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倶利伽羅怪談 ㇰリヵㇻ ヵィダン 〜社畜バディと奔放JKの怪異対応処理〜  作者: 路明(ロア)
【第死話】死に水怪談 ㇱニミㇲ" ヵィダン

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阿毘達磨 ァㇶ"ダㇽマ 五

 土屋(つちや)の実家に電話してから二十分ほど。


 爽花(さやか)のやかましい声が聞こえないなと思い、涼一(りょういち)は待合室内を見回した。

 必要最低限のあかりしかつけられていないので、待合室からすこし離れたあたりは暗い。

 まじでどこ行ったんだと顔をしかめる。

 このあと土屋の家族が到着したら、あらためて経緯やいまの状況を話さにゃならんのだろうが、それに加えて爽花の親戚にまで「置いて帰りました」とか言って責められることになるんだろうかと、ますますイライラする。


「おーい、おだんごー」


 涼一はソファから立ち上がり、やる気のない声で呼びかけた。

「置いて帰るぞ、コラァ」

 トイレかなと思って、暗い階段付近のトイレのほうまで行ってみる。

「おだんご、トイレか?」

 女性用トイレのまえで声を張ってみた。

 個室にいるあいだは恥ずかしくて返事なんかできんのかと思いしばらく待ってみたが、中で人が動いている気配すら感じられない。

「おだんごー、トイレじゃないのかー?」

 もういちど呼びかけて、スリッパの足音すら聞こえないのを確認してから、いったん待合室にもどった。

 ほかに行くとこあるか、と頭をかきながらソファのならぶフロアを見る。



 ソファの一つに、OLふうの女性が座っていた。



 どこかの企業の制服らしき服装に、セミロングのストレートヘア。

 こちらを見てにっこりと笑い、行儀のいい姿勢で会釈した。


 行員の霊池(たまいけ)だ。


 涼一はつかつかと歩みよった。

「ごぶさたしております」

 霊池がにこやかに話しかける。

 いやこのまえ会ったじゃんと涼一は思ったが、女の姿ではひさしぶりということなんだろうか。



「あんた、こうなること分かってたのか? お気をつけてどころじゃねえだろ」

「もとより予定にはないかたでしたので、わたくしの弁護は不要でした」



 涼一は品良くすわる行員の顔を見た。

 またいつもの神仏であるがゆえの噛み合ってない会話だ。

「――つまり、どうすりゃいいの」

「お気をつけくださいませ」

 涼一は宙を見上げた。

 何だこの、会話じたいループしてるみたいなの。


 そもそもガイコツの動きに関して順番が逆行してるってのはどこからだ。

 どこがいちばんはじめの出来ごとなんだ。


 涼一は、土屋の処置が続けられているはずの救急病棟のほうを見た。

「土屋のあれは、やっぱ俺が死神を連れかえったせいか? そんくらいならイエスかノーかで答えてくれていいだろ」

 涼一はそう問うてみた。

 行員がこちらの顔を見上げる。

「答えてくれたら、あんたのお使いをきれいさっぱり辞退してやる。あんたもこれで晴れて優秀な坊さんか、こころざしの熱い政治家に」

 行員が、にっこりと笑いかける。

「……いや俺も童子よりOLさんのほうがいいけど。できれば病院ならナース姿とか」

 何を脱線してんだと自分で思う。



「あの方々は四百回忌をすぎた霊ばかりなので、切りはなすのは難儀でしょう。ご健闘をお祈りいたします」



 行員の(ひざ)の上に、いつの間にか銅製の古美術品のような剣が横たわっていた。

 まえにも見た。日常形態の倶利伽羅剣(くりからけん)だ。

「いやそれ、保管してると銃刀法に問われそうでヒヤヒヤするんだけど」

「ご健闘をお祈りいたします」

 行員が、両手で剣をもちこちらに差しだす。

「神仏が何に祈ってんの」

 涼一は顔をしかめた。

 まえにもこれ言ったなと思い出す。ただの定型文なんだろうが。

「では」

 行員が、かたわらに倶利伽羅剣を置いて立ち上がる。

 きれいなフォームでおじぎをしてきびすを返した。



「いや、ちょっ、待て。土屋は、あれどうなんの。あんた神仏なら助けらんねえの?!」



 涼一は、行員の手をつかんで引き止めた。

「あんた、お使いもその相方も、いくらでも替えがきくとか思ってね……」


 小さくやわらかい印象の手だ。

 行員がふりむく。

 やばいと頭のなかに警告が走った。

 土屋が健在なら、ここで「何回やるんだ」とたしなめられているところだ。

 ガクリと膝から力が抜ける。

 そのままソファの座面に手をかけて床に座りこんだ。





「りょんりょん! りょんりょーん! しっかりしてしっかりして! 看護師さーん!」


 やかましい声がする。

 少し離れたところから、パタパタパタと小走りで近づく足音がした。

「大丈夫ですか?」

 頬をパシパシとたたかれる。知らない女性の声ということと、介抱に手慣れていそうな感じからするに、病院スタッフか。

 

「……あー……大丈夫っす」


 涼一はゆっくりと上体を起こした。

 毎度毎度こうなんども倒れてたら慣れてくる。

 倒れたときはソファの座面に手をついて床に座りこんだ気がしたが、気がつくときちんとソファにあおむけに寝かされていた。

 病院のスタッフさんが寝かせてくれたのだろうか。


 まさか行員さんじゃないよなと眉をよせる。


 行員さんに横抱きで運ばれた想像をしてしまった。

 あんななりでも本性は武装した仏さまだ。腕力あるんだろうなとか、つい考える。

「大丈夫ですか? お水お持ちしますか?」

 看護師が心配そうに顔をのぞきこむ。

「あ、大丈夫です。ちょっと、……何ていうか」

 涼一は前髪をかきあげた。

 そういや土屋の心臓マッサージをやったさいに乱れたままだ。みっともねえ格好してたんだなと片手でササッと整える。


「土屋さんが心配なあまり倒れちゃったんです! 恋人だもん、そりゃ心配だよね、りょんりょん!」

 

 爽花が声を上げて訴える。

 看護師が、「え」という顔でこちらを見た。

「……寝ぼけてんのか、おまえ。やっぱさっさとタクシーで帰って寝ろ」

 涼一は顔をしかめた。



 


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