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倶利伽羅怪談 ㇰリヵㇻ ヵィダン 〜社畜バディと奔放JKの怪異対応処理〜  作者: 路明(ロア)
【第惨話】櫻人ノ迷宮 サㇰㇻ ビㇳ 丿 メィキュゥ 

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130/202

株式会社わた၈はら 社員用駐車場 二

 土屋(つちや)が親指でスマホ画面をスクロールする。

 涼一(りょういち)は、横から身を乗りだして土屋のスマホの画面を見た。

 爽花(さやか)にきたリプを見てるのか。


「 “一桜(いちおう)村って知らなかった。地元だけど”、“きれいな村名(顔文字)”、“かっこいい名前ですね”……」


 土屋がさらにスクロールする。

「 “りょんりょんさんは元気ですか”、“りょんりょんさん、こんどは日本を洗濯してください”、“りょんりょんさん、令和の百姓一揆を主催してくれませんか”」

 滔々(とうとう)と読み上げる。

「……うるせえ」

 涼一は顔をしかめた。


「このまえは大塩平八郎の乱とかトレンド入りしてなかったか? なんか時代までぐるぐるループしてる感」

「おっ、なるほど」

 土屋がよく分からん合いの手を入れる。


「 “FF外から失礼します。現在のF町にあるY坂ですよね。悲鳴を上げている女が出没したとかいう言い伝えって” 」


 土屋がそう読み上げる。顔を上げてこちらを見た。

「来た……」

「来た……か?」

 二人で同時にそうつぶやいた。

「情報あるじゃねえか。あのお団子、何で黙ってやがった」

「一桜村ってワードがないから見落としたのかな……」

 土屋が頭を掻く。

 スマホ画面をスクロールした。


「 “個人的にですけど、それ日ノ出河の主とかかなって。あの付近にあった全滅した村の人たち、祖母に聞いたことあるんですけど、お葬式が終わらないって泣きながら言ってたそうです。墓標代わりにした桜が当時並木になってて、みんなでそこをぐるぐる回ってたって(続きます)” 」


「来た……」

 土屋が画面をスクロールしながら改めてつぶやく。

「あのお団子、情報かくしやがって。あした会ったらお団子くずして(まげ)にしてやる」

「鏡谷くん、だまってて」

 土屋が言葉をさえぎる。


「 “祖母は当時小さかったので怖くてあんまり村に近づかなかったそうなんですけど、それでも印象に残ってたらしいです。フラフラになりながら、なぜかお葬式を続けてたそうです。誰のお葬式かというと、日ノ出河の灌漑(かんがい)を提案した村長やその一族(続きます)”」


 土屋が読み上げながらスクロールする。


「 “(続きです)灌漑の工事に携わった村の男の人たち、ご飯届けたりして手伝った村の女性たち、その方たちの葬式を延々とやらされて倒れた村人たち、その村人が面倒見られなくなったので飢えたりして亡くなった村の子供たち。まあ結果的に全員ですね(続きます)”」


「全員の葬式を全員で延々とやってんのか……?」

 涼一は顔をしかめた。

「軽く地獄じゃね?」

 そう続ける。土屋が無言でスクロールした。


「 “(続きです)話が逸れました。それであそこの主なんですけど、これ個人的な想像なんですけど、日ノ出河の主が、すみかを河から沼にされて、同じところをぐるぐる回ってるようになった、その(たた)りか、主の現状が村人に投影されてるっていうか、そんなのじゃないかって(続きます)”」


「おなじところをぐるぐるループ……」

 涼一は(あご)に手をあてた。

「たしかに話的には通る気が……」

 土屋がつぶやく。


「 “(続きです)悲鳴を上げていたのがその日ノ出河の主だとすると、彼女(?)もどうしていいか分からなくてパニックなのかもしれませんね(終わりです)”」


 読み上げを終えて、土屋がふぅ、と息をつく。

「もしこの線だとすると……」

 涼一はスマホ画面を見つめたまま眉をよせた。



「どっちもかわいそうな状態っていうか」



 土屋がチラリとこちらを見る。

「鏡谷くん、すげえな。俺は歴史の一ページって感覚しかなかった」

 涼一は軽く目を見開いた。

「いや……人それぞれだと思うけど」

 そう返して座り直す。自分が感傷的な子供のように思えて恥ずかしい。


「かわいそうなのは間違いないけど、この線だとしたら相手は、例えて言えば大勢で水に(おぼ)れてる人たちだよ。たすけに飛びこんだら、全員で必死にしがみついてくるよ。覚悟できる?」


 涼一は、フロントガラスの向こうを見た。

 LSDライトが暗くなった駐車場とそこに停められた車両を照らしている。

 チラチラと舞った小雨の雨粒が、一瞬桜の花びらに見えて複雑な心持ちになった。

「覚悟できるほど聖人じゃねえし……」

 涼一は助手席のシートに背をあずけた。

 駐車場の入口で、警備員が金網のフェンスを閉めようとしていた。

 車を出すのかどうか問うようにこちらを見る。

「ひとまず出たほうがよくね?」

 涼一がそう言うと、土屋はキーを回してエンジンをかけた。

「覚悟できるほど聖人じゃねえけど……」

 シートベルトを締めつつ涼一は続けた。


「どうせお不動さんに手伝わされることになるんだろうしな」


 車が発進する。

 小雨だった雨が、少し強くなった。





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