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倶利伽羅怪談 ㇰリヵㇻ ヵィダン 〜社畜バディと奔放JKの怪異対応処理〜  作者: 路明(ロア)
【第死話】死に水怪談 ㇱニミㇲ" ヵィダン

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初七日法要 六


 ガイコツの腕がこちらにのび、涼一(りょういち)を捕らえようとする。


「うわっ!」

 涼一は倶利伽羅剣(くりからけん)をかまえたまま後ずさった。

 龍王の体が上空で大きく旋回し、巨大な上腕骨に噛みつき砕く。

 捕らえられるのは避けられたものの、人魂に変化(へんげ)した骨のカケラがあいかわらず隕石のように降りそそぐ。

 涼一は倶利伽羅剣をかまえたままふたたび身を縮めた。


 

「あのさあ、龍王! さんっ! ちょっと聞いていいか?」



 涼一は、はるか上空の龍王の頭部に向かって呼びかけた。

「俺、これ支えてる意味あるかぁ? ここに剣つきたてて車内に退避とかダメか?」

 龍王が大きな体を曲げてこちらを見る。

 「ぐる?」とかいうペットの犬猫のようなかわいらしい鳴き声が聞こえた気がするが、気のせいか。

「つかこれ、俺じゃなくてもよくないか? 何だったらさっきのウマのシッポに交代してもいいかぁ?」

 龍王に(すき)ができたと思ったのか、人魂がいくつかより集まりもういちど骨の腕の形になって涼一に襲いかかる。

「うわっ!」

 涼一は身を縮めつつ倶利伽羅剣をそちらに向けてかまえた。

 龍王が即座に骨の腕に向きなおり、巨大な口を開ける。

 バリッ、バリッ、という噛み砕く音とともに、こぼれた人魂が頬の横をいくつもかすめた。


「……助かりました、サーセン」


 涼一は身を縮めたままそう伝えた。

 龍王が長い体をぐるんと曲げ、こちらに頭部を近づける。

 先日土屋(つちや)が腕をつっこんだ件で敵意がないのは分かったが、それでも恐怖を覚えて涼一は半歩ほどあとずさっった。


 龍王は、涼一の顔に巨大な頭部を近づけると、まるで猫のようにぐるるるると(のど)を鳴らしてなつきはじめた。


 しぐさはかわいい気がするが、自分の頭から足元まで軽くとどく大きさとバリバリに硬いたてがみ。自分の身長よりありそうな口の大きさに引く。

「……サーセン。つつしんで支えさせてもらいます」

 涼一は目を泳がせた。



 車内に置いたカバンから、デジタル音がしていることに気づく。



 現代人のかなしい習慣だ。デジタル音がしているとまっさきに反応してしまう。

 自身のスマホの着信音だと気づいた。

 会社からだろうか。帰社の予定の時刻まではまだまだ時間はあると思うが。

 担当している企業のなかで、きょう約束していたところはあったか。


 それとも緊急の問い合わせ。


 ガイコツが、のこった人魂だけで形成したしゃれこうべの歯をガチガチと上下させながらこちらに向かってくる。

 龍王が、ふたたびグンと体をのばして突進した。


「ちょっ、電話出るけど」


 バリバリバリッと噛み砕かれた人魂が降りしきるなか、涼一は龍王に向かって声を上げた。

 とくに答えはないが、こちらも会社員と兼業なのだ。これくらいは勘弁してほしい。

 涼一は剣をかまえたままでジリジリとあとずさり、運転席のドアハンドルに手をかけた。

 ドアを開け、片手でカバンをさぐる。

 スマホを取りだした。

「──はい。鏡谷(かがみや)です。お世話になっております」

 かけてきた相手を確認するよゆうもなく通話のアイコンをタップする。



「──鏡谷、いまどこ」



 通話の相手の声を聞いて、涼一は目を見開いた。

 土屋(つちや)だ。

「えっ……ちょっ、何してんの、おまえ」

 なにから質問していいのやら。とりあえず現状を聞いてみる。

 手にした倶利伽羅剣が、グッと引っぱられた。

 車外に目を移すと、こちらに向かってきたガイコツの上下の歯がガチガチと音を立てながら龍王に噛み砕かれている。

 涼一は、降ってきた人魂を左手で防いだ。



「四百年待ったお不動さんのお使いだ。人質にしで裁判でうんといいこと言ってもらうべえー」



 三、四人の霊の声が重なり合い、駐車場内に響く。

「──鏡谷、道案内してほしいんだけど、いま時間大丈夫?」

 土屋が問う。

「いや悪い。まっじで取りこみ中」

 涼一は片手に倶利伽羅剣、片手にスマホを持ち、運転席のドアを(たて)にした格好で答えた。


「まじ前線基地になってんだけど。何おま、来んの?」

「行くから待ってて──いまT自動車道、Iインターのサービスエリアなんだけど、こっからどっち?」

 

 土屋が尋ねる。

「Iインターのサービスエリア……」

 涼一は龍王の動きに合わせて剣をかまえながら、付近の地理を思い浮かべた。

 地名からしてここに近そうな気がするが、なにせ会長宅まで以外の場所は土地勘のまったくないところだ。案内するほどには自信がない。


()り。サービスエリアの人に聞くかナビつかって」

「──そか。なるべく早く行くから持ちこたえといて」


「分かった。気ぃつけて」

「──じゃ、あとで」

 飲み会に遅れてくるようなノリで土屋が通話を切る。

 涼一は運転席のシートにスマホを置こうとして、ハッと肝心なことに気づいた。

 もういちどスマホを耳にあてる。



「つかおまえ、意識もどったの?! いつ?! ――つか、おいっ!」





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