表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
倶利伽羅怪談 ㇰリヵㇻ ヵィダン 〜社畜バディと奔放JKの怪異対応処理〜  作者: 路明(ロア)
【第死話】死に水怪談 ㇱニミㇲ" ヵィダン

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

149/202

೬"ㄘᣡにᒐよ੭ੇかな 四


「つまり死神さんは、俺と鏡谷(かがみや)のどちらにするかをいま選んでる最中……?」


 ハンドルを握りながら土屋(つちや)がそう聞き返す。

 爽花(さやか)を親戚の家に送ったあと、涼一(りょういち)のアパートに向かっていた。

 フロントガラスの外はすでに暗い。

 車が郊外の県道に入ると、人も車もまばらでポツンと立った信号機の赤色が暗い空に怖いくらい目立った。

 


「どちらにしようかな言ってるんだから、そうだよな。そうとしか思えんてか」

 涼一は(あご)に手をあてた。



 それなら、あの土屋の口にだけ落ちてきた水滴は何なんだ。死神が落とした末期(まつご)の水ってわけじゃなかったのか。

 口を水で濡らす儀式といったら、涼一は末期の水くらいしか知らない。

 日本ではけっこう宗派関係なく行われている儀式で、たしか陰陽道でもやるとか聞いたような。

 

「つか裏の天神さまってなに。何回の裏」


「野球とは関係ないでしょ、たぶん」

 土屋がウインカーを出しハンドルを回す。

「天神さまってググったら菅原(すがわら の)道真(みちざね)のこと指すんだってな。狩衣(かりぎぬ)蹴鞠(けまり)打法とかかまして “スガワラサーン” ってカタコト日本語の実況入るの想像したわ」

「鏡谷くん、いきなり想像力たくましいの、それなに」

 土屋がハンドルを回す。

「 “どちらにしようかな” は分かるけど、あれ裏の天神さまなんて言うっけ? ふつうに神さまとかじゃなかったか?」

「あの唄って地方によってかなり違うらしいよ」

 土屋が答える。

「なる」

 涼一はそう返して暗く車の通りのない県道のさきを見つめた。

「かくれんぼのときもちょっとそんな話あったな」


「どこの国でも長い歴史あればそんなもんみたいだよ。マザーグースなんかもそうでしょ。おなじ唄でも各地でいろんなパターンあって、いま一般的に本とか載ってるのは誰だったかが編纂(へんさん)したやつだっけ」


 すぐ前方の信号が、赤だったがすぐに青に変わる。土屋がブレーキを踏もうと足を動かしてすぐにもとにもどした。

「マザーグースってあれか。(おの)で数十回メッタ刺しとか、首切り役人の斧が来たぞとかいうやつ」

「……鏡谷くん、ずいぶん特殊なのピックアップしてくんな。ふつうハンプティダンプティとかクックロビンとか言わね?」

 土屋がハンドルを回す。

「リジー・ボーデンってアイスになかった?」

「それたぶん似たようなべつの商品名」

 土屋がハンドルを回す。

 

「……ていうか鏡谷くん、まえに葬式霊の集団に斧でおそわれてんのに斧好きなの?」




 涼一のアパートの駐車場に到着したが、そもそも土屋を強引に泊めたのは死神に目をつけられたと思っていたからだ。

 死神がいまどちらにするか選んでいる状況なら、とくに自身が見守る必要はない。

 駐車場の区画線に停めた車のなかで、涼一は自身の住むアパートの棟をながめ助手席のシートに背中をあずけた。

 LEDの外灯に照らされたアパートの外壁が、暗い敷地内にくっきりと浮かんでいる。


「つか、どうする。きょうも泊まる?」


 土屋に問う。

「何か時系列がおかしい気がするんだけどな……んでも狙われてんのがおまえって決定してるわけじゃないなら、おたがい気をつけましょう、解散でもいいんだよな」

「解散でいいんじゃね? 解散」

 土屋もハンドルに手をかけて同じように運転席のシートに背をあずける。


「このたびは大変お世話になりました」

 土屋がこちらに向けてペコリと頭を下げる。


「いえいえ、たいしたおかまいもしませんで」


 涼一も定型文で返してうやうやしく頭を下げてみせた。

「まあアパートに無事に帰るまでが遠足ということで」

「バナナはおやつなんだな。了解」

 ついつい気がゆるんで意味不明なことを答える。

 涼一はドアをあけて車から降りた。


「んじゃ解散するけど、何か変なことあったら夜中でもいいからスマホによこせ」


 車のピラーに手をかけ、土屋にそう声をかける。

「うんまあ、おたがいにね」

 土屋がそう返した。

 涼一がドアを閉めると、土屋があらためてエンジンをかける。

 発車してウインカーを出し、アパート敷地から公道に出ていく土屋の車を涼一は見送った。

 




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ