表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
倶利伽羅怪談 ㇰリヵㇻ ヵィダン 〜社畜バディと奔放JKの怪異対応処理〜  作者: 路明(ロア)
【第惨話】櫻人ノ迷宮 サㇰㇻ ビㇳ 丿 メィキュゥ 

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

125/202

コーᖶーシᴲップ 六

 行員が微笑して土屋(つちや)の顔を見る。

「……おい」

 涼一(りょういち)は行員をにらみつけた。


「ちょっとかわいいからって。いや、かなりかわいいけど。めっちゃかわいいからってニコニコで全部ごまかせると思……!」


鏡谷(かがみや)くん、タッチしたんだからちょっと黙ってようか」

 土屋が苦笑いする。

「うちの鏡谷くんもさ。ご覧になってたかもしれないけど、わざと死体にされそうになったり、棺桶(かんおけ)に入れられて葬式されたり。これで会社の仕事もとか、いくらAV好きの元気な男子でも身が持たないと思うんですよね」

「AVとか言うな」

 涼一(りょういち)は顔をしかめた。

 行員と目が合う。

「……そういうの見てねえから、あんまり。いやぜんぜん。一回も」

 

 

一桜(いちおう)村に以前、河がありまして」



 行員が首をかたむけてニッコリと笑う。

「河? 一桜村?」

 土屋がテーブルに置いたスマホをとりだし、検索する。

 涼一は横から画面をのぞいた。

 しばらくして土屋が顔を上げる。


「一桜村って、あの葬式してた人らの村? 明治に入って村はなくなってるってネットにあるけど、すぐ近くにあるのが例のヘビ女が奇声上げてたっていうY坂……」


 涼一は行員の顔を見た。

「あの葬式幽霊の集団とY坂ってのが関係あんのか? 河ってどこの河」

 涼一はふたたび検索をはじめた土屋の手元を見た。

「――これか? 日ノ出河をせき止めて灌漑沼(かんがいぬま)にして……河って、この日ノ出河?」

 土屋が検索で出てきたAIの解説を読み上げる。

 ややしてから眉をひそめた。



「……作物は順調に増産されたものの、村人はしだいに奇妙な行動に走るようになり、奇行は一桜村の全体に波及。その後村は全滅、廃村」



 涼一も眉をよせた。

「現代では、何らかの伝染病、麦角菌(ばっかくきん)などの子嚢菌による幻覚症状、または河川の生態系を変えたことによる日本住血吸虫等の寄生虫、食生活の変化による重度の脚気(かっけ)、レビー小体型認知症――さまざまな説がとなえられているが、はっきりとした原因は分かっていない……」

 涼一は、行員の顔を見た。

「んで?」

 行員がにっこりとかわいらしく笑う。


「かわいくニコニコしてりゃ男がほいほいパシッてくれると思うなよ、コラァァァ!」


「やめなさい鏡谷くん。お店に迷惑でしょ」

 土屋が(とが)める。

 ホールにいた店員が、怪訝(けげん)な表情でこちらを向いた。

「つか、つぎの営業行くとこ大丈夫?」

「そろそろ。ギリギリここ居れんのあと十分」

 涼一は店内のアナログ時計を見上げた。

「まあ、俺もあと十二、三分ってとこかな」

 土屋がスマホのデジタル表示を見る。


「知っての通り、俺ら仕事しながらだから。――俺にいたっては、感謝もされないのに鏡谷くんの護衛みたいになってるし」


 土屋がこちらを指す。

「いや頼んでねえ」

 涼一は顔をしかめた。

「んじゃどうすんの、いちいち気絶して。だれが塩まくの」

「……感謝した」

「うん」

 土屋がそう返事をする。



「河にはヘビ殿が棲んでいまして」



 行員が笑顔でそう告げる。

 涼一は土屋とともに目を丸くした。

「ヘビ殿? ヘビ?」

 土屋がそう返す。

「んじゃ、あの白蛇の擬人化みたいな女ってそれ?」

 涼一は問うた。


「河を(せき)止めて沼にしちゃったから生態系変わって死んだヘビの霊……」

「え……待て。一匹だけ化けて出てるのか? それともほかにもその女みたいなのが実はあちこちいるのか?」


 涼一は(ひたい)に手を当てた。

「たしかに一匹だけって不自然というか、棲んでたのが一匹だけなはずはないっていうか。それとも霊的な集合体とかそういう」

 土屋が宙を見上げる。

「土屋くんって、スピリチュアル方面けっこういけね?」

「……このまえ読んだマンガであったんだよ」

 土屋がそう返す。

「待て。単にヘビじゃなくて “ヘビ殿” って……」

 宙を見上げたまま土屋が早口で続ける。

 

 

「もしかして――水神とか?」



 土屋が行員を見る。

「その河にいた(ぬし)的なやつ?」

 涼一は目を見開いた。

 まさかと思いながら、土屋と同じように行員の顔を見る。


「正解でございます」


 行員が可憐な笑顔を浮かべる。

「ございますじゃねえよ、あんた!」

 涼一は声を張った。

 周囲の客や店員がこちらを見る。口をおさえて「すみません」とぺこぺこ頭を下げた。


「れっきとした神様じゃねえの? ――か弱い人間に相手させんな。レベルいくつ違うんだ、数値で示してみろコラ」


 涼一はテーブルに身を乗りだし行員に詰めよった。



「お使いください」



 行員が両手で長細いものを持ち目の前に差し出す。

 いきなり彼女の手元に現れたので、涼一は戸惑った。

 目の焦点がすぐに合わずに、年季の入った重たそうな金属のなにかをじっと見つめる。

倶利伽羅剣(くりからけん)ですか……」

 横から土屋がつぶやいた。


「桜の樹の伐採(ばっさい)などしていただけると助かります」


「俺ら林業の人か」

 涼一は眉をよせた。

 




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ