コーヒーショップ 駐車場
土屋に自分の分の飲食代をわたして、涼一はさきにコーヒーショップの駐車場に出た。
行員に渡された倶利伽羅剣をスーツの上着のなかに隠し、あたりをうかがいながら社用車のドアを開けた。
後部座席の足元に、倶利伽羅剣を隠すようにそっと置く。
会計を済ませた土屋が、コーヒーショップのドアを開けて外に出てきた。
こちらを見ながらスーツの内ポケットにサイフを入れる。
「……何つうか。コソコソしてるとムダに怪しいよ?」
そう言い眉をひそめる。
「こんな大刀、店内で持ってたら銃刀法違反に問われるじゃねえか」
ドアをそぉっと閉める。
「鏡谷くんが隠しごとがあんがい苦手だと分かった」
「こんなときに何いらん性格分析してんの、おまえ」
涼一は顔をしかめた。
「こんなの車に積んでるときに職質でも受けてみろ。凶器準備集合罪でただちに逮捕とか」
「せいぜい任意同行じゃないの?」
土屋がスラックスのポケットに手を入れる。
「……何その落ちつき。任意同行されたことあんの?」
「いやないけど」
土屋が答える。
「社用車でヤバいなら、会社のロッカーにでも」
「おまえ笑わせようとしてる?」
涼一は、車のサイドウィンドウから車内の後部座席をのぞいた。
とりあえず外からは見えない。
「うちのアンティークの新商品でーすって言えばよくない? 見た目そんな感じでしょ。少なくとも生身相手には斬れ味なさそう」
土屋がスマホをとりだし時刻を見る。
「血洗島のときはたまたま像から落ちた剣だったから気にしなかったけど、お不動さまみずからレンタルしてもそんな感じなんだな。マジで銅かなにかの古美術品って感じ」
「ほんと使えんだろうな」
涼一は顔をしかめた。
土屋がそわそわとスーツのポケットにスマホをもどした。
「んじゃ俺、もう行くから。何かあったらスマホで連絡して」
土屋が自身の乗ってきた車のほうに向かう。
「おう」
涼一は運転席のドアを開けながら返事をした。
一軒目の会社を訪ね終える。
駐車場に停めた社用車のなかで、涼一はホッと息をついた。
白っぽい服装の人を社屋内で見かけるたびにビクビクしていて、話した内容がほとんど印象にのこっていない。
注文とか、間違えてないよな。
スマホを持った手をハンドルの上に置き、親指でスクロールする。会社に送信したメールの内容を確認した。
爽花からの着信音が鳴る。
そのままの体勢でアイコンをタップし、通話に応じた。
「はい」
「──りょんりょん、りょんりょん無事?! いま土屋さんから話聞いて、けっこう大変だったんだーって思ったの」
「けっこうじゃねえ、かなりだ」
涼一は顔をしかめた。
何であっちは「土屋さん」で、こっちはふざけた呼びかたのままなのかいっぺん問うてみたいが、器の小さい子供っぽいやつと思われても癪なのでやめておく。
「──えっ、でもでも土屋さんとずーっといっしょなんでしょ? これで絆が深まるとかさ、そういう」
「なに絆って。おまえの頭のなか東日本の大震災で止まってんの?」
涼一は顔をしかめた。
「震災って能登とか熊本とかしか知らないよう。──東日本のとき幼稚園にも入ってないもん」
「あそ」
涼一はそう返した。
あの大災害を知らん世代が小生意気な口聞けるくらいになったのか。時間の経過おそるべしだなと思う。
「──なんかさ、東日本って軽く地獄だったとか土屋さん言ってたけど」
「あー……うん」
涼一はあいまいな返事をした。
どんなわけでそんな話題になってんだ。土屋もけっこうわけ分かんないとこあるよなと思う。
「そんなときにもさ──二人は助けあってたんだ」
爽花がなぜかうっとりとしたような調子で言う。
「いやその当時は土屋と……逢ってたかな」
涼一は記憶をさぐった。
「──土屋さんは同じクラスだったって言ってたけど?」
「あー……んだっけ?」
宙を見上げる。まあ中学だったから出逢ってはいたはずかと思う。
「──二人で手に手を取り合って、助け合って庇いあって津波から逃げたんだ……」
「何の妄想混ぜてんの、おまえ。内陸だから津波こねえよ」
涼一は答えた。




