ご無沙汰ᒐحおιյまਭ
縦浜十三景島シーワールド。
四つの水族館エリアとさまざまなアトラクション、プール、ショッピングエリア、レストラン、ホテル等々がそろった地元の複合型レジャー施設だ。
鏡谷 涼一と土屋 大輔は脱いだスーツの上着を腕にかけ、おみやげ売り場のプール側出入口からそちらをながめた。
大波の立つプールから手を振る山吹色のワンピース水着の人物を見て、涼一はものすごくイヤなふうに顔をしかめる。
連休の初日とあって、まあまあ盛況だ。
遊ぶ時間のある人間はいるところにはいるもんだと軽くイラッとしてくる。
プールの消毒された水の匂いが、出入口ドアの付近から立ちこめる。
水着でいればさほど気にならないんだろうが、スーツでいると湿気が気になりだした。
「帰るか」
土屋がスマホを取りだし時間を見た。
「だな」
涼一はきびすを返した。
キャラクターグッズやぬいぐるみがならぶ通路をスタスタととおり、反対側の出入口へと向かう。
スーツ姿の男性二人が、かわいく横たわるぬいぐるみや水生生物をディフォルメしたピンクやクリーム色のグッズに頭の上まで囲まれているさまは、えらく場違いでシュールだ。
通路にいる子供らに妙な目で見られているような錯覚をおこす。
プール側の出入口から、山吹色のワンピース水着にポニーテールの少女がバタバタと駆けてきた。
「えー、ちょっと待って。帰っちゃうの?」
夏目 爽花。
以前、怪異に巻きこまれたさいに知り合った女子高生だ。
先日手を貸してもらおうと呼びだしたところ無駄足を踏ませてしまい、おわびにここの入場料を要求された。
「一人で来るのヤダってんでお友だちのまで出してやったんだ、満足だろ」
涼一はふり返りもせずそう返した。
「じゃね。帰り気をつけて」
うしろを来る土屋がそう声をかける。
あとは親戚の綾子のところに泊まると言っていたので放って帰っても安心だろう。
土屋と二人で高校生のワンデーパス二人分。ムダすぎてヤな出費だ。
「ええー。二人にもここでデートして欲しかったのにぃ」
「昼間っから寝ぼけんな。このあと営業回りだ」
涼一はそう返した。
「プール手前までついてきたから、いっしょにプール入るんだと思ってた」
「おまえがワンデーパス渡されるだけじゃヤダ、いっしょに行きたい言うんで、おみやげ品納入する先輩の手伝い申しでて来てやったの」
涼一はそう吐き捨てた。
「友だちもお礼言いたいって言ってるんだけど」
「お気持ちだけでけっこうですって伝えとけ」
涼一はそう返した。
「JKの水着姿だよ? 世の男性のあこがれだよ?」
「自分で言うな」
涼一は眉をよせた。
「そりゃあさ、りょんりょんは土屋さんの水着姿しか興味ないのかもしれないけどさ……」
爽花が、うしろでホゥッとため息をつく。
またわけの分からんこと言いだした。プールの塩素で酔ったのか。
「ここから帰りかたは分かるな? バスと電車あるから」
「綾子ちゃんの旦那さん車で来てくれるって言ってたから大丈夫」
爽花が返す。
「あそ」
涼一は早口で返した。
おみやげ売り場の出口まで来る。
「おまえ、お友だち放っておいていいのか? もどってやれ」
プールのほうをふり向いてそう言うと、爽花がおなじようにふり向いた。
「だよね。そか」
すこし迷っていたが、プールにもどるようだ。
「んじゃあとで。二人に画像つきのメール送るねー」
そう言い残し、爽花がバタバタとプールにもどる。
「いらねえー」
涼一は、小走りで去る爽花に向かって声を上げた。
「転ばないようにねえー」
土屋がうしろで爽花の背中に声をかける。
「おま、保護者?」
涼一は眉をよせた。
パステルカラーのキャラと文字で飾られた出入口を出て、遊興客でさわがしい廊下に出る。
しばらく歩いて人通りのないスタッフ用廊下に入り、搬入口に向かった。
人けのない廊下を、前方からハイビスカス模様の水着を身につけた少年が歩いてくる。
薄暗い蛍光灯のあかりで顔が逆光になっているが、目の大きい女顔の美少年という感じの子だ。
客が間違えて来たのかと涼一は思った。
周辺のスタッフにそれとなく知らせようとしたが、廊下のさきにもうしろにも誰もいない。
しょうがないなというふうに土屋と目を合わせる。
「あの、ここスタッフの通用口ですよ。プールはそっち……」
「ごぶさたしております」
美少年が立ち止まり、ゆっくりと頭をさげて礼をする。
涼一はプールのほうを指したまま動作を止めた。
しぐさと口調にものすごく覚えがある。
顔を上げた少年の大きな目を涼一は見つめた。いつもと姿がちがうが、そもそもいつもの姿も化身の一つだろう。
「行員さん……?」
涼一はそう呼びかけた。




