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「運ばれたときさあ、肋骨にヒビ入ってたんだってさ」
爽花を途中のS県郊外で降ろし、高速に乗るためもよりのインターに社用車を走らせる。
助手席の土屋がおもむろに切りだした。
「バストバンドってのつけて固定してる。まあ一ヵ月もすれば完治するんじゃないかって」
どうりで動きがかなり限定されている気がした。
運転席のドアを盾にかがんでいるこちらの横でずっと立ってたもんなこいつと思う。
「痛みは?」
「固定されてるから、あんまり。いちお鎮痛剤もらったけど」
涼一はハンドルをカーブする道にそってかたむけた。
「悪り。ICUと合わせて治療費半分もつ」
「どこかのお笑い芸人のコンビみたいになってきたなあ」
土屋が、ハハッと笑う。
もしかして肋骨が痛くて思いきり笑えないがゆえの笑いかたなんじゃないかと心配になる。
「まあ、必死で心臓マッサージやってくれたみたいだし」
土屋がフロントガラスの向こうの景色を見る。
「……よく即退院とかできたな。ICU出てもひきつづき入院とか言われてるもんじゃねえの? よく知んねえけど」
「言われたけど、会社に電話して鏡谷くん生きてますかあ? って聞いたらМ県に出張中っていうから、こりゃ孤軍奮闘でやってるなと」
ほんとうに生きてるかって聞いたんだろうか。そこは冗談なんだろうか。涼一は眉をよせた。
「つか死の一歩手前まで行ったのかと思うと、空ってこんなきれいだったのかって。これまじで思うもんなのな」
もういちど土屋がハハッと笑った。
さきほどののんきな「天気いいなぁ」はそういうことか。
涼一はハンドルをにぎりながらだまって聞いていた。
「ご回復なによりです」
後部座席から、かわいらしい女性の声がする。
ルームミラー越しに見ると、いつものOLふうの格好をした霊池だ。
「あっ、おつかれさまでーす。そっちふりむけなくて、すみません」
土屋が顔だけ少し横をむけてあいさつする。
「ご回復してねえだろ。全治一ヵ月だとよ。あんたも治療費もて」
「融合していた霊団はさきほど冥途にてすべて初七日の裁判を終えましたので、安心して帰路におつきください」
霊池がいつものごとく噛み合わないセリフを返す。
涼一は目を見開いた。
さっき強制連行したばかりでもう終わったのか。
時間の計算が合わないなと思ったが、べつの次元のことなのでそのへんはカッチリ合うわけでもないんだったか。
「全員の裁判にかかる時間がこっちの基準じゃ測れないのは分かるけど、初七日の定義っていうか。全員、死んでから七日なんてとっくに過ぎてるからすぐ行われたってこと?」
土屋が横を向いて尋ねる。
「んでどうなった。やっぱ全員地獄行きか。取りこまれてた人らは無罪かせめて執行猶予にしてほしいけど」
「今回はごくろうをおかけしましたので、のちほど埋め合わせをいたします」
後部座席の霊池が、座った姿勢でゆっくりとおじぎをする。
「埋め合わせってなに。俺んとこにもナース姿で――いや、俺それやってくれるならハイビスカスの水着がいい」
「鏡谷くんのご希望はアサガオの浴衣じゃなかったっけ」
土屋が助手席で苦笑いする。
「ではおだいじに」
霊池がふたたび座った姿勢でおじぎをして後部座席から姿を消す。
「……つぎは美少年がアサガオの浴衣着てきたりしてな」
土屋がルームミラーから後部座席の様子を見る。
「やってみろ。それで接触してきたら、こんどこそぜったいパシリなんかしねえ」
涼一は吐き捨てた。
【第死話】死に水怪談 ㇱニミㇲ" ヵィダン
終




