爽花が言い直す。

「……何でもいい。何がヒントになるかもサッパリ分からんし」

 涼一はバスタオルでバサバサと髪を拭いた。

 頭部に手がふれる感触はあいかわらずない。

 髪を洗っていたときは、とりあえず位置の見当をつけて手を動かしてみたらシャンプーの泡が立った。

 そのままだいたいの感じで洗髪を終えた。

 心もとないが、日常生活はいまのところ大きな支障はないらしい。


「味覚関連で検索してたら、真船 令奈がインタビューで言ってたこと書いてた人いてさ」


「……だれそれ」

 涼一は顔をしかめた。

「女優さんだよ。ネトクリの『いくら心中』とか知らない?」

 知らんわと内心で返す。

「その女優さんも変なホログラム見たとか?」


「ちがうの。時代劇の映画に出たとき、食事のシーンのご飯もぜんぶむかしの農民の家のご飯を再現してたんだけど、”ご飯が味気がなくて、漬けものを食べるとすごい濃い味に感じるんです。これが味ってものだって感激しちゃうくらい" って言ってたんだって」


 涼一は髪を拭く手を止めた。

「りょんりょんの言ってたことに、なんか似てるなーって」

「……ヒントになるかな」

 涼一は頭にかぶったバスタオルをとり、両手で簡単にたたんだ。

「分かった!」

 爽花が声を上げる。



「ホログラム見た人を乗っとろうとしてる亡霊は、むかしの人!」



 爽花がピンッと人差し指を立てる。

「ザックリしすぎだろ。どれくらいむかしなの」

 涼一はふたたび髪を拭きはじめた。

「んー」

 爽花が宙をながめる。

「江戸時代」

「適当いうな」

 バサバサ髪を拭きながらそう返した。

「あれ?」

 爽花が首をかしげる。

 また二人に増えて、すぐに一人にもどった。



「りょんりょんに成りすました人、天保(てんぽう)何年かの生まれとか言ってたって言わなかった?」



 涼一はふたたび手を止めた。

 会社に電話をかけたさいに出た、自分の名前を名乗った人物。

 アルファベットの発音が苦手そうだったので「昭和何年生まれ」と(あお)ったら、「天保十一年生まれ」と返した。

 涼一は顔を上げて、自身が借りている部屋のほうを見た。

 天保十一年が何年くらいまえなのか、とりあえずスマホで検索したい。

 爽花がポチポチとスマホをタップしはじめた。

 

「りょんりょん、天保って江戸時代!」


 声を上げる。

「当たったじゃーん!」

 そう言い、こちらに向けてピースする。

「いや当たり外れとかそういう問題じゃ」

 爽花が親指の動きを速め、西暦を検索したあと電卓のアプリを開く。


「天保十一年は百八十四年前! ざっくり二百年まえ!」


「二百年まえ……」

 涼一は爽花の手元を凝視した。

 成りすましの人物の言っていることが仮にほんとうだとしたら、あきらかに生きた人間ではない。


 この気味悪い出来事の連続を考えたら、そもそもが生きた人間やふつうの人間であるはずないのだが。


 江戸時代の人間なら、たしかにアルファベットの発音は苦手そうだ。

 ましてDNAなんて存在すら知らないだろう。

「え……つまり味覚がむかしの人間なみになってたって」

「わたしがコーラ飲んで異世界ポ~ン状態になったのもおなじ?」

 異世界ポ~ンって何だ。一瞬転移したみたいな意味だろうか。



「……少しずつ身体を乗っとられてるとか?」



 涼一は最悪の推測を口にしてみた。

 足元から血の気が引く。

 爽花が目を見開いてこちらを見た。

「わたしの場合、二人かな」

 指を二本立てる。

 さきほどと違ってピースではないだろう。


「やっぱホログラムのパターンに沿ってるよな。二人になったホログラム見た人は二人に分裂して、それぞれ二人の亡霊に乗っとられ……もし三人のを見た人がいたら三人の亡霊にってことか?」

「いまんとこ三人のホログラム見たって書きこみは見てないけど」

 爽花がスマホの画面を見る。


「冗談じゃねえわ。日本中どんどん乗っとられるのか? これ」

「亡霊さんて総勢何名くらいいるんだろ」


 爽花がスマホ画面を見つめる。

「何名って……」

 SNSでの話の広がり方を見ても、あきらかに一体や二体ではない。

 大勢が亡くなった場所に関係しているのか。

 せめてどこにいた亡霊なのか分かれば、いろいろと見当がつけられるかもしれないが。


 きょうは寝られないかもな。

 涼一はふたたび髪を拭きはじめた。





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