ぉ世話になっحおιյまತ
「天気いいな」
真っ青に晴れわたった空を涼一は見上げた。
山あいの道をふもとから十分ほど車で来た広い霊園。
はじめて来た場所だが、霊園からすこし離れた場所に斜面があり、そこからふもとの街が見下ろせる。
「景色もいいー。ここの永代使用料っていくら?」
涼一はスラックスのポケットに両手を入れて尋ねた。
「人んちの墓参りにきて永代使用料とか聞く人はじめて見たわ、鏡谷くん」
駐車場に停めた車の後部座席から、青色系の花束と線香の束等々をとりだして、土屋がつぶやく。
バンッと音を立てて車のドアを閉めた。
「そもそも自分んちの墓参りに何で他人つれてくんの」
涼一はその場にしゃがんで膝の上に肘をついた。
ふもとから吹き上げる風がネクタイと前髪を乱すが、えらく心地いい。
仕事おわって着替えもせずにきたので、二人そろって山中にはかなり場違いなスーツ姿だ。
「しゃあないでしょ。こっちは退社したらまっすぐ墓参り行きたいのに、海まで乗せてくんないかとか聞くんだもん。この霊園、地元から遠いから職場近い俺の担当なの」
「んな予定あるって知ってたら聞かんかったわ。何で言わんかったの」
「なんか聞かなかったから?」
土屋が言いながらスタスタと霊園の奥のほうへと行く。
「墓のまえまでは行かねえぞー。おまえのご先祖にDNAが違うやつが紛れこんでるとか言われて呪われちまうわ」
涼一は、土屋の背中にむけて声を張った。
先日心臓マッサージをやったさいにヒビが入った肋骨は、五日まえに固定していたバストバンドがとれたと話していた。
まだ通院はしているらしいが、日常生活に支障はないらしい。
「この人が俺の肋骨に思いっきりヒビ入れた人ですってご先祖に紹介するから来なー」
土屋がスタスタと奥に進みながら大きな声で呼ぶ。
「夢まくらに立たれるわ、やめろコラ」
涼一は声を張った。
ざっと見わたしたかぎりでは霊園にほかに人はいないが、あちらこちらからかすかな線香の香りがただよっている。
祖父が不動尊の住職なので、見慣れた風景ではあるのだが。
墓参りを終え、土屋が手桶やペットボトル等々の墓参り道具を自家用車の後部座席に放りこむ。
ほんとうに「墓参り」だけだ。花そえて墓石に水かけて五、六分で終わった。
「掃除とかはしないの?」
涼一は土屋がいたあたりの墓石群を遠目に見た。
「掃除は、親戚の爺ちゃんとか婆ちゃんが来たときするからいいってさ」
「それならおまえが担当することないじゃん」
涼一はそう返した。
「んでもさすがに体力なくてそう年に何回もは来られないからさ。おれがお彼岸とかお盆とか顔出す担当」
土屋が運転席のドアを開ける。
「鏡谷は? 墓参りとか行かないの?」
「高校卒業以降、行ったことねえ……」
涼一は記憶をたどった。意識して行かなかったわけではないが、よくよく思い出すとそんな感じだ。
「化けて出ない?」
「いまんとこ」
「何ならそっちも俺が代わりに顔出してやろうか。どうせ鏡谷くんのお爺さんのとこか地元周辺でしょ」
「何なの、おまえって」
涼一は顔をしかめた。
「ま、いいや。海行くんでしょ。乗りな」
土屋がそう告げて運転席に乗りこみドアを閉める。シートベルトを自身のかたわらにのばした。
「おう」
涼一もそう返事をして助手席に乗る。
三日間の連休に入るので、知り合いの不動産屋が紹介してくれた海のほうの一軒家を安く借りた。
同じ市内の海側というだけだし、ほとんど営業上の付き合いで借りたという面もあるのだが、こんなちょっとしたリゾートとかまたいつ過ごせるか分からない。
三日間のんびりするのもいいかと思う。
車のボンネットのまえをとおり助手席側に回ろうとしたが、ふと独特の気配を感じて周囲を見回した。
「どした?」
土屋が運転席のドアを開けて問う。
「何か覚えのある気配が」
涼一がそう答えると、土屋が不審げに霊園内を見回した。
「ぶっちゃけると、行員さんがあらわれる直前の微妙な空気というか」
「そんなもん感知するようになったの、すご」
土屋があらためて周囲を見回す。
だが目のまえに見えているのは、晴れわたった空の下のだれもいない静かな霊園だ。
「いないよな……」
涼一は眉をよせた。




