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倶利伽羅怪談 ㇰリヵㇻ ヵィダン 〜社畜バディと奔放JKの怪異対応処理〜  作者: 路明(ロア)
【第死話】死に水怪談 ㇱニミㇲ" ヵィダン

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140/202

冥土၈み兯ιϯ" 一

 地元のK県に涼一(りょういち)がついたのは、夜の九時ちかくだった。

 九時四分前を表示していた車内のデジタル時計が、エンジンを切ると同時に表示を消す。

 乗っていった社用車を社員用駐車場に停め、はぁ、と涼一は息を吐いた。

 すぐ近くにある社屋は、もう明かりも落とされて真っ暗だ。

 駐車場内を照らすLEDの外灯が周辺の道路も照らしているが人通りもない。


「あーつかれた」


 そうひとりごちて黒いネクタイをゆるめた。

 他県までの日帰り出張はやはりつかれる。せめて宿泊してえわと思うが、どこも予算不足か。

 まして今回は葬式参列だ。なんどか経験があるとはいえ、気を使うぶん疲労する。


 これからバス停まで歩いてバスに乗ってか。めんどくさ。


 こういうときは土屋(つちや)のように自家用車とか買おうかなと思うのだが、車は金がかかるというイメージがあって気が進まない。

「あ゙ー」

 涼一はいちど車を降りようと腰を浮かせたが、スマホの着信音が鳴った。もういちど座り直して通勤カバンに手をのばす。

 スマホ画面を見る。

 土屋だ。

 いちいち出張のねぎらいにかけてよこすほどお節介じゃないだろ。何の用だろと通話のアイコンをタップする。


「はい」

「──りょんりょーん、おつかれさまー!」


 予想に反して甲高いキャピキャピ声が耳に響く。

 涼一は顔をしかめてスマホをいったん耳から離した。

 画面を見る。たしかに土屋のスマホからだ。

「だれだっけ、名前」

「──わたしわたしー」

 キャピキャピ声が答える。

「だれだかは分かってんだよ。名前忘れたから名乗れ言ってんだ」

「──やだなあ。いつ覚えんの、りょんりょん」

 キャピキャピが()ねたような声で返す。

「覚える気ない。営業に一ミリも関係してないから脳の容量がもったいない」

「──そりゃあさ、りょんりょんは土屋さんしか目に入ってないの分かるけどさあ……」

 キャピキャピが、ほぅぅ、とため息をつく。

「土屋出せ。死んでんのか」

「──生きてるよぅ? どして?」

 キャピキャピがポカンとした感じで返す。


「──お電話代わりました、鏡谷(かがみや)


 聞き慣れた男性の声に代わる。

 土屋の声だ。涼一は荒く息を吐いて前髪をかき上げた。

「何でキャピキャピ出てんの」

「──鏡谷にM県みやげ頼みたかったーとかいうからさ。まだM県にいるかもしれんからかけてみればって」

 ケッと涼一は吐き捨てた。

「ざんねんだな、もうこっち。いま社員駐車場」

 土屋が何かゼスチャーで伝えたのだろうか。「ええーがっかりー」というウザい声が背後から聞こえる。


「何でキャピキャピといるの」

「──さやりん? いまコンビニでぐうぜん会ってさ。シーワールドから帰ったあと綾子さん家に連泊してて、あした帰るんだってさ」


 思い出した。爽花(さやか)だ。

 あー脳の容量もったいねえ。涼一は顔をしかめた。

「──りょんりょーん。つぎにM県行くときは、ささかまと牛タン食べたーい」

「そうそう立て続けに死人出てたまるか。縁起でもねえ」

 涼一はそう返した。



「──つかさ、大丈夫?」



 土屋が一転して真面目な声色で問う。

「なにが」

 涼一は、フロントガラスの外の街並みをながめつつ返した。


「このまえ行員さんこと水着童子があらわれてたじゃん。そのあとデカいガイコツ見て、そのまま葬式参列の話に突入だからさ。縁起でもないものがいきなり並びだしたなって」

「ああ……そういや」

 涼一は答えた。

 巨大なガイコツは、M県での葬式のときにも一瞬思いだした。 

 何か心配してたんだろうか。喪主に不気味な慣習の話をされたことは言わないほうがいいなと思った。

 もとより興味もないのでとくに話題にする気もない。けっきょく会長宅からはずっと一人だ。


「たまたまだろ。会ったこともねえ人さまんとこの会長の葬式が、何で俺に関係してくんの」


 涼一はネクタイをさらにゆるめた。

「──怪異には怪異の理屈があるんだよ。人間の社会の理屈じゃなくてさ」

「どこ知識」

 涼一は問うた。

「──いとこのお姉さんがむかし読んでた少女マンガ」

 土屋が答える。

 いろんなもん見てんなこいつと涼一は鼻白んだ。



 助手席から、ガシャガシャッという音がする。

 


 車の外の音だろうと思ったが、涼一は助手席を横目で見た。

 助手席に、うつむいたガイコツがすわっている。

 サイドウィンドウから入るLEDの照明に照らされて、一本一本の骨のシルエットがはっきりと目に映った。

 

「うわっ!」


 涼一は思わず大きな声を上げて運転席のドアを開けた。

 そのまま後ずさるようにして外に飛びだす。

 ガイコツは下を向いたままだが、ガシャッガシャッとかすかな骨のこすれる音がする。

 涼一は、運転席のドアをいきおいよく閉めた。





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