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倶利伽羅怪談 ㇰリヵㇻ ヵィダン 〜社畜バディと奔放JKの怪異対応処理〜  作者: 路明(ロア)
【第唔話】補陀落怪談 ㇷダㇻㇰ ヵィダン

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197/202

開ヵव"၈観音 二

 「さやちゃーん、ウーロン茶もあるんだってー」という声が爽花(さやか)の背後から聞こえる。

「──わたしオレンジジュースー」

 爽花が離れた位置にそう答えているのが通話口から聞こえる。

「何がオレンジジュースだ」

 涼一(りょういち)は顔をしかめた。

「いやアルコール飲んでそういう顔するなら分かるけど」

 土屋(つちや)が苦笑いする。

 

「その人のリプはあと終わり? さやりん」


 土屋が少し体をかがめて通話口に問う。

「──まってまって。まだつづきある。“さやりんさん、さっきべつのポスト見たら、いまS市の海にいるとのこと。K大橋の事故で足止めされているというポストも読みました。お見舞い申し上げます。お友だちのりょんりょんさんが観世音菩薩について知りたがっていたというのは、やはりこのことに絡んでのことでしょうか” 」


 涼一は眉をひそめた。

 

「おい、関係ない話に突入してね? そんなん読まなくていいぞ。時間のムダ……」

「──“お友だちのりょんりょんさんというのは、どうも数々の怪異を解決している方のようですね。女子高生霊能者とかかな?(憧れるなあ) りょんりょんさん自身のポストも見たいんですが、彼女本人のアカウントはないんですか?” 」


 涼一は頬を引きつらせた。

「りょんりょんちゃんは、自身のアカウントで自社の商品のステマしてまーす」

 土屋が小声でつぶやく。

「やかましいわ」

 涼一は低い声で返した。


「あとないな? 切るぞ」


 涼一は通話口に向かって告げた。

「──さやちゃん、だれ? きのうのカップルの人たち?」

 爽花の親戚の子らしい声が通話口から聞こえる。

「──んーもう。こっちなんていいから、二人の時間をだいじにしてって言ってるんだけさあ」

「切るぞ」

 涼一は手をのばして通話終了のアイコンをタップした。


「リプの話から何でどっかのカップルの話に移行すんの? 支離滅裂(しりめつれつ)だな、あいつ」


 涼一は眉をよせた。

「まあだいたい話は分かってきたから、さやりんにはあとは心置きなく花火大会たのしんでって感じだけど」

 土屋が言う。

浴衣(ゆかた)着るとか言ってたか」

「ちなみにいつなんだろ」

 土屋がスマホを手にして検索をはじめる。


「ああ、きょうだ。あと二時間後」


「ちょっと待て。あいつK大橋の通行止めで足止め食ってる言うわりに、何できょうの浴衣の用意とかしてんの?」

「さあ」

 土屋が返す。

「もともとさやりんたち学生だけ残ってあとは迎えに来てもらうはずだったとか、ほんとうは花火大会は内陸で見る予定で浴衣はレンタルとか」

「あー」

 涼一はソファの背もたれに背をあずけた。

「何なら、もっかいかけて聞いてみりゃいいじゃん」

「やだ。うざい」

 涼一は答えた。

 (はり)のしっかりとした天井を見上げる。



「開かずの観音ってのは、もといた海辺に帰っちまったのか……?」

「リプの内容聞いたかぎりだとそう推測できるってか。――だからそれで(しず)められてた船幽霊が悪さしだした……」


 

「……つって、もといた観音寺もこの辺でないの? まとめて守れっての」

 涼一は天井を見上げながらグチった。

 土屋がスマホで検索しだす。

「元禄の津波ってけっこう広範囲だったみたいだな……。遠くから来たんだとなると」

「いや遠くでもさ、移転した場所の仕事をまずしろよ。なにその異動した先が気に入らんから元いた本社にもどりましたみたいなの」

「観音さまとしてはそっちが居心地がよかった、もといた土地が海の事故が多かったからいまだに心配」

「前者だったら、はっ倒してやりてえわ」

 涼一は眉をよせた。



「えと、あのお二人にご用ですか?」

「あらあらまあまあ、中にどうぞ。――たこ焼きお食べになります? たまには食べていらしたらいいのに」



 玄関の外から幽霊夫婦の声がする。

「だれか来たの? お客さん?」

 土屋が背もたれに手をかけてふりむき玄関のほうを見る。

「来そうなやつなんてお団子か不動産屋くらいだと思うけどな……」

 涼一も玄関口を見た。

 幽霊の老夫婦が、だれかをうながしつつドアを開けて屋内に入る。


 玄関入口から、木蘭色(もくらんじき)の法衣とやせた足が見えた。



「土屋……」



 あの僧侶だ。

 土屋にそう告げようとしたとたん、窓という窓から大量の水が押しよせる。

 室内がぐらぐらとゆれて、涼一はソファから投げだされ壁に両手をついた。

 押しよせた水がみるみるうちに水位を上げ、涼一の首の高さまでくる。

 小さく立った波が、口から入りこんだ。


 しょっぱい。海水だ。


「土……!」

 土屋の姿が見えない。

 涼一は、体が浮きそうになりながらも土屋がいたはずの場所に手をのばした。


 何だこれ。


 ほんとうにあの僧侶は観音菩薩(かんのんぼさつ)の使いなのか。

 ここまでの推測はやはり誤りで、やはりあれは悪霊なのでは。

 倶利伽羅剣(くりからけん)は。

 さきほど行員に手渡された剣はどこに行った。


 涼一は、懸命に呼吸をしながら(あご)まで迫った水面をさがした。





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