コーᖶーシᴲップ 四
「まずね、──え、やば。せんせ……あれ?」
爽花が不審な声を出す。
「先生来たの? じゃ切っていいよ。怒られるから」
土屋がそう応じる。
「え? あれ? 先生と思ったら──んん?」
「何だ、一人でゴチャゴチャ言ってないで実況しろ。就職してそんな電話対応してたらアホOLだと思われるぞ」
涼一は顔をしかめた。
「──廊下にさ、スーツ着た女の人がいたの。新任の睦っち先生かと思ったら、違くて」
「……なんだその睦っち先生って」
つい眉をよせてしまう。
「ことし新任で来た女の先生。みんな睦っちって呼んでんだけど、本人はそう呼ぶと “佐藤先生と呼びなさぁいっ” てフルフルフルッて首ふって怒るの」
「そりゃそうでしょ」
土屋が苦笑いする。
「おまえ教師いじめやってんじゃねえだろうな……」
涼一は眉をひそめた。
「──いじめてないよお。だって睦っち、かわいいんだもん。フルフルフルッて首ふって怒るとか、小型のわんちゃんみたいでしょ?」
「でしょって言われても実物しらんがな」
涼一はイスの背もたれに背をあずけた。
「ちなみにうちのりょんりょんくんは、女教師ものが好きでさ」
土屋が通話口に向けて言う。
「……おっまえ、高校生に言うな」
涼一は口元をゆがめた。
「──女教師もののアニメ? ドラマとか? あ、映画?」
爽花がはしゃいだ感じで尋ねる。
土屋が、しばらくだまって通話口を見ていた。おもむろに顔を上げてこちらを見る。
「……AVだよね?」
「確認すんな」
涼一は眉根をよせた。
「んで何? その睦っち先生がどうしたって。そもそもおまえんとこの先生が廊下歩いてたって報告いらんのだけど」
「──ちがうちがう。睦っちかと思ったら違ったって話」
爽花がそう答える。
「ますますどうでもいいわ」
「──んもぅ。りょんりょんは土屋さん以外には興味ないの分かるけどぉ」
爽花が、頬でも膨らませたのかという感じの口調で返す。
「何でこいつ。きのうから寝ても覚めても風呂入ってもメシ食ってもこいつといっしょで、こいつの情報はもうお腹いっぱいって状態だわ」
涼一は土屋を指さした。
「いや感謝しろ言ったじゃん」
土屋がコーヒーを飲む。
「寝ても覚めても──ふああああ……ごちそうさまあああ……」
爽花がおかしな声を出す。
「腹いっぱいのやつより先にごちそうさまするんじゃねえ」
「話が意味分からん方向に行ってるよ、鏡谷くん。──んでさやりんちゃん、睦っち先生かと思ったら違ってて、何か問題だったの?」
土屋が少し身を乗りだして尋ねる。
「それ! ──りょんりょんってば土屋さんと一晩すごしてのぼせちゃんてんだ、もう! 話聞いて」
「聞いとるわ。さっさと話せ」
涼一は返した。
「──睦っち先生かと思ったら、まえに倶利伽羅剣が拓海ちゃんの部屋にあるって教えに来てくれた女の人だったの」
涼一は目を見開いた。
顔を上げて土屋と顔を見合わせる。
「行員さん?!」
「行員さんか?」
どちらからともなくそう口にする。
「どういうことだろ」
「つぎのパシリがこいつになったってことじゃね?」
涼一は、土屋のスマホを指さした。スマホに顔を近づける。
「おめでとうな。今後は俺らと関わるな。健闘を祈る」
「──え? なに? なんかやだ、ちょっとりょんりょん!」
「こんにちは」
とつぜん横から響いた明るい女性の声に、涼一と土屋はほぼ同時に目を見開いた。
二人の横側の席。
イスも置いていなかったテーブルの一角に、セミロングヘアのOLふうの女性がすわっている。
行員の霊池だった。




