病院まɀ 七
「どういう話の筋道」
涼一は宙を見上げた。話のテンポが自分のコミュニティの人間と違ってて疲れる。
「筋道は通ってるじゃん。友だちになったっていうか、協力者?」
「友だちはかなり微妙」
涼一は顔をしかめた。
「女子高生がいきなり見ず知らずの男連れて帰って、泊めるなんて言ったらご家族あわてるでしょ。いらない」
「だってきょうは帰れないっぽいじゃん。野宿すんの? 蚊にさされるよ?」
爽花がしゃがんだ格好で自身の膝をかかえる。
「……いくら何でも終電までまだすこしあるでしょ」
「終電まであと三時間弱かな。タクシー載ったら地元ローカル線の終電はゆうゆう間に合いそうだけど、そこから大きい駅に移動したら新幹線の最終はヤバめだと思いまーす」
爽花が答える。
涼一は「う」と言葉に詰まった。
地元のつもりでローカル線しか考慮していなかったことに気づく。
「何で野宿。小さい駅でも駅前まで行けばカプセルホテルとかマンガ喫茶とか、最低でもコンビニくらいあるでしょ」
「あったかな……」
爽花が駅と思われる方角を見る。
冗談だよな。
いくら何でも、いまどき駅前のコンビニすらない田舎なんて。
「いまここのちかくの伯父さん家に住んでんの。ぜったいなにも言われないって」
爽花がよく意味の分からんピースする。
「……二人の渋沢 栄一に見えて家族が混乱してるから居心地悪いとか言ってなかった?」
「そ。居心地わるいから、伯父さん家にいることにしたの。どうせ学校行けないから、通学ラクかどうかとか関係ないし」
涼一は額に手をあてた。
やはり頭部の感触はないが。
はじめに前提と設定をひととおり説明してほしいと思う自分が間違っているのか。
「つまりぃ。はじめS市で川に落ちて、気がついたらなぜか血洗島消防署の救急車の中にいたわけ」
「うん」
涼一はうなずいた。
そこはさきほど聞いた。
「で、この病院に運ばれて。CT撮ったらなんか、体中にお札のホログラムが大量に詰まってるとか先生がゆうから」
涼一は相づちを打った。
そこまでの経緯は自分とほぼ同じだ。頭部喪失と二体に増殖の違いはあるが。
「んで親にむかえに来てもらってS市にもどったんだけど。家族みんなどう接していいか分かんない感じで、こっちもなんか居心地わるいっていうか、困惑っていうか。んで、どうせ学校行けないから、伯父さんのとこに居ちゃおうかなって」
「……伯父さんは何て言ってんの」
「海外に行ってるあいだ、お留守番してくれる人がいたら安心だからいいよーって」
爽花がふたたびピースする。
涼一は顔をしかめた。
要点がランダムに抜けてるような説明だが、つまり伯父さんとやらは海外の支社かなにかに転勤になり、そのあいだ留守宅になってしまう持ち家に身内の子が住んで留守番してくれるならありがたいと。
そんな感じか。
「……え。ってつまり、一人暮らし?」
そこ先に言え。
一人暮らしの女子高生のところに初対面の成人男性とかよけいにヤバい。
「いや、常識ってもんを」
「一人暮らしじゃないよー。旦那さんとケンカして家出してきた叔母さんと、引きこもりでニートやってたら実家追い出されて転がりこんだ従兄弟のお兄ちゃんがいるよ」
涼一は顔をしかめた。
いきなり情報量が多すぎる。
「だいたい、わたし一人暮らしなんてムリぃ。家事できないもん。詰むぅ」
爽花がケラケラと笑う。
また二人に増えて、二人で並んでケラケラ笑いはじめた。
「……いばるな」
涼一はそう返した。
「りょんりょんがいいなら、いまから電話入れるけど」
爽花がスマホの画面をこちらに向ける。
少し考えてから、涼一は曖昧にうなずいた。
初対面の他人様の家にいきなりいいのかなという気もあるが、親戚が二人も同居しているなら、まあお言葉に甘えてもいいだろう。
爽花がスマホをタップする。
「──あ、綾子ちゃん? いまから友だち連れてって同居させてもいいかなー」
綾子ちゃんって何だ。叔母とかだろうか。
軽く同居とか言ってるが、それで通るのか。涼一は複雑な気分で通話する爽花を見ていた。
「ん? ──かわいくはない。イケメン、ちょっとイケメン。んー、平凡リーマンイケメン?」
何だそれ。
涼一は鼻白んだ。




