೬"ㄘᣡにᒐよ੭ੇかな 三
夕方。退社後に土屋から駅前のカフェに来いとのメールが入り、涼一は指定された店に向かった。
土屋の無事を確認しつつ、午前中にまた遭ったガイコツのことを報告するつもりでいたが。
木目調と白い壁の落ちついた雰囲気のカフェ、窓ぎわのテーブル。
土屋と向かい合わせの席には、名前を忘れたがお団子頭がいた。
「りょんりょーん!」
ダボッとしたTシャツとキュロットスカートみたいなのにくっついたお団子頭が両手をふって声を上げる。
涼一は顔をしかめた。
「よっ」という感じに右手を上げた土屋の横に歩みよる。
「何でこれつれてんの」
「まえもあったんだし予想つくじゃん」
土屋が答える。
「ね、ねねね、二人で同棲はじめたの? どんな感じ? どんな感じ?」
お団子が頬を両手でつつみキラキラした目つきで意味不明なことを聞く。
「サイフでも忘れたんだと思ったんだよ」
「鏡谷くんでもあるまいし」
土屋がそう返す。メニューを手にとり、こちらに見せた。
「綾子さんとこに遊びに来たんだってさ。――すわれば?」
涼一は眉間にしわをよせながら、二人のあいだに位置するイスにすわった。
「りょんりょんからお誘いしたって聞いて、えーりょんりょんもそういうこと言っちゃうんだって」
お団子が、はぁぁとため息をつく。
「おまえ目の前で経緯見てたんだろ? ここ誘ったの土屋だけど」
涼一はメニューを開いた。
営業回りのあいまに食べる昼食は時間短縮のためにいつもおなじメニューにするが、ここではこのまま夕食すましたろと思ってじっくり選ぶ。
「りょんりょん、ここのオムライスふわとろでおいしいよっ。まえに綾子ちゃんと来て食べたことあるんだー」
「オムライスはたまごにビシバシ熱通ってるほうが好き」
涼一はメニューを見ながら答えた。
「中身ジューシーで外サクサクのハーブチキンがねー」
「肉汁たれると口元汚れそうでやだ。ハーブの匂い苦手」
「でね、サクサクのホットサンドと、とろとろのプリンおすすめ」
「パン系あんま食わんし、プリンは硬いほうが好き」
「ときどきメニューにあるシェフの気まぐれサラダってのがねー」
「気まぐれなやつ嫌い」
涼一はメニューをペラッとめくった。
おもむろに顔を上げる。
「そういや名前なんだっけ」
お団子に問う。
「んもう、夏目 爽花。さやりんだってば」
そうだった、爽花だったと思いながらメニューを選ぶ。
「土屋さん、りょんりょんって好き嫌い多いの?」
爽花が土屋のほうに身を乗りだして尋ねる。
「俺がつくった朝食はふつうに完食してたけど」
爽花がまたもや、はぁぁぁとウザいため息をついた。
「土屋さんがつくったものなら食べるんだあ……」
何回ため息ついてんだ。肺活量でも鍛えてんのかこいつと思いながら涼一はメニューをめくった。
「ガイコツまたあらわれたの? そっちの車に?」
チキンカレーを口に運びながら土屋が聞き返す。
涼一は、たらこスパゲティをフォークで食べながらうなずいた。
「やっぱ狙われてんのりょんりょんくんじゃん」
「その呼び方やめろ」
涼一は顔をしかめた。
「 “どちらにしようかな” ってほざいてた。いま選んでる段階らしい。分からんけど」
「え、ちょっと待って。話あんま見えない」
爽花が右手を上げる。
涼一は無視して、たらこスパゲティを食べつづけた。おもむろにフォークを置きコーヒーを口にする。
「俺も鏡谷くんのまいどおなじみの後だし食らったところでお泊り強制されて、いまにいたるって感じなんだけどさ」
土屋がスプーンを口に運びながら話す。
「このまえシーパラダイスに行ったとき、例の行員さんがあらわれて “お気をつけて” って言った直後に鏡谷くんがナゾのガイコツを霊感で認知」
「ふむふむ」
爽花がスプーンを持つ手を止めて合いの手を入れる。
「霊感とかねえし」
涼一はコーヒーを口にした。
「そのあと鏡谷くんはM県のお葬式に参列して、そこの喪主さんに “葬式から一人で帰ると死神にとりつかれるから二人一組で帰りなさい” と言われる」
「うんうん」
爽花がうなずく。
涼一はコーヒーを飲んだ。
「ところがこの忠告をまるまる無視して、鏡谷くんはお一人で帰った」
「あー、りょんりょんってそういうとこあるー」
爽花が声を上げる。
「おまえが俺の何知ってんだ」
涼一は顔をしかめた。
「後だししたのは、このお葬式で忠告されたことからの、それでも一人でお帰りしたってとこ」
土屋がそう説明する。
「鏡谷は俺が狙われてると主張したけど、けっきょくガイコツはあいかわらず鏡谷のもとにあらわれてイマココ」
「えっ? えっ? つまり二人が同棲のとこまで関係が進んだきっかけ?」
爽花がふわとろオムライスを食べながら声を上げる。
「話聞いてた? おまえ」
涼一は爽花をひややかな目で見つめた。
「聞いてたよう。つまり二人離れちゃだめってことだよね? ずっと一組でいないと危ないから思いきって同棲へ、っていう?」
涼一は無視して、たらこスパゲティを口に運びつづけた。




