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倶利伽羅怪談 ㇰリヵㇻ ヵィダン 〜社畜バディと奔放JKの怪異対応処理〜  作者: 路明(ロア)
【第惨話】櫻人ノ迷宮 サㇰㇻ ビㇳ 丿 メィキュゥ 

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132/202

無限ニ散ʓ櫻၈迷宮 一

 ザザザッと軽いものが大量にこすれ合う音。

 涼一(りょういち)は意識をとりもどした。ゆるゆると上体を起こす。


 すさまじい量の桜の花びらが周囲を舞い、あたりがよく見えない。

 

 たまに花びらが口に入り、「ペッ」と吐きだした。

 地面に落ちた花びらが、血が染みこむようにじわじわと赤く染まる。

 周囲を囲むように植えられた桜の樹には、よく見ると一本一本に名前と思われる文字が彫られていた。



 かつての一桜(いちおう)村だろうか。



 また異空間というか、むかしの幻影のような場所に飛ばされたのか。

 村人たちが葬式をしようとしたさいに名前を聞いたのは、この桜の樹に名前を刻もうとしたからだろうか。

 マジで答えんでよかったと涼一は息を吐いた。

 

 遠くから、ジャァンと妙鉢(みょうはち)の音がする。

 

「いっせいじょらい しょうそゆうしょ きっしょうしょうたん たいまじてん」

 真言宗の経だ。

 くわしくはないが、不動尊で葬式のさいに聞いたことがある。

「しょうじょうかんさく れいたくそうばん びふうようげき しゅまんえいらく はんまんげっとう じいそうげん」


 ザザッと舞った桜の花びらが視界を(おお)う。

 

「びょうてき せいせいく しほさい よくせん せいせいく しほさい しょく せいせいく しほさい あいはく せいせいく しほさい いっせいしさいしゅ せいせいく しほさい けんせいせいく しほさいてきえっ せいせいく しほさい」


 

 キあ━━━━━━━━━━━━━━━━!!!!!



 上空をから悲鳴のような声が聞こえる。

 巨大な白蛇のウロコが、頭上をうねっていた。

 桜の枝がヘビのように絡み合う。向こうのほうまでつぎつぎと絡んで行き、逃げられない迷宮をつくりだした。

「まん せいせいく しほさい そうげん せいせいく しほさい いしたく せいせいく しほさい こうべい せいせいくしほさい しんらく せいせいく しほさい しょく せいせいく しほさい せい せいせいく しほさい きょう せいせいく しほさい びせいせいく しほさい」


 スマホの着信音が聞こえる。

 

 涼一は、あたりを見回した。

 地面に降り積もった桜の花びらをかき分けると、通勤カバンと後部座席に置いていた倶利伽羅剣(くりからけん)が出てきた。

 この都合のよいチョイス。

 ぜったいお不動が絡んでるなと思いつつカバンを開ける。

 まずサイフと社用車のキーを確認した。

 サイフはカバンの中。社用車のキーは、スーツのポケットの中にあった。

「おけ」

 社用車に置きっ放しとなると心配だからなとホッと息をつく。

 着信音の鳴りつづけてるスマホを手に取った。

 土屋(つちや)だ。


「おつかれ」


 涼一は通話に応じた。

「──いまどこ」

「一桜村。たぶん異空間的なとこ」

 涼一はザザザッと桜の花びらが大量に舞う景色をながめた。

 真言はまだ遠い。

「──何でさきに行くの。危ないでしょ」

 土屋が子供を(とが)めるような口調で言う。


「連れて来られたんだよ、駐車場でヘビ女と遭遇して。──ただ通勤カバンと倶利伽羅剣もいっしょに転送されてるとこみると、転送については行員さんのしわざかもしんねえなって」


「──行員さんか……」

 土屋がつぶやく。

「こっちの都合で呼びだす手ってないんかな。──鏡谷(かがみや)くん、真言の一番かんたんなやつ知らない?」

「真言暗記まではしてないけど、さっき呼びだしに使えんかなって方法ちょっと考えついた」

「──なに」


「空に向かって “倶利伽羅剣こわすぞ” って叫んでみる」


 土屋がしばらく黙りこむ。

「俺がためしてみたかったけど」

 涼一はそう続けた。

「──どちらかというと、ハイビスカスの水着姿で倶利伽羅剣をこわしてみてくれませんかって」

「……おまえそれどんな性癖」


 ザッと桜の花びらが舞う。


 スマホで話す土屋の姿が桜の樹木のあいだから現れた。

「おっ?」

 土屋が目を丸くする。

「お、来れた?」

「いっせいゆうせい ちょうふくそうくい ほていし さいいっせいま たいほさ よちょうおんび しいこ」

 はげしい風が吹いて、さらに桜の花びらが視界をさえぎる。

 もはや桜の花びらの洪水だ。

 花びらにおぼれて息が止まるような錯覚を覚える。


「うわっ」


 土屋が両腕で顔を頭部を(かば)った。

「どした!」

 片手で目を庇いながらかけよろうとしたが、土屋はよろめき(がけ)から後ろ向きに落ちるような様子で姿を消した。

「おい、土屋!」

 呼びかけた涼一の手元のスマホから、土屋の声が聞こえる。


「──こっち。現世っつか、もとのところに帰った」


 スマホを耳にあて、涼一はホッと息を吐いた。

「あ゙ー。──N企画の玄関先の壁に背中打ちつけたわ」

「……おう」

 N企画との話は終わったのか。そこに軽く安堵(あんど)してしまった。

「お不動さまは呼びたがってるのに、一桜村の人たちは引き離したがってるって感じなのかな。──たぶんだけど」

「……何それ。村ひとつの霊だとしても、神仏の力と拮抗できるとかあるのか」

 涼一は眉をよせた。

 さきほどから聞こえる経の声が近づいてくる。

「──水神のヘビさんがパニック起こしてるからお不動さまも手がつけられないとか? 桜が障壁になってるとか?」

 土屋がそう推測する。

「マンガ知識か」

「いやユーチューブの動画」

 土屋が答えた。





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