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倶利伽羅怪談 ㇰリヵㇻ ヵィダン 〜社畜バディと奔放JKの怪異対応処理〜  作者: 路明(ロア)
【第死話】死に水怪談 ㇱニミㇲ" ヵィダン

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147/202

೬"ㄘᣡにᒐよ੭ੇかな 二

「……来んじゃねえ」

「発車してから言うな。危ないじゃん」


 五分後。

 社員用駐車場に車を乗り入れた土屋(つちや)に、涼一(りょういち)はしかめ面を向けた。

「しっかし、何で俺のとこに混じってたんだろ」

 こちらに資料をわたしたあと、土屋がきびすを返して自身の車のほうに向かう。

 涼一は周囲を見渡した。

 やはり行員の霊池(たまいけ)のしわざなんだろうか。

 もしそうなら、このへんでどちらかの車の助手席にでも乗りこんでいそうなものだが。

 土屋が乗ってきた車と、自身が乗ってきた社用車。それぞれの車内をウィンドウ越しに見る。



 いないか。



「んじゃ。あと気をつけて」

 土屋がヒラヒラと手を振りながら自身の車のドアを開ける。

「ああ……」

 涼一はそう返事をした。

「つか、それこっちのセリフだよ」

 そうつづける。


 心配すぎるんだが。そう思いながら土屋の背中をじっと見つめた。


 用事で外出してたらしい女性社員二人が、駐車場のまえを通りかかる。

 なぜか立ち止まってこちらを見ていた。

 二人で口に手をあてながらそわそわと目で会話しあっているが、何してるんだか。

 スマホを取りだしてこちらのほうにレンズを向けはじめた。

 何か撮影したくなるものなんてあったか。

 涼一は体を大きくひねって振り返り、自身の背後にあるものをうかがった。


 よその社屋と植込みと金網フェンス。とくに撮影したくなりそうなものはない。


 土屋が運転席のドアを閉めて車を発進させる。

 涼一はため息をついて見送った。

 駐車場のまえにいる女性社員たちは、まだスマホをこちらに向けている。



 UFOでもいるのか。



 涼一は、自身の背後の空を見上げた。

 ヒトカスの深刻さをせせら笑っているかのようなクソ晴れわたった空。

 営業行こ。

 涼一は、もういちどため息をついて車のドアを開けた。

 運転席に乗りこむ。

 女性社員たちはまだこちらに向けてスマホをかまえていたが、ややして目配せし合いながら立ち去った。


 まさか自分の会社の社用車を撮ってたんじゃないよな。


 何かバズりポイントでもあるんだろうか。

 まじで女子のネット文化が分からん。

 運転席に乗り、シートに背中をあずける。

 ともかく土屋には、何かあったらすぐに連絡よこせと胸ぐらをつかみながら伝えてあるのだ。

 死んでもよこすだろ。

 涼一は、ハンドルわきにキーを差しこんだ。



「ど、ち、ㇻ、ニ゙、ㇱ、よ、ぅ、か、ナ゙……」



 ふいに助手席から、歌うように唱えるしわがれ声が聞こえる。

 助手席を見た。

 午前中のさわやかな陽光に照らされ、骨についた細かいキズまでもがはっきりと見てとれるガイコツが、助手席に行儀よく座っている。


「うわっ!」


 涼一は運転席側のサイドウィンドウに肩で貼りついた。

 ガイコツは骨の手をスッと胸元まで上げると、二つのものを選ぶときのように右と左を交互に指さす。


「ど、ち、ㇻ、ニ゙、ㇱ、よ、ぅ、か、ナ゙……」


 どちらって。

 涼一は口元をひきつらせながらガイコツが左右を指す様子を見ていた。

 M県で聞いた言い伝えの内容は、二人一組で帰るとついてきた死神はどちらにとり憑くか迷ってけっきょくいなくなるとかじゃなかったか。

「……迷ってんのかよ。んで、いなくなるのっていつ」

 涼一は問うた。

 あんまりまっとうに答えられても困るが。

 ガイコツが、ぐるんと頚椎(けいつい)をねじり、こちらを見る。

「こっち見んな!」

 涼一はこんどはサイドウィンドウに背中で貼りついた。

 こっそりと左腕を動かし、いつでも開けられるように運転席のドアハンドルに手をかける。

「ど、ち、ㇻ、ニ゙、ㇱ、よ、ぅ、か、ナ゙……」

 ガイコツが涼一の顔に手をのばし、左右の耳元を交互に指さして歌うようにくりかえす。


「うるせえ、どっちにもすんな!」

「ぅ゙、ㇻ、の、て、ん、ㇱ"、ん、さ、ま、ノ」


「……天神さま? そこは天の神さまじゃねえの?」

 子供のころによくやっていた物を選ぶときのわらべうただと気づいたが、涼一が知っているものとは少し違う。

 裏の天神さまって、裏のか。なんで裏。

 天神さまが野球でもやってるイメージなのか。

 シュールだ。


「ァ、か、ま、め、ㇱ、ㇿ、ま、め……」

「そこは柿のタネとかミカンの皮とか、おせんべいとか」


 ガイコツが空洞の目でこちらの顔をじっと見る。

「ど、ち、ㇻ、ニ゙、ㇱ、よ、ぅ、か、ナ゙……」

 ふたたびそう唱えはじめると、姿を消した。





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